一発芸を披露せよ③
ついにやってきた、異能力の実技演習・レクリエーション発表当日。
体育館に集まった生徒たちは皆、一週間の猛練習の成果を披露するべく、緊張と興奮が入り混じった表情で出番を待っていた。
もちろん、ユリアナ、シオン、サクラの三人組も準備は万端(?)である。
度重なる大惨事の結果、歌もダンスも壊滅的なシオンの役割は、演出の最後に「ポーズを決めてテレポートするだけ」という、究極の「置物(美形)」作戦に落ち着いていた。
「シオン、君との能力の相性が良ければ是非組みたかったよ」
不意に声をかけてきたのは、男子グループを率いる第一王子・レオハルトだった。
「そりゃどーも」
シオンは所在なさげにそっぽを向く。
「ところで……どうしたんだい、その格好は。まるで、どこかの高貴なクジャクのような衣装だが……」
レオハルトがシオンの全身をまじまじと見つめ、引きつった笑みを浮かべる。
シオンが身にまとっていたのは、サクラが能力で仕立てた色鮮やかなグリーンの燕尾服。そして背中には、なぜか巨大でファンタジックなクジャクの羽の装飾が燦然と輝いていた。
「……サクラさんとユリアナに無理やり着せられたんだよ」
恨めしそうなシオンの横から、ユリアナが親指を立てて乱入した。
「おー! 似合ってる、似合ってる! めっちゃ最高だぜ!」
「……ユリアナさん? 言葉遣いが、少々荒ぶっていらっしゃるけれど……?」
レオハルトに眉をひそめられ、ユリアナはハッと我に返った。
(ヤベっ! 本当に最近、気が抜けると素の男(英二)が出ちまうな……!)
「お、おほほ! とってもお似合いですわ、と申し上げたのですのよ、レオハルト様♥」
何とかお嬢様スマイルで誤魔化したものの、冷や汗が止まらない。
そこへ、トボトボと歩いてきたサクラが、青ざめた顔で合流した。
「あの、皆さん……。順番決めのジャンケン、全敗しました……。うちの班、一番最初です……!」
「「大丈夫、大丈夫」」
ユリアナとシオンは声を揃えて、死んだ目をしているサクラを慰めた。
「それじゃあ、サクラさんのグループから発表を始めようか!」
フィリップ先生が壇上で手を叩き、デッキの再生ボタンを押した。
体育館のスピーカーから、オーケストラによる壮大でファンタジックなイントロが流れ始める。
観客席の生徒たちが一斉にステージに注目した。
サクラがすっと前に出て、両手を大きく広げる。
「――咲きなさい!」
サクラの放った魔力が床に染み込んだ瞬間、体育館の板張りを突き破るかのように(※フィリップ先生の許可済み)、一本の巨大な桜の樹木が一気に急成長して生い茂り、満開の花を咲き乱れさせた。
「おぉ……!」
観客席から大きなどよめきが上がる。
続いて、ユリアナが前に躍り出た。
「はっ!」の掛け声とともに、ユリアナの『分身』が発動する。
一人、二人、四人、八人――!
あっという間に、見た目も衣装もまったく同じユリアナが大量に出現し、桜の木を囲むように、一糸乱れぬバックダンサーさながらの華麗なダンスを踊り始めた。
「すごい……!」
「本当にプロの舞台を見てるみたいだ!」
予想以上のクオリティに、生徒たちも思わず身を乗り出して見入る。
やがて、音楽が最高潮のラストスパートを迎える。
「いまだ、シオン様!」
ユリアナたちのダンスの合間を縫って、サクラが叫んだ。
「任せろ!」
巨大な桜の木のてっぺん、最も目立つ特等席を目標に定め、シオンは胸を張って『テレポート』を発動させた。
空間がぐにゃりと歪み、シオンの身体がステージから消える。
……。
しかし。
「うわあああああああああっ!?」
シオンが転移した先は、予定していた木のてっぺんよりも、さらに上空に五メートルほどズレた**「体育館の天井スレスレの空中」**だった。
「シオン様!?」
サクラの悲鳴が響く。
放り出されたシオンは、なすすべもなく空中できりもみ回転をしながら真っ逆さまに落下していく。だが、背中に背負ったクジャクの羽が光を反射してキラキラと輝き、まるで計算された空中スタントのようにも見えた。
(このままじゃ床に激突する――!!)
パニックになりかけたその瞬間、サクラが本能的に叫んだ。
「伸びてぇぇぇ!!!」
サクラの能力が暴走気味に活性化し、床の桜の木から新たな極太の枝が一瞬でうねるように急成長した。
その枝がまるでトランポリンのクッションのように、落下するシオンの身体を優しく、しなやかに受け止める。
ドサッ。
見事、枝の上に着地。
その着地の勢いで、背中のクジャクの羽がハラハラと数枚舞い散り、スポットライトに照らされて美しく輝いた。
全身冷や汗で心臓がバクバクのシオンだったが、持ち前の「顔の良さ」と「往生際の悪さ」をフル稼働させ、何事もなかったかのようにすっと胸を張って、完璧なキメポーズを作ってみせた。
一瞬の静寂。
そして――。
「「「おおおおお!!!」」」
「すっげぇ! 空中から回転して着地したぞ!」
「あえて高いところから落ちて見せるなんて、なんてスリリングな演出なんだ!」
「綺麗……! まるで森の妖精の王子様みたい!」
体育館中から、割れんばかりの拍手と黄色い大歓声が巻き起こった。
シオンはポーズを決めたまま、引きつった笑みで小さく呟く。
「け、計画通り……」
下でポーズを決めていたユリアナが、笑顔の裏で即座にツッコミを返した。
「嘘つけ」
何はともあれ、ハプニングを奇跡の演出に変え、三人のレクリエーション発表は大成功で幕を閉じた。
ーーー発表終了後ーーー
「はぁ~……。でも、一番最初で本当によかったわね。心臓が持たないわ」
衣装を着替え終えたユリアナが、ぐったりとベンチに寄りかかる。
「ああ。冷や汗で、衣装の裏がびしょびしょだよ。……でも、他の奴らの発表も凄かったな」
シオンが他のクラスメイトたちの相乗効果抜群のパフォーマンスを思い出しながら、感心したように頷く。
「そうですね……。やはり、能力の相性をちゃんと考えて組んだ方が、もっと安全で良いものが作れるのだと勉強になりましたわ……」
サクラも深くため息をついた。
(((公私混同、ゼッタイ駄目……!!!)))
心の中で固くそう誓い合う三人。
お互いの「恋心」や「推しへのファン心理」を優先して組んだ結果、命がけのスペクタクルになってしまったことを深く反省する、前途多難なアストレア学園の初授業であった。




