真逆なふたりのお付き合い(優子編)(5)
優子ちゃんの話、第5話です。
「…早すぎました。」
今日は宍戸さんと映画を観に行く日だ。
映画は午後の予定だが、午前中にスポーツ用品店に行く事になったので、店が開く午前10時に待ち合わせをしたのは良いが…
今は午前9時である。1時間前は流石に早すぎる。どれだけ楽しみだったんだ私は。
(…暇を潰さないと。)
当てもなく少しぶらぶらしていると、男の人に話し掛けられた。宍戸さんではない。
「ね、ねえ…少し道を聞きたいんだけど…」
…またか。
「申し訳ありませんが、人を待っていますので。」
「そ、そんなこと言わずに…」
しつこいな。
そう思っていると、別の男の人がこっちを見ているのに気付いた。
(あの見慣れた金髪は…!)
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「…申し訳ありません。」
「いやいや…謝らないでよ。あのオッサンが悪いんだし。」
宍戸さんはそう言ってくれるが、実際に迷惑をかけてしまっているので、申し訳なく感じてしまうのだ。
「私、何故だか絡まれやすいんですよね…今日は目立たない格好をしてきたんですが…」
今日はせっかくのお出かけなので、変な人に絡まれにくい地味な格好で来たのに…
宍戸さんが私を見る。…少し地味過ぎたかな…?
「いや可愛いな。」
「へ?」
…可愛いって言った?今の私を?
沈黙が走る。
黒いキャップに黒縁眼鏡、Tシャツにパンツスタイルはかなり地味だと思ったのだけれども…
「俺声に出してた!?」
「だ、出してました…ありがとうございます…?」
慌てる宍戸さんに、私は全力で無表情を作りながら答える。
は、話を変えよう…!無表情を維持するの、結構キツい…!
「…と、ところで宍戸さん。約束の時間よりずいぶん早いですが…」
「ああ!今日が楽しみすぎて早く来ちゃった!」
「…そ、そうですか…!わ、私も…!」
口が滑った。これでは今日のお出かけが楽しみすぎると思われてしまう。
…いや、かなり楽しみではあったけど…
「奥島さんも?」
「え、映画がですよ!」
慌てて誤魔化す。…嘘を付いてしまった。
実は、宍戸さんとのスポーツ用品店巡りも結構楽しみだったりするのに…
「うん!そうだよね!俺も楽しみ!」
そうやって宍戸さんは笑う。…映画が楽しみ…なんだよね。
「…そ、そうですよね…」
「?」
不思議そうな表情の宍戸さんを見て、私は少し申し訳なく思う。
た、楽しめるかな…?
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結論から言うと、物凄く楽しめた。
あのスポーツ用品店、数ヶ月前に行ったばかりだったが、ラインナップが結構新しくなっていた。
選手のユニフォームモチーフのシャツを見て盛り上がった。私の推し選手のシャツがあったので衝動買いしてしまった。後悔はしていない。
…と、色々楽しんで、今私達はフードコートでハンバーガーを食べている。
「…これは!…食べたあとに体重が気になる味ですね…」
私は期間限定のバーガーを頬張る。美味しいけど…カロリーが…!
「ハンバーガーを食べてその表現する人初めて見た。」
そう言って宍戸さんはテリヤキバーガーを食べる。…そっちも美味しそうだな。
その時、宍戸さんが口を開いた。
「それにしても、意外だね。」
ん?意外とはなんだろう?
宍戸さんは話を続ける。
「いや…奥島さん、ファストフードとか食べたこと無さそうだし。」
ああ、なるほど。自分で言うのもなんだが、結構裕福な家庭の子がこういうジャンクフードを食べるのは意外かもしれないな。でも…
「流石にありますよ。確かに父は社長ですし、人より裕福な家庭ではあると思いますが…父がこのような食べ物を好むんです。幼少期に制限されていた影響…と言っていました。ですので、子どもたちには色々なものを食べさせたいと思ったそうです。もちろん、健康を害さない程度にですが。」
「そうなんだ。…良いお父さんだね。」
「ええ。自慢の父です。」
そう。私の父は色んな事を経験させてくれる。
そのお陰で、私も兄も心から楽しいと思えるものに出会えたのだ。父には感謝しかない。
…と、色々話している内に完食した。
…ちょっと量が多かったな。私は手を合わせる。
「ごちそうさまでした。…って、宍戸さん!時間!」
「あっ!やべっ!」
今日のメインイベント、映画に遅れる!
