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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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012 スライムと別のスライム

 二階層。入ったばかりで変わった様子は特に見られない。

 少なくともアズラットの見る限り一階層と大差ないように見える。

 そもそも、地続きなのに階層が別と言うのもまた奇妙な感じである。

 まあ階層と言うのは単に表現的な物なのかもしれないが。


(……魔物はみないな)


 二階層に来たばかりのアズラットは特に周囲を見回すように確認しても魔物がいるようには見えない。

 あくまでアズラットのいる場所が二階層と一階層の境目と言うのも大きいだろう。

 魔物は基本的に縄張り意識があるのか、他の階層に出張ると言うことは少ない。

 全く他の階層にその階層とは別の魔物がいないというわけではない。

 ただ、それ自体はかなり珍しいことである。

 二階層に一階層の魔物が入ることはなく、一階層に二階層の魔物が入ることはない。

 ただ、アズラットは少々例外的な事例で二階層に侵入しているが。

 実際にはアズラットのような事柄はそこまであり得ないことではない。

 これには一部の魔物の特殊性が理由になる。

 例えば知性の高い魔物、頭のいい魔物が生まれることがある。

 また、種族的に頭のいい魔物などもいる。

 具体的に言えば、エルフや吸血鬼などだ。吸血鬼はともかくエルフが魔物なのか? 魔物である。

 厳密に言えば、この世界にいる人間以外の人型種族は基本的に魔物である。

 人魚エルフ獣人、全部魔物である。

 そういった知性の高い魔物は迷宮内でも生まれることがある。

 それらの魔物は果たしてずっと迷宮内にいるのか?

 その中の一部は外に対する憧れを持っていたり、迷宮内でずっと生活するのに退屈をした魔物は外へと出たいと言う欲求を持つ。

 別に魔物がそういった欲求を持つと言うわけではなく、単に好奇心などの感情でそういった物を持つのである。

 そういった魔物は階層を移動する。

 まあ迷宮の浅階層というのはそういった頭のいい魔物はほぼいない。

 なのでそういった魔物は下の方から上へと上がってくるのである。

 場合によってはそれ自体で危機報告がされるほどの事態である。


(……人か)


 アズラットの構造把握による近くに人の気配が引っかかる。

 アズラットは近くにあるスライム穴を探す。

 そして、人がいなくなるまでその穴に隠れることにした。


(…………先客がいたな)


 スライム穴にはその階層のスライムが存在した。

 暗がりなので分からないが、どこか色が違う。

 そしてそのスライム穴で人が過ぎ去るのを待った。

 二階層も一階層と変わらず通り道に近い状態である。


(よし、行ったな。さて外にでっ!?)


 体に触れ、削り取られるような感覚。

 スライムに痛覚はない。味覚もない。触覚もない。聴覚もない。嗅覚もない。

 視覚は少しあるが、スライムには人間の持ち得るようなほとんどの感覚が存在しない。

 一応構造把握は触覚を用いた感覚に近いが、別に触覚と言うわけでもない。

 振動の感知なので近い所はあるかもしれないが。

 そもそも触覚や味覚があった場合、スライムの食べるものを考えるとアズラットにとっては地獄に近い物だろう。

 さて、それはさておき、一体アズラットに何が起きたのか?


(なんで!? スライムがなんで!?)


 スライム穴の中から逃げ出すアズラット。

 アズラットを襲ったのは一緒になったスライムだった。

 外に出たアズラット。

 未だに何故スライムに襲われたのか困惑し、一体何があったのかを知りたがっている。

 のそりとスライム穴からアズラットを襲っただろうスライムが出てきた。


(……黄色? 色違いのスライム?)


 そのスライムはアズラットのスライムの色合いとは違った色合いをしていた。

 黄色のスライムである。


(っ? 他のスライムも……っていうか、全部が黄色のスライム? この階層のスライムは黄色のスライムなのか)


 イエロースライム。スライムと呼ばれる存在は様々な種類が存在する。

 その特性に合わせた種が殆どではある。

 だが、基本的に、スライムと言う存在はその色で区分されていることが多い。

 特に色が強く表れない水っぽい感じの色合いのスライム、黄色のイエロースライム、赤のレッドスライム、緑のグリーンスライム。

 他にも多種多様な色合いのスライムがいる。

 そして、それらの各色のスライムはまたスライムとは別種のスライムなのである。


(……ちょっと待て。何か囲んできてないか!?)


