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真実

 暴れるドラゴンを前にしながら、ジャックは無表情で大鎌を構えている。そして、神聖魔法の力は最大まで溜まり、渾身の一撃を放つ準備が整った。


「もしお前が人間なら、その罪状を把握してどう処刑するのがいいか考えるが、お前は死に損ないの大トカゲ。そんで今回は処刑じゃなく討伐」


 ジャックは大鎌を強く握りしめる。


「だが相手が何だろうと、使命は変わらねぇ。女神様に代わって、このジャック・ヘテロフィルスがお前の魂を救ってやる。頼むから、今度はわりぃヤツになるなよ。でなきゃ、俺の行動に意味がなくなっちまう」

「シャルロット、下がって」

「え?」


 イリスはシャルロットの手を掴み、後方へ退避した。


「さらば大トカゲ。良き魂に生まれ変わらんことを」


 ジャックは大鎌を思い切り振る。すると、光り輝く大きな斬撃がドラゴンめがけて飛んで行った。


「あの技!······さっきの部屋で甲冑を吹き飛ばした」

「ジャックの技だよ。これより威力は控えめだけどね」


 斬撃はドラゴンの胴部に衝突。対するドラゴンはそれを受け止め、黒いオーラを強めて斬撃をかき消そうと粘る。


「やるなぁ、アンデッドなんざ秒で消し飛ぶ大技なんだが······」

「でも、かなり効いてるね。少しずつだけど、斬撃が食い込んでいっているし、黒いオーラも弱まってきている。何もしなくても、あとは時間の問題。コイツが消えればもうここに用はない」

「ねぇイリス、このドラゴン結局何者なの?」


 シャルロットが尋ねる。


「わたしの立場上、あまり詳しいことは言えない。一つ言えるのは、コイツがこの国を脅かす危険な存在であるということ。あなたは、それだけ理解してくれればいい」

「そう······」

「ここはもうじき、何もないただの古びた遺跡になる。わたし達の目的は達成され、あなた達も依頼主に良い報告ができる。お互いwinwinでハッピーエンドってわけ······!?」


 イリスは会話を止め、後ろを振り返った。ほんの一瞬、不思議な気配を感じとったからだ。感じたことがあるようでないような違和感。しかし後ろは、ルベルが壁際に座り込んでいるだけで、特に異変は起きていなかった。


「どうかした?」

「······なんでもない」


 イリスは再び前を向く。ドラゴンは未だ斬撃に抗い続けている。ジャックは、いつでも追撃ができるよう構えをとっている。


 イリスの中には、違和感が残ったままだった。感じ取った謎の気配が不安を増幅させていく。イリスの脳のリソースは全て、謎の気配のために使われていた。


(ドラゴン以外にアンデッドはもういない。新手の敵? いいや、もしそうならラヴィーナがとっくに気付いている筈。なら、やっぱり気のせい······っ!)


 次の瞬間、ラヴィーナより未來視の内容が共有された。イリスは困惑し迷った。共有された内容が想像の斜め上をゆくものだったからだ。だがそれでも、その未来を回避するためにすぐに行動をとる。


「ちょっ、イリス? アンタ何して······」


 イリスは手に魔力を集中させ、光弾を放つ構えをとった。その矛先は、ルベルへと向けられていた。


 *


 時は少々遡り、ルベルが旅立ってから一週間後。フロース領、アクイレギアの屋敷。


 ルベルの師サルバス・ガラニチカは、半年ぶりに屋敷を訪れていた。


「珍しいねヒューゴ。君の方から私を呼ぶだなんて」

「お前に、どうしても聞きたいことがあってな」

「ルベルのことかい?」

「ああ。お前の口から直接聞きたいんだ」


 ヒューゴは、サルバスを部屋へと案内した。部屋にはヒューゴ、サルバスの二人だけだ。


「君が聞きたいことは分かっている。前に言っていた違和感というやつだろう?」

「ああ。時折、あの子からほんの一瞬不思議な気配を感じることがあった。お前がルベルに魔法を教えた日を境に、その気配が強くなっていくのを感じていた」


 サルバスは紅茶を啜り、落ち着いて話を聞いている。


「優しく包み込むような心地よさがあり、それでいて不気味さを孕んだ気配。、悪いことではないから安心しろと言っていたな。答えてくれサルバス、あれは一体なんだ?」


 サルバスはティーカップを置き沈黙した後、口を開いた。


「あれは、彼の努力が実を結んだ証だ」

「? ルベルは炎魔法の使い手だろう? それと謎の気配になんの関係があるというんだ」

「炎魔法は単なる副産物にすぎない。彼が修練の末に得た力は闇魔法だよ」

「闇魔法······だと?」

「数百年前この国で、女神ドラセナの信仰が広まる前に使われていた魔法だ。あらゆるものを呑み込み消し去ってしまう。神聖魔法と対をなしていて、最も癖が強く超緻密な魔力操作が求められる。女神の信仰が広まり神聖魔法が普及したことで、すっかり希少な魔法になってしまった。今では使用者はおろか、存在を知る者すら殆どいないだろう」

「······」


 予想外の答えにヒューゴは困惑していた。だが、サルバスはお構いなしに話を続ける。


「現代において、この魔法が発現する条件は二つある。一つは、過去に大きな精神的ダメージを負った経験があること。もう一つは、体内の魔力の流れが異常に整っていることだ」

「······1つ目は分かる。ウィオラのことだろう。だが二つ目はピンと来ないな。あの子は、お前に出会うまで魔力を使ったことなど無い筈」

「私も最初は分からなかった。だが、ルベルから話を聞いて確信した。原因は祖父アルノルフォ氏だ」

「父上が!?」

「聞いたところによれば、彼と共に裏手の森で瞑想をするのが習慣化していたそうだよ。それも、物心ついたころから彼が亡くなるまで。それによって魔力の流れが整えられ、無意識の内に魔力操作のコツを掴んだのではと私は考えている」


 説明を聞いたヒューゴは納得していた。だが同時に、疑問の表情が浮かぶ。


「では何故、最初から闇魔法を教えなかった?」

「私が使えないというのもあるが、一番はやはり癖が強いから。いくら魔力操作が上手いといっても、一歩間違えれば己や周囲を危険に晒しかねない。そもそもあれは、長い修練を経てようやく会得する魔法だ。初心者にやらせるもんじゃあない」

「······炎魔法が副産物というのは?」

「闇魔法には、使用者の最も適性の高い魔法の力を、過剰に引き出すという特性がある。ルベルが、最初から炎魔法を強く使えたのはこの影響だ。だから私は、炎魔法を教材として利用した。魔法の何たるかを知り、基礎を固めるためのね」


 サルバスは再び紅茶を啜る。少し冷めているが、喉を潤すには十分だ。


「さて、話せるのはこれで全部だ。理解してくれたかな? ヒューゴ」

「ありがとう、サルバス。まだ頭が追い付かない部分はあるが、説明は理解出来た。だが不安はある」

「何だい?」

「お前のような指導者がいない環境で、癖の強い闇魔法を自力で使えるようになるのか?」


 サルバスは余裕の表情でクスッと笑う。


「問題ない。時間と経験が全て解決してくれるさ」


 その後、互いの近況を話した後、サルバスは屋敷を後にした。


 ヒューゴは謎の気配の正体が判明し安堵していた。自室に戻り、試験の合格を告げられた受験生のような気分で、温かい紅茶を飲みながらリラックスしている。


 今の彼に出来るのは、ルベルの無事を祈りただ帰りを待つことだけだ。

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