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無事に映画を見終わり、私達は帰路に着く。
「いやー…良かった…!」
「ええ、終盤のあのシーンは心に響きました。」
宍戸さんの言葉に私は同意する。まるで創作かのような奇想天外なストーリーだった…!
「あれって本当に実話なんだよね?」
「そうみたいですね。実在するサッカーチームの話らしいです。…昔過ぎて詳しいことは知りませんが。」
「多分公徳だったら知ってるかな?あいつサッカーオタクだし!」
「そうなんですね。少し聞いてみたいです。」
「いやー…でも、あいつに聞いたら話が映画より長くなりそうだな…」
「そ、そんなに話すんですね…」
「そう!だからあいつとサッカー談義する時は上手く止める技術が必要なの!」
「なるほど…それで宍戸さんはトラップが上手いんですね。」
「関係無くない!?」
よく使うサッカージョークの1つだ。因みに兄からの評判は悪い。
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「家まで送っていただき、ありがとうございます。」
「いやいや…良いよ。もう暗くなってたしね。」
家に着いた…が、私は送ってくれた宍戸さんと少し話している。
もうすぐ日の入り、空はほとんど暗くなってしまった。
門の近くで物凄く笑顔のメイド…夏織が立っているが、気にしない。今は会話に集中する。
「奥島さん。今日は楽しかったよ。一緒に観に行ってくれてありがとうね。」
「い、いえ…私も楽しかったです。…ありがとうございます。」
私がお礼を言うと、宍戸さんは何かを言いたそうにこっちを見た。
恐る恐る話し出す。
「ね、ねえ…奥島さん。」
「?どうかされました?」
「…」
「?」
沈黙が走る。
どうしたのだろうか、と気にはなるが、少し待つ…と、宍戸さんは再び話し始めた。
「ま、また…!一緒に出掛けても…良い…かな…?」
…なんだ、そんなことか。
答えはもう決まっている。
「ええ、良いですよ。」
「…え?」
「ですから、良いと言ったんです。また遊びましょう。」
「…」
「…?宍戸さん?」
「…よっしゃーっ!」
急に宍戸さんが叫び出した。…びっくりした。
宍戸さんは嬉しそうに私に話し掛ける。
「ありがとう!また会おうね!」
「え、ええ…また…」
そう言って私達は別れた。
宍戸さんはスキップしながら帰っていった。
…そんなに嬉しいんだ。
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私の部屋に帰る途中、夏織が普段見ないような笑顔で話し掛けてくる。
「よかったですね。お嬢様。」
「…何が?」
「宍戸さんに誘ってもらった事ですよ!デ・エ・ト!」
「デートじゃない!お出かけ!」
「いやいやいや…お嬢様。あの宍戸さんの態度を見たでしょう?あれは完全にデートのお誘いですよ!」
「そ、それは…!」
さっきの宍戸さんの態度を振り返る。
…
「お嬢様。頑張って無表情を作ろうとしているの、バレバレですよ。」
「~~!」
私は夏織の背中を拳で叩く…が、ポコポコといった擬音しか出なさそうな威力だ。
(力が…力が欲しい…!)
そう思いながら、私は部屋に着くまで夏織の背中をポコポコ叩き続けるのであった…
夏織の表情は恍惚としていた。ぐぬぬ…!
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時は経ち、私は2年生になった。
あのお出かけの後、宍戸さんとは特に何もなく、普段の日常を過ごしていた。
ちょこちょこMANEは するものの、お出かけには至っていない。シンプルに忙しすぎた。
今日も大会と言うことで、マネージャーの私は先程まで大忙しだった。
後片付けも一段落し、コートの周りを歩いていると、遠くに宍戸さんが見えた。
(話せるかもしれない…!)
