第69話 誰にも見つからない場所で会う約束は、普通のデートより甘い
その約束をしてから、私はずっと少しだけ落ち着かなかった。
普通のデートより、ずっと甘く感じるのだ。
“誰にも見つからない場所”というより、“二人だけでちゃんといられる場所”。
その言い方が、妙に胸に残っている。
いつもの放課後デートも好きだ。
でも、学校の延長みたいな空気はどこかにある。
今回の約束は、最初から“二人だけ”を大事にする時間だと分かっている。
それが、少し怖くて、すごく楽しみだった。
◇ ◇ ◇
前日の夜、メッセージのやり取りだけでもうかなり甘かった。
『明日、少しだけ遠い駅で待ち合わせでもいい?』
『うん』
『びっくりしないで来て』
『何それ』
『来たら分かる』
『ずるい』
『知ってる』
『どんな服がいいですか』
『栞の好きなのでいい』
『それが一番困る』
『じゃあ、俺が好きそうなの選んで』
『……それも困る』
『でも、ちょっと期待してる』
そこまで読んだ時点で、私は一度スマホを伏せた。
心臓に悪い。
でも、嫌じゃない。
むしろ、その期待を裏切りたくないと思っている自分がいる。
『頑張りすぎない程度に頑張ります』
そう送ると、恒星くんからすぐに返事が来た。
『それが一番うれしい』
『明日、楽しみにしてる』
その最後の一文だけで、私は寝る前までずっと少しだけ顔が熱かった。
◇ ◇ ◇
翌朝、私はいつもの休日デートよりも少しだけ時間をかけて支度をした。
頑張りすぎない程度に頑張る。
それが今回のテーマだ。
眼鏡はそのまま。
髪はやわらかくまとめる。
服は、あまり気合いを入れすぎていないけれど、ちゃんと今日のために選んだと分かるもの。
鏡の前で何度か確認して、小さく息を吐く。
「……だいじょうぶ」
そう言い聞かせてから、私は家を出た。
◇ ◇ ◇
待ち合わせ場所は、少し離れた小さな駅だった。
大きなターミナル駅じゃない。
だから、人の流れもやわらかい。
改札の近くで立ち止まる。
少し早く着きすぎたかもしれない。
そのときだった。
向こうの柱の影から、見慣れた制服ではない姿が見えて、私は反射的に息を止めた。
恒星くんだ。
でも、その隣に、知らない女の子が立っていた。
私は一瞬、何を見ているのか分からなかった。
同年代くらい。
きれいな髪。
姿勢がよくて、品のある雰囲気。
そして何より、彼の隣に立っていても妙に自然だ。
胸の奥が、ひやりとする。
え。
何。
誰。
頭の中で言葉が追いつかないうちに、その女の子がこちらへ顔を向けた。
そして、ほんの少しだけ目を細める。
「……あ」
小さくつぶやいたのは、たぶん私の方だった。
恒星くんも私に気づく。
その瞬間、彼の表情が少しだけ変わった。
驚きと、察した顔。
女の子は、そのまま私をまっすぐ見て、ふわりと笑った。
「あなたが栞さん?」
その一言で、私は完全に固まった。




