表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧れの御曹司が、なぜか私にだけ甘すぎる。けれど私はまだ、あの日の男の子だと気づけない  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/97

第64話 恋人だからじゃない。未来でも隣にいてほしいから好きなんだ

 昨日の“入ってる”という言葉だけでも、十分だったはずだ。


 でも、翌日の私は、まだその余韻の中にいた。

 あたたかいのに、少しだけ信じるのが怖い。

 そんな感覚。


 それはたぶん、今まで“好き”を失う想像ばかりしてきたせいだと思う。

 うれしい言葉をもらっても、どこかでまだ“ほんとうに?”と確かめたくなる。


 でも、その“確かめたい”にきちんと向き合ってくれるのが、恒星くんだった。


   ◇ ◇ ◇


 放課後、昨日と同じベンチ。

 私は座った瞬間に、彼の顔を見て分かった。

 今日は、向こうも何かを決めている。


「栞」

「何」

「昨日の続き、していい?」

 私は少しだけ緊張しながら頷いた。

「……うん」


 恒星くんは少しだけ息を整えてから、まっすぐ言った。


「昨日、“未来に入ってる”って言ったけど」

「……」

「それ、恋人だから言ったわけじゃない」

 私は少しだけ目を見開く。


「……」

「今付き合ってるから、なんとなく未来も一緒って、そういう軽い意味じゃない」

「……」

「栞だから」

 声が低い。

 でも、揺れない。

「未来でも隣にいてほしいと思う」

 その言葉に、胸の奥がぎゅっと締まる。


「今の関係を守りたいから、じゃなくて」

「……」

「その先でも一緒にいたいから好きなんだ」

 私は息を止めたまま、彼を見ることしかできなかった。


 ああ、と思う。

 この人は本当に、逃げないのだ。

 私が怖くて聞けなかったところまで、自分からちゃんと言葉にしてくれる。


「……恒星くん」

「うん」

「それ」

「うん」

「私、かなり弱いです」

「知ってる」

「……」

「でも、だから言ってる」

 彼は少しだけ近づく。

「家とか、周りとか、そういうものがあるのは本当」

「……」

「でも」

「……」

「それがあるからって、栞を手放す理由にはならない」

 その言葉が、私の中の一番こわいところに、まっすぐ届いた。


 手放す理由にはならない。

 その言い方が、どうしようもなく安心をくれる。


「……私」

 声が少しだけ震える。

「逃げたくない」

「うん」

「でも、怖いのはまだある」

「うん」

「それでも」

 私は息を吸う。

「隣にいたい」

 そう言った瞬間、恒星くんの表情がゆっくりほどけた。


「うん」

「……」

「それで十分」

「……」

「いや」

 彼は少しだけ首を振る。

「十分以上」

 そのあと、私は彼に抱きしめられた。

 前より少しだけ強い抱擁。

 でも、苦しくない。

 むしろ、ほどけそうだった心がちゃんと留まる感じがする。


「……好きだよ」

 耳元でそう言われて、私はとうとう目を閉じた。


「私も」

 小さく返す。

「好き」

 言葉にすると、少しだけ震える。

 でも、今の“好き”は前よりずっと落ち着いていて、ずっと深い気がした。


 少しして、恒星くんがそっと体を離す。

 すぐ近くで私を見る。


「……栞」

「何」

「今、キスしたい」

 私は一瞬だけ息を止める。


 額でも、頬でもなく。

 その言い方の意味は、もう分かる。


 怖い、がゼロになったわけじゃない。

 でも今は、その怖さより、彼を信じたい気持ちの方が強かった。


 私は小さく頷いた。

 その瞬間、恒星くんの目がやわらぐ。


 やわらかくて、短くて、でもちゃんと意味のあるキスだった。

 甘い。

 苦しい。

 でも、前よりずっと安心して受け止められる。


 離れたあと、私はまともに顔を上げられなかった。

 でも、嫌じゃない。

 むしろ、胸の奥がじんわりあたたかい。


「……ずるい」

 小さくつぶやくと、恒星くんが少しだけ笑った。

「知ってる」

「……」

「でも、本気」

 その言葉に、私はまた何も言えなくなる。

 でももう、逃げたいとは思わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