そう思い、声を掛けようとすると、宍戸さんの近くに他校の女の子が現れた。かなり可愛い子だ。
私は少し離れたベンチに座り、聞き耳を立てる。
うっすらとだが、声は聞こえる。
「わ、私!宍戸さんのファンなんです!」
ファン!?…いや、確かに宍戸さんはここらのサッカー好きにとっては割と有名人だ。しかも…み、見た目も…その…良いし…
私が1人で勝手にモジモジしていると、女の子が大きめな声で宍戸さんに話し始めた。
「あ、あの!私!宍戸さんのことが好きなんです!付き合ってください!」
…えっ。
こ、公開告白!あれは周りの目があるから断る時に勇気がいるのに…!
私普通に断ってたな。
…宍戸さんはどんな返答をするのだろう…
聞こうと思ったが、チームメイトに呼び出されたので、退散することにした。
…き、気になる…!
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我がチームの用事が終わり、会場を歩いていると、宍戸さんを見かけた。私は駆け寄り、話し掛ける。
「あの…」
「あん?」
普段では見ないような鋭い目付きで私を見る宍戸さん。少し驚いてしまった…が、今度は宍戸さんが驚いた表情をし、柔らかい目付きになる。
「うえっ!…ひ、久し振り…奥島さん。」
「お久し振りです。宍戸さん。」
「…」
「…」
沈黙が走る。
(ど、どうしよう…あの女の子の事、聞いても良いのだろうか…?恐い、けど、聞きたい…)
頭の中で思考がぐるぐる回る。
…よし!聞こう!
「あの…さっきの女性…可愛かったですね。」
「え?…えーと…初々しかったね。」
初々しかった?あの公開告白はむしろ狡猾かと思ったけど…
…少し言葉が強かった。反省。
私は気を取り直して宍戸さんに話し掛ける。
「…まあ、良いです。それで?どうされたんです?告白の返事は…」
「ああ、断ったよ。好きな人がいるって。」
「へ?」
ま、待って欲しい。一旦冷静になろう。
とりあえず、断ってくれてほっとした自分がいる。
そ、それはそれとして…好きな人…
私だったら良いな…
…今私は何を思ったのだ?
マズい。焦りが表情に出てしまう。
わ、話題を変えよう…!
「ま、ま、ま、まあ、それは良いとして…宍戸さん。少し落ち込んでます?」
「え?…わかる?」
「ええ。宍戸さんは分かりやすいですから。」
そう。先程から宍戸さんは何か落ち込んでいる。
告白を断ったことに対する負い目なのか…
「その…俺、奥島さんに結構ヤバいことしてたんだなーって思ったら…ちょっと気落ちしちゃって…」
良かった。あの時の事か。だったら問題ないや。
「ああ、そう言うこともありましたね。終わったことですし、特に気にしてません。」
「そ、そうなんだ…良かった…!」
「それに…」
「それに?」
失言した。
危ない…私は宍戸さんに一目惚れしてからずっと好きだなんて、今言ってしまったら大変なことになってしまう。主に私の心が。
宍戸さんは不思議そうな顔をしている。わ、話題を変えなければ…!でも、新しい話題が無い…!
あっ
「い、いえ…何でもありません。それより、宍戸さん。」
「どうしたの?」
私は位を決して伝える。前々からひっそり計画していたことを…
「…あの。全中が終わりましたら、一緒に国体を観に行きませんか?」
「え!?良いよ!…あっ!でも…遠いな…」
そう。今回の会場はこの街からかなり離れている県だ。
しかし、私の計画に抜かりはない。
「あ、そこは大丈夫です。父が送ってくれますので。」
そう。私はあらかじめ父に相談していたのだ。父は二つ返事でOKをもらえた。事前に兄から宍戸さんについて聞いていたのも大きいだろう。
「ああ、それは安心だね。…ん?」
「?どうしましたか?」
「あっ…いや、良いんだ。奥島さんがそれで良ければ。行こう!」
宍戸さんは何か驚いていた様子だったが、すぐにOKをくれた。よしっ!
