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憧れの御曹司が、なぜか私にだけ甘すぎる。けれど私はまだ、あの日の男の子だと気づけない  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第79話 恋敵じゃないと言われるほど、余裕のある女の子は怖い

 待ち合わせに指定されたのは、小さな日本茶カフェだった。


 ホテルラウンジほど格式ばってはいない。

 でも、静かで、上品で、明らかに“話をするための場所”だ。


 私は約束の十分前に着いていた。

 両手で湯呑みを包み込むみたいにして座っていても、指先は少し冷たい。


「ごめんなさい、待った?」

 やわらかい声がして、私は顔を上げた。


 澄香さんが立っていた。

 今日もきれいだった。

 でも、前みたいにただ圧倒されるだけではなかった。

 怖いけれど、逃げないと決めてここに来たからだと思う。


「……いえ」

「ありがとう」

 向かいに座りながら、彼女は静かに言う。

「来てくれて」

 店員さんが注文を取りに来る。

 私はほうじ茶、澄香さんは煎茶を頼んだ。


 数秒の沈黙のあと、澄香さんが先に口を開く。


「最初に言っておくわ」

「……はい」

「私は、あなたの恋敵ではない」

 あまりにもはっきり言われて、私は一瞬だけ言葉を失った。


 恋敵ではない。

 その言葉に少しだけ安心しそうになる。

 でも同時に、それをわざわざ言える余裕が少し怖かった。


「……」

「怖いでしょう?」

 澄香さんが少しだけ笑う。

「そう言われるほど」

 私は正直に頷けなかった。

 でも、顔には出ていたのかもしれない。


「ごめんなさい」

 彼女は続ける。

「いじめたいわけじゃないの」

「……」

「ただ、確認したかった」

「何を」

 そう聞くと、澄香さんは少しだけ真顔になった。


「あなたが」

「……」

「恒星のそばにいる覚悟があるのか」

 その問いは、思っていた以上にまっすぐだった。


「……」

「ただ好きだから一緒にいるのか」

「……」

「それとも」

「……」

「怖くても、それでも隣にいたいと思っているのか」

 私は息を止めた。


 そうか。

 この人は、私を品定めしに来たのではないのかもしれない。

 少なくとも、単に嫌味を言いたいわけではない。

 恒星くんのそばにいる人間として、私がどこまで本気なのかを見たかったのだ。


「恒星は」

 澄香さんが静かに言う。

「優しいから、あまりそういうことを人に求めないの」

「……」

「でも、私は身内だから言うわ」

「……」

「中途半端なら、傷つくのはあの子の方よ」

 その言葉に、胸の奥が少しだけ痛くなる。


 たしかにそうだ。

 私は怖がってばかりで、自分の不安ばかり見ていた。

 でも、恒星くんだって傷つくのだ。

 あんなふうにまっすぐ好きでいてくれる人なのだから。


「……」

「ごめんなさいね」

 澄香さんが少しだけ笑う。

「きついことを言ってるのは分かってる」

「……」

「でも、恋敵じゃないからこそ、言えることもある」

 私は何も言えなかった。

 でも、その言葉はたしかに胸に残った。

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