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地獄の茶会②

「ただいま戻りましたわ」

ユリアナが東屋に戻ると、イザベラを始めとする令嬢たちが一斉に冷ややかな視線を向け、クスクスと不躾な冷笑を漏らした。

(なんだこの空気感……。もの凄く嫌な感じだぞ)

肌を刺すような居心地の悪さに、英二は内心で眉をひそめる。

「ユリアナ様は、シオン様のどのようなところがお好きなのですの?」

セシリアが、探るような目でまたしても問いかけてきた。

(まだ続くのかよ、この話題……!)

ユリアナは内心のうんざり感を隠し、淑女の微笑みを貼り付けたままで答える。

「ええっと……。どのような私であっても受け止めてくださる寛大さと、時折見せてくださる、とても可愛らしいところかしら」

「あら、そうなの」

イザベラが短く返し、令嬢たちはまたしても顔を見合わせてクスクスと笑い声を立てた。

「そういえば皆様、今度うちの財団で新しく化粧品を発売することになりまして……」

リリアがそう切り出すと、イザベラが「あら、素敵! 詳しくお聞きしたいわ!」と食いつき、令嬢たちの会話はユリアナを完全に無視して進み始めた。

何を話しかけても、まるでそこに誰もいないかのように扱われる。

(女性間のコミュニティのイジメって、本当に陰湿なんだな……。ああ、早くこんなお茶会終わらせて、シオンに会いたい。男同士でバカ話でもしてぇよ……)


ユリアナはこれ以上彼女たちに合わせるのをやめ、薔薇の花壇を挟んだ向こう側にある、男子たちの東屋へと視線を向けた。

会話の内容までは聞こえないが、シオンはレオハルト王子たちと楽しそうに談笑している。

どうせ空気として扱われるのなら、あいつの顔でも眺めていよう。そう思って見つめていると、シオンがすぐにこちらの視線に気づいた。

シオンが小さく手を振り返してくれる。ユリアナもすぐに手を振り返した。

だが、シオンの鋭い観察眼は、ユリアナの微かな表情の翳りを見逃さなかった。

(あれ……? ユリアナ、もしかして元気がない……?)

「レオハルト王子、エリオット様! 今から、私のテレポートをここでお見せして差し上げます!」

突然、シオンが大きな声を上げた。

「おー! やってみてくれ!」

「見たい見たい!」

男子たちの歓声を背に、シオンは東屋の外へ出ると、こちらを向いて大きく両手を広げた。その瞬間――。

ドッシャァァァァンッ!!

「ぐへぇぇっ!?」

シオンは女子たちのいる東屋の目の前の芝生に、文字通り突っ込む形で派手に転がり落ちてきた。

「大丈夫か、シオン!? ははは!」

「アハハ! 完全に失敗じゃないか!」

遠くからレオハルト王子とエリオットの爆笑する声が聞こえる。

「じゃ、じゃーん! ……成功、ですかね?」

泥だらけのシオンは、ユリアナの方を向いて照れくさそうに頭を掻いた。

そして、女子たちに聞こえないほどの小声で囁きかける。

「ユリアナ、元気ないけど……本当に大丈夫?」

「……ちょっと、精神的にやばいかも」

ユリアナが小さく、限界のサインを出す。

その言葉を聞いた瞬間、シオンの目に真剣な光が宿った。

彼は迷うことなくユリアナの前に歩み寄ると、驚くほどの手際で彼女の身体をひょいっと抱き上げた。お姫様抱っこである。

「わっ!? シオン様、な、何を……!? 人前で恥ずかしいですわ!」

本気で驚いてバタバタするユリアナの頬に、シオンはためらうことなくチュッと音を立てて口づけを落とした。そして、周囲に響き渡るような甘い声を上げる。

「ああ、私の愛しいユリアナ! 少し席を外して離れていただけなのに、寂しくて死んでしまいそうだったよ! もう一秒たりとも、君を私の側から離したくない!」

それは、恥ずかしげもない全力の「溺愛アピール」だった。

まるで、自分がユリアナにぞっこんで、片時も離れたくない狂信的な恋者であるかのように振る舞ってみせたのだ。

それを見た令嬢たちは、引きつった表情で固まった。

「安物の指輪で茶化されている」「女性側が必死に追いかけている」という自分たちの醜悪な邪推が、目の前の圧倒的な「愛の重さ」によって一瞬で粉砕されたのだ。

彼女たちは、きまり悪そうに目を逸らすことしかできなかった。


地獄のお茶会がようやく終わり、帰りの馬車に乗り込んだ瞬間。

二人は同時にシートに深く沈み込んだ。

「はぁぁぁーーーーー……。女の社会ってマジで怖すぎる。俺、これから上手くやっていける気がしねぇよ……」

ユリアナは即座にウィッグをずらし、額の汗を拭った。

「大変だったね。……ごめん、きっと俺のこれまでの悪評のせいで、お前が色々言われたんだろ?」

シオンが申し訳なさそうに眉を下げる。

「いや、違う。違うけど……」

シオンが贈ってくれた大切な指輪を安物だと貶され、彼の心を侮辱されたことが、何よりも許せなかったのだ。

そして、これこそが原作でユリアナ・ローゼンベルクを追い詰めていった、貴族社会の陰湿な悪意の正体なのだと身を以て実感した。

王立アストレア学園への入学まで、あとわずか。

乙女ゲーム『ロマンスメモリアル』の本編が、いよいよ幕を開けようとしている。

ユリアナに約束された本来の「厄災」は、ここから本格的に始まっていくのだ。

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