真逆なふたりのお付き合い(優子編)(3)
優子ちゃんの話、第3話です。
今日は合宿。私達欧天中と藍丹中は毎年、地区の新人戦の直前に合宿を行う。
主な目的は新チーム初の公式戦前の調整と、同地区のライバル同士の交流だ。
(今日こそは連絡先を…!)
国体の日、私は運良く宍戸さんに会うことができたが、連絡先を聞くのをすっかり忘れていた。
同地区とはいえ違う中学、この機会を逃すとまたしばらく関わりを持てなくなる。
(この合宿で、連絡先を聞いて見せる!)
私は密かに決意をするのであった…
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(とはいえ…忙しい!)
夏休みに合宿は経験しているものの、やはり合宿というものは忙しい。
しかも、宍戸さんは相手チームのスタメン。マネージャーが簡単に会える相手じゃ無くなった。
(少し…寂しい…かも?)
寂しい?
…なるほど。最初は嫌だったあの絡みも、今ではすっかりお馴染みになっていたんだな…
「…よしっ!」
いつまでもくよくよはしていられない!
頑張るぞ!
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(あ、あの人達は…)
部室棟の近くで作業していると、2人の男子生徒を見つけた。
(確か…藍丹中の福谷さんと柳木さん。)
坊主頭の福谷さん、茶髪の長身の柳木さんが部室棟の近くにいた。まだ練習中のはず…
(なんか…イラついている?)
そう思っていると、福谷さんが私に近付いてきた。
「お疲れ様です。休憩ですか?秋になったとはいえまだ暑いので、熱中症には気をつけてください。」
私がそう言うと、福谷さんがダルそうに私に話しかけてきた。
「ん?ああ…欧天中のマネージャーか。…なあ、暇だろ?合宿抜け出して遊びに行かね?」
は?何を言っているんだ?この人達。
多少傲慢な所はあったけど、こんなことを言う人ではないはず…とは言え。
「お断りします。暇ではないので。」
「はあ?俺達の言うこと聞けないの?」
「聞けません。早く練習に戻ったらどうです?」
「なんだと!」
私が断っていると、福谷さんは怒って私の腕を掴んだ。
「ちょ…!止めてください!」
「何で…何であいつらは良いのに…!クソッ!」
「…?あいつらって…?」
誰のことだろう…それより。
(…思っていたより強く無い。)
腕は掴まれているものの、ほとんど力が入っていない。私の力でもすぐに振りほどけそうだ。
(もしかして…)
「おい!何をやってんだ!」
宍戸さんが私と2人の間に入ってくれた。私は手を振りほどいて宍戸さんの後ろにサッと隠れる。
宍戸さんは2人に話し掛ける。
「どうしたんだよ2人とも。」
「どうしたもこうしたもねーよ!」
そう叫んだ福谷さんは、続けて話し始める。
「俺が仲良くしようと話したらよ、つっけんどんな態度をとってくるから…」
「それで、腕を掴んだと…?」
宍戸さんはゆっくりと話す。その声色には怒気が含まれているのは明らかだった。
「そっ、そうだよ!マネージャーなんだから大人しく言うことを聞けば良いのに…」
柳木さんの言葉を聞いて宍戸さんは「は?」と低い声を出した。
(…?何か違和感が…)
「先輩!こっちです!」
向こうから声がした。この声は…
「公徳!」
大宅さんが藍丹中の先輩を呼んでやって来た。
「宍戸!欧天中のマネージャーから話を聞いてな…おい、福谷、柳木。先生と先輩が呼んでいる。話をするぞ。…宍戸、奥島さん、申し訳ないが付き合ってくれ。」
大宅さんはそう言って福谷さんと柳木さんを引きずっていった。
私と宍戸さんは戸惑いながらも着いていくのであった…
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「それで、申し開きはあるか?福谷、柳木?」
恐い。
藍丹中のキャプテン…細田さんがかなり怒っている。普段は優しい顔を見せる人だが、怒るとこんなに恐いんだな…と、ぼんやり考えていると、福谷さんが口を開いた。
「確かに、欧天中のマネージャーに迷惑をかけたとは思います。…けど!それだったら!宍戸だってマネージャーに絡んでたじゃないですか!」
(…なんかおかしい。)
細田さんは私に話し掛ける。
「欧天中の…奥島さん?福谷が言っていたのは本当?」
私は姿勢を整え、細田さんに返答をする。
「確かに、宍戸さんは私によく声をかけてきます。…ですが問題ありません。宍戸さんは必ず人が複数いる場所で話をしますし、何より…宍戸さんは全く手を出していませんでしたから。」
そうだ。宍戸さんは公開告白の時も、その次に会った時も、決して2人きりにならなかったし、一定の距離を保っていた。
…まあ、ウザイとは思ったけど。
「は、はあ?それだけで?」
「重要なことです。言葉だけでしたら軽くあしらえば良いですが、私のような非力な女性を力で押さえつけるような人は危険ですから。」
柳木さんの言葉に、私は返答する。
