セノの予告
展示会場の中。
セノは魔法陣の上に乗って、円形の会場を水平移動していた。
会場の外周に所狭しと並べられている魔道具たち。
防犯用の薄明りに照らされている。
セノの隣には布団をかぶったセヴァンもいる。
たぶん、今、展示会場にいることに気づいていない。
そして、コロミィは魔法陣の端から興味津々で魔道具を見つめている。
それに向かって四つん這いになり、身を乗り出している。
壁一面の水槽。時折、小さな泡が浮かんでいる。
コロミィが指さして、セノを見る。
「あれ、なに?」
灰色のビンを探すため、うつぶせで下を見ていたセノ。
コロコロと転がって、コロミィの隣に向かう。
そして、仰向けになったセノ。
「あれは……泡がいっぱい出るの。ちゃんと動いてたら、いろんな模様が見られるよ」
説明すると、またコロコロと転がって戻ろうとするセノ。
戻る途中でまたコロミィが質問する……。それが繰り返された。
"灰色のビン"の近くまでやってきた。
それは会場の片隅になんでもないように二本置かれている。
しかし、セノは魔道具の説明に夢中。
それに気づかず、通り過ぎていく。
セノは時折、説明せずに魔道具が入った透明ケースに顔をつけて、じっと見入ることもあった。
そんなこともありながら、すべての魔道具について一つずつ説明していく。
セノとコロミィの顔が展示会場の薄明りで揺らめく。
二人の瞳は輝いていた。
結局、セノが灰色のビンを見つけるまで、展示会場を二周した。
~~~
展示会場に入る二人の男――衛兵たち。
足音を立てず、左右二手に分かれた。
侵入者――セノたちを前方と後方から挟み撃ちにする作戦だ。
展示会場は円形で中央が吹き抜けになっている。
内側の壁に背を当て、横歩きでセノたちに近づいていく。
セノたちが乗る魔法陣は宙に浮いている。
手が届く高さだが、簡単に上がれそうにない。
それを確認した衛兵たちはすぐに引き返して合流した。
「オレたちじゃ、ムリだろ?」
「……そうだな」
衛兵たちは影からセノたちを見ていた。
「魔術師の先生、呼ばなきゃダメだな……」
一旦諦めることにした。
二人とも、衛兵の詰め所に戻ろうとしていた。
その時だ。
背後でパタッと音がした。
衛兵たちの足が止まる。
互いに目を合わせ、うなずいた。
~~
コロミィは魔法陣から下りた。
展示会場内にその足音が響く――
まっすぐ、灰色のビンのところまで行くと、しゃがんで手に取る。思ったより重い。
重くて持ち上げられない。
うーーーーん
目を閉じて、歯を食いしばるコロミィ。
灰色のビンをじっと見つめる。
(……)
(ムリだ……)
その時。
ふと気になって、振り返った。
二人の男が顔を引きつらせ、こちらに向かって走ってきている。
目の前にある灰色のビンを見つめる。
一瞬の間のあと。
立ち上がると、魔法陣に手を乗せ、片膝を乗せた。
手ぶらのままで。
~~
衛兵たちは宙に浮かぶ魔法陣に向かって全力で走っていた。
魔法陣が床近くにあるうちに乗り込めれば、なんとかなる。
まだ間に合う。
そう思って、必死に床を蹴っていた。
衛兵の一人がジャンプして魔法陣に足先を掛ける。
続くもう一人の衛兵は手を掛けようとする。
しかし……。
いずれも魔法陣の中に手足が入っていかなかった。
それは魔法陣に押し出されるような感覚だった。
一人の衛兵は魔法陣の上に足を乗せられず、空を切った。
ドサッと尻餅をつく。
もう一人の衛兵は魔法陣に触れたまま固まっていた。
我に返ると、魔法陣の下をくぐって、コロミィの足に手を伸ばす。
が、わずかにその手はコロミィの足に届かない。
飛びついた勢いで、灰色のビンに頭をぶつけた。
仰向けで魔法陣を見上げる。
頭上から、セノがうつぶせで魔法陣の端に手をかけ、首から先だけを出している。
「……また明日来るね」
そう言うと、笑顔で「バイバイ」と手を振った。
衛兵たちは魔法陣に乗るセノたちをただ見上げることしかできなかった。
コロミィは思わず、「えっ?」と小さな声を出す。
隣で満足そうに天井を見ているセノを見ていた。




