一発芸を披露せよ①
「楽しみだな」
「何をするんだろう、アストレア学園の授業って!」
体育館に集められたのは、1年生の2クラス合同、計30人ほどの精鋭たち。
いよいよ始まる「異能力学」の実技演習に、生徒たちの期待は最高潮に達していた。
だが、並んだ顔ぶれを見て、ユリアナとサクラは即座にある「違和感」に気づく。
一人の生徒――シオンの姿が、どこにも見当たらないのだ。
その頃、校舎の奥深くでは、当の本人が焦りの中にいた。
「しまった……。学園内迷子になってしまったな……」
シオンは冷や汗を流しながら、見慣れない廊下を見渡す。
「トイレに長々と籠もって、ユリアナに先に行ってもらっていたからこんなことになってしまった。さて、どうしたものか」
その時、近くの空き教室からくぐもった叫び声が聞こえてきた。
「助けてくださーーーい! 誰か、誰でもいいから助けてーーー!」
「誰かいるのか!?」
シオンは直感的に声を追って走り、勢いよくドアを開け放った。
そこに広がっていたのは、信じられない光景だった。
長い髪にメガネをかけた背の高い男性が床に倒れ、その上にどこから迷い込んだのか、二十匹以上の野良猫たちが「これでもか」とみっちり重なり合って乗っかっている。男性はもはや、猫の重みでがんじがらめになって身動きが取れなくなっていた。
「フィリップ先生!?」
「あ、君は……確か、新入生1組の『冷酷俺様系侯爵君』……!」
「なんで先生までその呼び名を知っているんですか!」
シオンは思わずツッコミを入れた。
「す、すまない……! 君たちのクラスの女子たちが廊下でそう呼んでいるのを聞いてしまってね……。頼む、このままだと猫たちの温もりで窒息してしまう、早く助けてくれないか!?」
「はぁ……。どいてくれ、猫たち!」
シオンはため息を吐きつつ駆け寄り、一匹ずつ猫をどけて先生を救出した。
「ふぅ……本当に助かったよ。私は昔から、なぜか動物に好かれやすい体質でね」
額の汗を拭いながら、フィリップ先生はメガネをかけ直した。
「それって、先生の異能力と何か関係があるんですか?」
「いや。私の異能とは全く関係のない、ただの不便な超体質だよ。……ええっと、ありがとう、冷酷おれ――」
「やめてください」
シオンはそのままフィリップ先生の先導のもと、無事に目的地の体育館へと到着した。
「もう! どこへ行っていらっしゃったの?(便所が長すぎるんだよ!)」
ユリアナが小走りで駆け寄り、耳元で小声で文句を言う。
「ちょっと野暮用があってね(クッソ腹壊してて波が引かなかったんだよ!)」
シオンも必死に言い訳を返す。
その隣から、サクラが熱い眼差しを送りながら声をかけてきた。
「無事に授業に間に合って、本当によかったです、シオン様!」
「あ、うん。ありがとう」
シオンはサクラからユリアナを守るように一歩引いて、そっけなく返事をする。
(……私に対して、塩対応すぎない!? でも、その突き放すような冷たい態度……ゾクゾクするほど素敵……!)
サクラの瞳がまたしても怪しく輝いた。
「ごめんごめん! みんな待たせちゃったね。それじゃあ授業を始めようか!」
フィリップ先生が前に立ち、手をポンと叩いた。
「記念すべき最初の週の実技演習は、肩慣らしの『レクリエーション』だよ。皆さんには、自分の異能力を使って一発芸を披露してもらいます!」
「「「一発芸!?」」」
体育館に驚きと困惑の声が響き渡る。
「そう、一発芸。どんな風に能力を応用できるか、自由な発想を見るための課題だ。何人かでチームを組んでも構わないよ。ちょっとしたマジシャンになった気分でね。マジシャンは『種と仕掛け』があるけれど、君たちは本物の『魔法使い』なんだから。
今日の説明は以上! この後は、自分の能力と相性の良さそうな人を見つけて、来週の発表に向けて打ち合わせを始めてくれ!」
先生の言葉が終わるや否や、学年全体がガヤガヤと騒がしくなる。
「ねえ、一緒に組まない?」「君の能力って何?」と声を掛け合う中、ユリアナたちの周りでは、一瞬にして緊張感が張り詰めた。
シオンがユリアナの前に一歩踏み出す。
「ユリアナ、一緒に組もう!」
同時に、サクラもシオンの前に素早く滑り込む。
「シオン様、ぜひ私と一緒に組みましょう!」
そして、ユリアナもサクラの手をぎゅっと握りしめて目を輝かせた。
「サクラさん、もしよろしければ、私と一緒に班を組みませんか!?」
「「「あっ」」」
三人の声が重なり、沈黙が訪れる。
お互いの思惑が交錯する中、ユリアナだけが満面の笑みを浮かべて手を叩いた。
「あら、ちょうど三人ですわね! とっても良い班ができそうですわ!」
(サクラちゃんと同じ班になれた! これで一気にお近づきになれるぞ、計画通り!)
と心の中でガッツポーズをするユリアナ。
(ユリアナにあの女を近づけさせないために、俺が二人の間を裂いてみせる……!)
とサクラを激しく睨みつけるシオン。
(シオン様の冷たい視線を受けながら、ユリアナ様とも一緒にいられるなんて……なんて刺激的な班かしら!)
と別の意味で興奮するサクラ。
こうして結成された、おかしな三人組。
しかし、彼らの最大の懸念は、人間関係の複雑さだけではなかった。
肝心の異能力の相性が――、
ユリアナ:『分身』
シオン:『テレポート(空間転移)』
サクラ:『生命付与(植物の成長促進など)』
「……これ、どうやって一発芸にするんだ?」
特性を全く考慮せずに組んでしまった三人の、前途多難な打ち合わせが幕を開ける。




