一発芸を披露せよ②
「えっと、確かユリアナ様は透明化で、シオン様は氷系の能力でしたよね?」
打ち合わせの机を囲み、サクラが何気なく首を傾げて問いかけてきた。
その言葉を聞いた瞬間、シオンは怪訝そうに眉を寄せた。
「は? 違うぞ。俺はテレポートで、ユリアナは分身だ」
(……待て、今なんつった?)
ユリアナこと英二の脳内に、激しいアラートが鳴り響く。
(原作(設定資料集)のユリアナの初期設定は『透明化』で、シオンは『氷結』だったはずだ。なんでそれを、地方の一般人であるはずのサクラが知ってるんだ……? もしかして、サクラも俺と同じ……!?)
「えっ!?」
サクラは目を丸くして絶句していた。
(嘘、嘘でしょ!? 話が違うじゃない! 設定資料集には、ユリアナが透明化でシオンが氷系って書いてあったのに……!)
思わず取り乱すサクラの様子を見て、ユリアナはカマをかけるように身を乗り出した。
「えっと……。サクラちゃんは、生命を与える能力よね。……ゴールド・エ◯スペリエンス的な?」
「そうそう! って――なんでユリアナ様がゴールド・エ◯スペリエンスを知ってるのよ!? この世界にスタンドなんて概念存在するの!?」
「……お前ら、さっきから何の話をしてるんだ?」
シオンがポカンとした顔で二人を交互に見つめる。
「サ、サクラさんは、その『ゴールドなんちゃら』なんだろ? 具体的に何ができるんだ」
未だ状況を飲み込めないシオンがコホンと咳払いをして尋ねる。
「えっ、ええ……。こうやってお花を咲かせたり、小動物の命を吹き込んで生み出したりできます。実家の村の農業もこれで手伝っていたので、扱いにはかなり慣れています!」
「私も、分身は幼少期から多用していましたわ。留守番をさせたり、代わりに買い物へ行かせたり、自分の遊び相手にしたりしていたので、もう自在に扱えますわよ」
ユリアナがドヤ顔で語る。
「俺は……」
シオンは少しバツが悪そうに視線を泳がせた。
「……近場なら、テレポートしてもちゃんと地面に着地できるようになりました」
「「……」」
あまりにもレベルの低い進捗状況に、二人は言葉を失った。
(生命付与、分身、そして着地すら怪しいテレポート……)
「「「なにができるんだ、これ」」」
気づけば、周囲のクラスメイトたちはすでに楽しそうに能力を組み合わせて練習を始めている。もうこのグループを解散して他に混ぜてもらう猶予などない。
サクラは頭を抱え、必死に前世のオタク知識を総動員した。
(前世の記憶を思い出せ……! 花、分身、テレポート……。アストレア学園のレクリエーション……。ロマンスメモリアル…2.5次元…宝塚…そうだ、思いつきましたわ!)
「何々!?」
「ミュージカルっぽいのをやりませんか?」
((そういえば、『ロマメモ』は一応キャラソンCDの発売が予定されていた乙女ゲームだ! 攻略対象であるシオンが、音痴なわけがないはず……!))
「ミュージカルって、具体的にどうやるんだ?」
「舞台装置は私の生命付与で花を咲かせて作ります! そして、ユリアナ様の分身で大量のバックダンサーを用意していただいて……。最後にシオン様の能力で私の用意する舞台装置の上にテレポートし、華々しく歌って飾るというのはどうでしょうか!」
「いいですわね! シオン様は美形ですし、もの凄く映えると思いますわ!」
ユリアナに「美形」と褒められ、シオンは内心で小躍りした。すっと表情をプロのそれ(※ただし顔だけ)に戻し、真剣な顔で呟く。
「それはとても良い案だが……。歌ってどうするんだ? 俺、歌えないぞ」
「「え?」」
その日の放課後、三人は学園の近所にある、これまた原作ゲームにも登場する「カラオケデートイベント」仕様のカラオケボックスへ直行した。
「では、歌います。絶対に笑うなよ」
マイクを両手で握りしめ、シオンが緊張した面持ちで直立不動になる。
「笑いませんよ、シオン様ならきっと素敵に――」
「笑わねぇよ、ほら、早く歌え」
シオンが大きく息を吸い込み、イントロが終わると同時に口を開いた。
「――ボェェェェェェェエエエオオォォオォン!!!」
「「イヤァァァァァァァーーーーー!!!(鼓膜崩壊)」」
画面に冷酷に表示された点数は【35点】。デカデカと「もっと音程を意識しましょう!」のアドバイスが光っている。
「そ、そういえば……。この世界に来てから、俺、一回もシオンが歌ってるの聴いたことなかったぜ……」
ショックのあまり、ユリアナの素の男言葉がポロリと漏れ出た。
サクラは耳を押さえたまま、目を丸くしてユリアナを見る。
(え……? 今、この美少女、自分のこと『俺』って言った? しかも『〜だぜ』って……?)
だが、それ以上にシオンの歌撃波(物理)の衝撃が大きすぎて、サクラはすぐに突っ込むのを諦めた。
「……お世辞にも、ここまで酷いとは思っておりませんでしたわ」
「歌は、俺には無理だ」
シオンは魂の抜けた顔でマイクを置いた。
「「そうですね」」
二人は光の速さで同意した。
「じゃ、じゃあ、ダンスはどうですか!? 歌わずに、踊りで魅了しましょう!」
今度は学園のバレエホールへと移動した。
「シオン様、私の真似をしてくださいまし!」
ユリアナはスカートの端をつまみ、指先までピンと伸ばして美しいバレエの一番ポジションを取ってみせた。
「わかった、こうだな――」
シオンはユリアナの真似をして片足を上げようとした瞬間、自らの足に引っかかって派手にスライディング。床に激突して「ぐふっ」と声を上げた。踊り以前の、完全なる運動音痴(ダンス限定)であった。
((それでもお前、本当に乙女ゲームの攻略対象か!?))
二人の転生者の心が、これ以上ないほど美しくシンクロした瞬間だった。
すっかり辺りは暗くなり、満月の冷たい光が静かに三人へと降り注いでいた。
中庭のベンチに座り、シオンは肩を落として呟く。
「なんか……色々と不甲斐なくてごめん、二人とも」
「気にしないでください。誰にでも苦手なことの一つや二つ、ありますよ」
サクラが優しく微笑む。
「そうよ。たまたま歌とダンスが破滅的に壊滅していただけじゃない」
ユリアナのフォローになっているか怪しい慰めに、シオンはふっと顔を上げた。
「……二人とも、ありがとう」
月明かりをその身に浴びて微笑むシオンは、息を呑むほどに美しかった。
まるで夜の闇から現れた月の精霊のように、彼の儚げで端正な顔立ちが際立っている。
(ああ、悔しいけど……やっぱりこの顔は、乙女ゲームの住人そのものなんだな)
ユリアナ(英二)は、その美貌に一瞬だけ見惚れてしまった自分に苛立ち、ツンとそっぽを向いた。
「……やっぱお前は顔だけだな」
「否定は…できませんね」
「酷っ!!?」
一瞬で儚げな美青年から、いつもの不憫な婚約者に戻ったシオンの叫び声が、夜の中庭に響き渡った。




