洋酒のケーキとキス魔
ユリアナは学園に入学してからも男装を続けていた。
商店街で特注した十五センチ盛りのシークレットブーツにサラシを巻き……子供の頃より男装の大変さは計り知れなかった。
夜、ユリアナは監視の目を盗んで男子寮に忍び込み、忍び足でシオンの部屋に入った。
「見つからなかったか?」
「大丈夫だったぜ。もし見つかっても男装してるから問題ねえよ」
ユリアナはそう言いながら素早く鍵をかけ、シークレットブーツを脱いだ。
「にしても、よくそんなの履けるよな。足、痛くなりそうだけど」
「ヒールにはもう慣れてる」
ユリアナがソファに腰を下ろすと、シオンは照れくさそうに言った。
「それじゃあ……」
彼はテーブルの上に、美味しそうなチョコブラウニーを差し出した。
ユリアナは一口食べて目を細めた。
「うん! すげえ美味い。よくできてるな」
その言葉にシオンは胸を撫で下ろした。
「実家じゃ絶対にできなかったからな。料理とかお菓子作り」
「マジでお前の家、厳しいよな」
「お前も大概だろ」シオンは苦笑した。「ずっとやってみたかったんだ。お菓子作り」
「今度は手芸か?」
「そうだな。いつか自分でぬいぐるみ作れるようになりてえ」
ユリアナは小さく笑った。
「お前、元の世界じゃ相当モテてただろうよ」
「こんな女々しい趣味なのに?」
「そこがモテポイントなんだよ。あと顔もいいし。家政系、意外と得意なんじゃねえか?」
「歌も踊りもダメ、能力もイマイチとなると、勉強と家政くらいでしか活躍できねえからな」
(……あれ? シオンって原作では勉強が苦手だったはずだけど……地頭が変わるもんなのか?)
ユリアナはふとシオンの勉強机に目をやった。そこには使い古されたノートと教科書が山積みになっていた。
「それと、特別にもう一つ……」
シオンは洋酒の香りがするカステラを二人分取り出した。
「これは俺が作ったんじゃないんだけど、学園近くのスイーツショップで見つけて買ってみた」
「わあっ! この体になってから酒飲めなくなってたから、こんな形で味わえるなんて!」
「洋酒入りのお菓子なら未成年でも大丈夫だからな」
ユリアナは嬉しそうに袋を開けた。
―――数分後―――
「ひっく……」
「……まさか、こんなに酔いやすいなんて」
「酔ってねえよ……俺は……二十七歳? いや、五年経ったから……だからよ……」
「はいはい、体は十五歳ですよ〜」
(このまま女子寮に返すわけにもいかねえ。ウィッグは持ってるけど……こんな状態じゃ連れて帰れない。酒が抜けるまでここで寝かせておくのが賢明だ)
「ほら、水飲め」
シオンがコップを差し出すと、ユリアナは突然顔を近づけてきた。
「いや! 口移しがいい!」
「はぁ!?」
ユリアナが唇を寄せてきたので、シオンは慌てて口元を押さえた。
「待て待て待て!! それは結婚してからって約束だろ!」
ユリアナは引くどころか、次は頰に、次は首筋に、そして鎖骨へとキスを落としていく。
(やべえ……酔うとキス魔になるんだった!)
ここで本当にキスを許しては意味がない。
俺はずっと我慢してるのに……!
「何としてでも酔いを覚まさねえと……!」
シオンはユリアナを突き放して部屋の中央へ逃げたが、すぐに追いかけられ、壁際に追い詰められた。
「やっと……捕まえた……ひっく」
「強行突破だぁっ!」
シオンはユリアナの小さな体を軽々と担ぎ上げ、ソファに投げ入れた。
「うぎゃあ!」
すぐに水を飲ませて油断した時、ユリアナが体勢を変え、シオンにまたがってきた。
「ふふーん。お前なんかでっかくなったなぁ、原作のシオンよりも体つきがいいし…ひっく」
ユリアナはシオンの腹筋を触り始めた
「やめろ」
ユリアナは気にせずに触り続ける
「やめろ!」
そうしているうちに、ユリアナこ尻辺りに謎の硬い物体が形成されていった。
「あん?なんか硬いもんが…」
シオンはすぐさまユリアナの脇腹にくすぐり攻撃を仕掛ける。
「ひゃっはっは!ちょっ!やめ…!」
ユリアナは笑い転げ、シオンは足にもくすぐり攻撃を仕掛けトドメを刺した。
ユリアナが笑い疲れて眠りに落ちるまで、かなりの時間がかかった。
シオンは毛布をかけて小さく息をついた。
「寝たか……。じゃあ俺もトイレ行って寝よう」
―――翌朝―――
「ううっ……体が痛え……」
ソファで寝ていたせいか。ユリアナが体を伸ばしながら呟いた。
「ごめん、ベッド使わせればよかったな」シオンが小声で謝る。
「いえ、構いませんわ……つかお前首に跡すごいな」
ユリアナが部屋を出ていった直後、隣の部屋に住むからレオハルト王子が話しかけてきた。
「シオン。昨晩、君の部屋から騒音がしたけど大丈夫だったかい?」
レオハルト王子はシオンの首筋に赤い跡がいくつか付いていることに気づいた。
「あー。ユリアナ嬢を連れ込んでいたのかい」
「そうだけど! 違う!!」




