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魔術師セノ  作者: 森山すぱこ。
夏の野外実習
85/86

ソリード、早くも心が折れかける


ソリード(バカ息子)は曇り空を見上げていた。

穴の底から見ているためか、雲が動いていないように見える。


サク、サク……


草を踏む音が近づく。


「おーい! 誰か!」


音が止まった。

空が薄暗くなったように感じた。

絶対に誰かいる。


「手を貸してくれないか?」


一瞬、顔の影が横切った。たぶん、鼻筋からヘッセルアンテ(無表情イケメン)だ。

チラッとのぞき込んできただけで、声も発しない。


「ふざけんな! 助けろ! 足くじいてんだよ!」


必死に大声を出したが、声は届いていないようだった。


~


ヘッセルアンテは地面の穴を見下ろしていた。

ソリードの声が聞こえる。絶えず喚いている。間違いない。


「ちょっと待ってろ」


穴の近くでうつぶせになり、手を精いっぱい差し出した。

届かない。


ソリードがまだ喚いている。


振り返って、目を細める。

ドッテル(がっちりした男)がふうふう言いながら、こちらに向かっていた。



~


ヘッセルアンテがうつぶせのまま顔を上げ、ドッテルに話しかける。


「足を押さえててくれないか?」

「何やってんだ?」


ドッテルが返事した直後、穴からソリードの声が聞こえる。


「助けろ!」


ドッテルは穴に向かって話しかけた。


「助けてくださいだろ?」

「助けろ!」


ドッテルはやれやれといった表情で穴を指さし、ヘッセルアンテにたずねる。


「助けるのか?」

「助けたあとにぶん殴ればいいだろ?」

「意外と言うな……」


ドッテルは地面に座り込むと、ヘッセルアンテの足を脇に抱え、足首を持った。


「ふざけんな! おまえ、家来の分際で! クビだ!」


まだ穴からソリードが喚いている。

ヘッセルアンテは表情を変えることなく、穴の中に手を差し出した。


~


ソリードを真ん中にして、ドッテルとヘッセルアンテが肩を貸していた。


「何やってんの? あんたたち……」


ワネット(わがまま姫)とエレーラ(いつも恋する少女)が後ろから声を掛けた。


「穴に落ちて、足を痛めたんだって……」


ドッテルが振り返って、ワネットたちに答えた。

ソリードはうなだれている。


「ふーーん……ネムちゃんしか治せないわね……そいつ一人置いて、先に行けばいいじゃん」


ワネットが当然のように言う。エレーラも続ける。


「先に行くね」


ワネットとエレーラは興味なさげにソリードの足先を見て、通り過ぎていった。


ソリードは一言も発さない。

が、離れていく二人の背中をじっとにらみ続けた。



ヘッセルアンテがドッテルにたずねる。


「どうする?」

「どうするかな……」


「置いて行けよ」


ソリードが力なく声にする。


「……ネムが来るまで付き合ってやるよ」


ドッテルがそう言うと、三人は再び歩き始めた。



◇◇◇



小柄なメガネ男――ヴァウツ。

ヴァウツはドッテルが苦手だった。

自分だけには高圧的だからだ。


本当なら追い越したい。

でも、見つかったら何か絶対に言われる。


ドッテルが急に振り返っても見つからないよう、距離を取りながら、ゆっくり歩いていた――


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