実際のところ、今の発言に少し違和感があったが、今は触れない。この話が終わった後に顧問に報告しよう。
しばらく沈黙が走ると、藍丹中の顧問が口を開いた。
「福谷、柳木、お前らの処遇は後日俺から言い渡す。まずは、荷物をまとめて家に帰れ。」
その言葉を聞いて、2人は肩を落としながら部屋を出ていった。
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マネージャーの先輩と一緒に宿泊場所に向かう前に、私は欧天中と藍丹中の顧問の元に向かった。
「遅くに申し訳ありません。奥島です。少し時間をよろしいでしょうか?」
「ああ、良いよ。」
うちの顧問の声を聞き、私は部屋に入る。
「それで、話はなんだ?奥島。」
「単刀直入に言います。福谷さんと柳木さん、お2人の処分を軽くしていただきたいんです。」
「…どうしてだ?」
「確かに2人が行ったことは許されることではありませんが…」
私は彼らに対する違和感をできるだけ言語化する。
「普段の自信満々な様子とは違い…何か不安、というか焦りのようなものを感じました。それに…」
私は顧問に腕を見せる。アザなどは全く付いていない、普通の腕だ。
「福谷さんに腕は掴まれていたのですが、ほとんど力が入っていませんでした。」
そうだ。掴んだ瞬間は力が入っていたが、その後急に力が緩んだ。
「それに、柳木さんのあの発言…普段のマネージャーへの態度を考えると、かなり違和感があって…」
そう、普段の練習試合での様子を見ても、マネージャーに対して感謝はすれど、貶す所など見たことが無かった。
私は顧問達にある仮説を話す。
「もしかして…あの2人は何かがあってどうしようもない怒りややるせなさを感じていたのかもしれません。」
そう言うと、2人の顧問はうんうん考え始めた。
しばらく考えた後、藍丹中の顧問が口を開く。
「…確かに奥島さんの話を聞くと、普段の様子とは違うな…2人とは、後日しっかり話をする。処分に関しては今後の2人次第だ。」
藍丹中の顧問はそう言うと、教官室を出た。
どうやらキャプテンを呼びに行ったようだ。暗いから私が1人で宿泊場所へ向かうのを心配してとのことらしい。
欧天中の顧問も、2年生のマネージャーを呼びに行った。
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外はすっかり暗くなってしまった。
私はマネージャーの先輩と一緒に宿泊場所へ行く予定だったが、何故か宍戸さんと一緒に歩いている。どうやら先輩達が頼んだらしい。
しばらく無言が続く。
(今しかない…!)
私は宍戸さんに話しかける。
「宍戸さん、今日はありがとうございます。」
「えっ…良いよ別に。」
「いいえ、言わせてください。私、多少は武道と護身術の心得はあったのですが…実際対面すると全く動けなくて…!」
「…そうだよね。」
「ですので、宍戸さんが来たとき、ものすごくホッとしました。私、2回も宍戸さんに助けられました…!本当に感謝しています。…ですので。」
「ですので?」
「連絡先を交換しましょう。」
よしっ!言えた!
「えっ!?なんで急に!?いや、嬉しいけど!」
「…宍戸さんが困った時に、私が駆けつけられるようにです。決して他意はありません。決して。」
他意は無いとつい言ってしまった…他意しか無いのに…
私が携帯を出すと、宍戸さんも携帯を出した。やった!
連絡先の交換を終えると、宍戸さんは少し申し訳なさそうに話し出した。
「奥島さん…早速頼みがあるんだけど…」
「えっ…何でしょう?」
「大会が終わったら、期末テストだよね?…勉強…教えてほしいなーって…」
へ?勉強?別に良いけど…大宅さんも勉強が出来そうに見えるけど…
「…私は構いませんが、大宅さんではダメなのですか?」
「あいつ理数系しか出来ないんだよ!」
「…そうなんですね。良いですよ。大会が終わったら、勉強会をしましょう。」
「やった!公徳も呼んでやろう!あいつも成績上がるから喜ぶぞ…!」
「お、大宅さんも一緒にするんですね…!」
…2人きりになれるチャンスだったのに…
「?」
「い、いえ…なんでもありません。」
不思議そうに見る宍戸さんに対して、私は誤魔化す。
そうこうしている間に、宿泊場所に着いてしまった。
少しの沈黙がはしる。
「…では、また明日。」
少ししか話せなかった私を見て、宍戸さんは微笑んだ。
「…うん!また明日ね!」
宍戸さんはそう言って、自分の宿泊場所へと走っていった。
(目標達成!)
(…次は、対面でもっと話せるように頑張ろう…!)
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その後、合宿は無事に終わり、私は家でサッカーの動画を見ている…が、つい目線が携帯の画面を向いてしまう。
携帯の画面には「宍戸 涼平」と名前がある。
「ふふ…」
思わずこぼれる笑みを押さえながら、私は余暇を過ごすのであった…
次へ続く!
優子ちゃんは中々強い子です。