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当日。私は父の車の助手席に座っている。かなり眠たい。
楽しみすぎて寝不足になってしまった。メイドの夏織以外には秘密だ。
私は鼻唄を歌いながら運転する父に話し掛ける。
「お父様、くれぐれも宍戸さんに失礼の無いようにお願いしますね。」
「大丈夫大丈夫!分かっているよ!いやー楽しみだな!志郎から話は聞いているけど、金髪でサッカーにはかなり真面目な子なんだって?」
「…お父様はどこまで聞いてます?」
「ん?えーっとね…優子が一目惚れしていて、再会したと思ったら急に公開告白、少し冷めるものの、話していく度に好意が溢れかえっていった。そして…」
「もう充分です。最初から最後までじゃないですか。」
そうやって父と話していると、待ち合わせ場所である駅が見えてきた。うっすらと宍戸さんらしき人も見える。
駅の近くに車を停めると、宍戸さんがこっちに気付いたのか、駆け寄ってきた。
宍戸さんが挨拶をしようとした瞬間、父が勢いよく宍戸さんに話し掛ける。
「あ!君が宍戸君だね!優子と志郎が言っていた…お!本当に金髪だ!お揃いだね!…僕は奥島 優貴!よろしくね!」
「は、はい…今日はよろしくお願いします。」
マズい。宍戸さんが父の勢いに圧倒されている。助け船を出さねば。
「お父様、宍戸さんが驚いています。あまりグイグイ話し掛けないでください。」
「おお!悪い悪い!じゃ、後ろに乗ってくれ!」
宍戸さんは父の勢いに圧倒されながらも、車に乗り込んだ。
家の車のシートに感動していた。…少し可愛いかも。
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今日は素晴らしい1日だった。
先ずは車の中で行われたサッカー談議。
かなりマイナーな話もしたが、宍戸さんは難なく付いてきた。
少なくとも、私の周囲にいるサッカー好きで最高クラスに詳しい人だ。物凄く楽しかった。
そして現地での試合…!縁もゆかりもないチーム同士の対戦だったが、手に汗を握る戦いだった…!
試合後、私は興奮冷めやらぬ内に宍戸さんに話し掛ける。
「す、凄かったですね!」
「うん!今年もハイレベルだった!俺も来年は…!」
宍戸さんは拳を握りしめる。
宍戸さんの実力を考えると来年は選ばれてもおかしくない。
私が密かに期待をしていると、父が宍戸さんの肩を抱いて私に話し掛けてきた。
「ごめん優子、少しの間宍戸君を借りるね?」
…またか。
去年は兄がこうやって宍戸さんを連れ出していたな…
「へ?」
宍戸さんは鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を見せた後、私の方を振り返った。どうすれば良いのか分からないのだろう。
…可愛い。
かなり焦っている表情を見て、少しキュンときてしまった。危ない危ない。
私は努めて冷静に返す。
「ああ、はい。良いですよ。」
「ありがとう!じゃ、行こうか、宍戸君。」
「は、はい…」
そうやって父と宍戸さんはベンチの方へ歩いていった…
全く…親子揃って…
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「それで?お父様。宍戸さんに何を言ったんです?」
宍戸さんを駅まで送り届けた後、私は2人きりになった車内で父に話し掛ける。
「いやー…それは言えないよ!男同士の話!」
…やはり話してくれないか…
どうやら父も兄も、「男同士の会話」が好きらしい。
「…まあ、良いです。とりあえずお父様。邪魔だけはしないでくださいね。あと、本人はなにもしていないのに『やっぱり相応しくないからムリーッ!』とか言うのもですよ。」
「元よりそのつもりだよ。」
「だったら良いです。」
「…優子。」
「どうしました?」
「…良い男を見つけたじゃないか。」
「見る目だけはありますから。」
「…娘が頼もしくなって、父さんは嬉しいよ。」
そう言って父はゆっくりと我が家に車を走らせていった。
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家に帰った後、私は1枚の写真を眺める。
父が撮ってくれた、私と宍戸さんのツーショットだ。
「ふふ…ふふふふ…」
私は1人部屋でニヤケながら写真を眺めるのであった…
次へ続く!
次回!優子ちゃん編、最終回!だけど、『真逆』シリーズはもう少し続きます!




