里芋の寂しそうな横顔
工房での昼休み。
気持ちのいい青空。
でも、地面の雪は溶けていない。
そんな中、工房最年少の職人女子モリサとシカくんが戯れている。
シカくんが鼻先で雪を勢いよく、何度も掘り上げる。
パウダー状の雪がパラパラと宙に舞う。
モリサの頭へとキレイな放物線を描いて届いたものもあった。
頭にかかった雪を見ようとしているのか、上目遣いで固まるモリサ。
シカくんもその様子を見て動きを止める――
モリサは頭を左右に振ってブルブルと頬を震わせる。
そして、シカくんの周りを円を描くように走り出した。
キュッ、キュッ、キュッ、キュッ……
シカくんはその場で回りながら、次々と雪を跳ね上げていく。
モリサはかけられまいと、はしゃぎながら逃げ回る。
キッサは工房の裏口の階段に腰掛け、そんな二人の姿を目を細めて眺める。
時折、口元からこぼれた白い煙は舞い上がることなく、冷たい空気の中へスッと消えていった。
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魔法紙工房は大きなドーム型。
全体が雪で覆われていた。
その頂上には二つの黒い点。
仰向けで大の字になったセノ。
まぶしそうに青空を眺め、小さな体いっぱいに日差しを浴びていた。
目を閉じる。胸が少しだけ上がる。下がる。上がる。下がる。
その隣には里芋が膝をかかえて座っている。
少し眉間にしわを寄せ、眼下に広がる雪一面をじっと眺めていた。
まつ毛がわずかに揺れていた。
里芋が話しかける。
「何する?」
「夕方になったら湖に行く」
「それまでは?」
「お昼寝」
「……」
里芋の返事がない――
セノは薄目で里芋の横顔を見つめる。
しばらく見つめたあと。
手を腰あたりまで滑らせ、軽くグーパグーパーする。
そして、サッと立ち上がろうとするが、足元がおぼつかない。
里芋は顔を上げる。
「あぁ、危ないって……」
里芋はセノのお尻を支えようと手を出す。
セノは足を滑らせるが、ふんばって言った。
「茶色い砂のとこ、行こ」
コロミィに行先を伝えて、セノたちは”アバロン収監所”に向かった。
シカくんも。
◇◇◇
夕方。
魔法陣に乗ったセノと香箱座りのシカくんが工房の前に突然現れた。
そこにはもう、里芋の姿はない。
魔法陣がゆっくりと地面へと降りていく。
シカくんは香箱座りのままで体勢を変えない。
やがて魔法陣の白い輝きは消えていった。
セノはちょこちょこと走っていき、工房の扉に手を掛けようとしたところでふと、空を見やる。
そこには湖の方向で淡く黄色い光が次々と打ち上がっていた。
しばらくセノはそれを眺めたあと――
また、ちょこちょことシカくんのもとへと走って行き、地面に手のひらを当てる。
再び白く輝く魔法陣が浮かび上がってきた。
シカくんは気にする様子もなくあくびをして、地面にあごをつける。
セノは手袋を取って、手の腹で魔法陣を急いで擦ると、指先で一部を書き換えた。
魔法陣がセノとシカくんを乗せて再び宙へと上がり、止まったところで消えた。
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湖のそばにある二つの木箱。
セノは木箱の穴から湖で立ち上がる光のショーを見ていた。
シカくんも同じ。
でも、シカくんの目線の先は違った。
シカくんの瞳には三人の男たちの働く姿が映し出されていた。
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すっかり日が落ちて、工房に戻ってきたセノたち。
そのまま工房の裏手にあるアヂトに向かう。
先回りするシカくん。
でも体が大きくて入口の途中で突っかえてしまう。
前足で床をこすってカタカタと音をさせる。
そこでセノは隣にシカくんのおうちを作った。
扉を上に開けるタイプ。
セノが開けて見せる。閉じて見せる。
さっそく、口で取っ手を咥えて扉を開けるシカくん。
中に入る。
内側にも取っ手がある。
それを咥えて扉を閉める。
セノは扉が閉まったのを確認したあと、アヂトに入ろうとする。
しかし、入ろうとした時、ガタッと音がした。
勢いよくシカくんが飛び出てくる。
セノの首を咥えようと、ニュッと顔を出すシカくん。
セノはシカくんの正面を向いて、そうはさせまいと身構える。
セノはシカくんの首元をトントンとしてアヂトに入ろうとする。
それでも、咥えようとするのをやめないシカくん。
二人の攻防が続く。
しばらく、にらみ合ったまま。
セノは両手を上げて、シカくんの目をじっと見る。
「わかったよ……」
そう言うとアヂトに入っていった。
すぐに布団を持って出てくる。
その日、セノはシカくんの隣に布団を敷いて寝たのだった。
◇◇◇
翌日の昼すぎ。
セヴァンの部屋に行ったセノ。
黒い顔をしたセヴァンが、虚ろな目で自分の足首を握っている。
思わずドアを閉めようとする。
「ぉーーぃ」
力ないセヴァンの声。
「そばにいろよ……」
「そっか……」
セヴァンは力尽きるように倒れ込む。
セノはしゃがんで、セヴァンの顔をのぞきこんだ。