 じりじりとイエロースライムたちはアズラット囲むように近づいてきている。

 スライムは基本的に同種のスライムを襲うことはない。

 この同種、というのはスライム種であるというわけではない。

 本当の意味で同じスライムの種族であるというのが同種、と言う意味合いである。

 つまりスライムとイエロースライムは同種ではない。

 これに関しては進化種も同種としては扱われないようだ。ただ、進化種の場合少し性質が違う。

 進化種の場合、下位のスライム……進化段階よりも下のスライムからは恐れられ逃げられる。

 なので襲われるということはないようだ。まあ、それはあまり重要なことではないだろう。

 重要なことは、今イエロースライムの縄張りである二階層に侵入したアズラットはイエロースライムに襲われかけていると言うことだ。

 スライム種にとって同じスライム種は基本的にお互いに食べ合うことになるので一対一の場合は基本的に不毛な戦いになる。

 だが、流石に複数相手の場合、スライムであるアズラットはイエロースライムの群れ相手に勝てる算段はないと言っていい。

 一応アズラットは圧縮によりそれなりに大きな体を小さくしているが、しかしその体を広げてもイエロースライムの群れには勝てないだろう。

 数の利は向こうの方が上、種族的にも普通のスライムは色持ちのスライムよりも弱い。

 具体的に色持ちのスライムの強さは、イエローが一番弱く、ブルー、グリーン、パープル、レッドと強さが上がっていく。

 そして色の無い普通のスライムは色持ちスライム最弱のイエローよりも弱い。


(スライム穴の中にいた、黄色のスライムには体を齧られた。襲われた。そして今周りを取り囲もうとしているイエロースライムの群れ。どう考えても、これは襲われるに違いない! っていうか、スライム穴の中で実際に食われた! やばい、逃げないとやばい!)


 逃げたいが、同じスライムでもスライムとイエロースライムではイエロースライムの方が微妙に格上である。

 それは戦闘能力や種のレベルとしても、そして当然移動速度も。

 囲まれる前に逃げたくても逃げ切れる可能性は低い。


(体を囮に……!)


 すぐさま逃げられない可能性に思い至ったアズラットは自分の体の圧縮を解放する。

 アズラットの圧縮により小さくされていたからだが膨れ上がるように大きくなる。

 大きくなると言ってもそこまで極端なものではない。

 しかし、体の一部を取り残してもなんとか逃げられる程度には大きくなったことだろう。

 それに大きくなった分、移動も多少速くなった。

 小さな体を伸ばすよりも大きな体を伸ばす方が早いし広い。

 アズラットは大きな体を移動させ、逃げるように二階層を後にする。

 それにイエロースライムは追従し、その体を削っていく。

 だが一階層と二階層の境界を越え、完全に一階層に逃げ切った後は流石に追っては来なかった。

 そして、一階層に戻りイエロースライムを振り切ったアズラットはその体を元に戻す。


(ふ、ふう…………はあ…………は、あ、はっ…………)


 心の中で疲れたように息を吐くアズラット。

 実際の体があれば普通に息を吐いていたことだろう。

 肉体的な疲れはなくとも、精神的な疲れは本当に大きかった。

 それほどまでに死の恐怖が間近だったのである。

 だが、そうなる危険性に関してはアズラットはわかっていたはずだ。

 なぜならアノーゼに忠告されていたからである。


(ちゃんと、聞いて止めておくべきだったな)

『そうですね。私はきちんとアズラットさんに言いました。でも、聞いてはくれなかったんですね?』


 ぶるりとアズラットの体が震えたように見えた。

 アズラットの心に響くアノーゼの声。

 それはとても怒っているように聞こえたからである。

 今、アノーゼの説教がアズラットに炸裂する。

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