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決して明るい曲という訳では無かった。
けれど、自然と体がリズムを取るような、本人と同じく目を引く、では無いけれど、夢中にさせる曲。
「いい曲……」
「だねぇ」
体全身を限界まで動かして振り回して、細い足がもつれながらそれでも止まることなく曲に食らいつく。
長い髪が汗で顔に付こうが、歌声が掠れようが止まらない。
正直見ていてハラハラしなくも無い。
それは観客も同じなのか、歓声があがる訳でも無く、ただじっと彼女を見ている。
誰もがその姿を目に焼き付けていた。
サビ前に曲がゆったりとして、彼女もピタリと止まる。
止まるはずなんだろうけど、息切れしていて肩で呼吸している。
不意に、そう、不意にだった。
彼女は俯きていた顔を上げて微笑んだ。
慈愛満ちた様にも、とても楽しいことがあったようにも見える笑顔を見せつけられた私達は、今日1番の歓声を彼女に浴びせかける。
それがきっかけになったように、エンジンが再始動したように、ギアが上がる。
より激しくラスサビに入った。
私も立ち上がって食い入るように見ていた。
涙で彼女が滲んで見える。
そして踊りきった彼女は、再び微笑み、倒れた。




