セノと里芋の攻防
展示会場の屋根裏にある警備室。
ベテラン泥棒のベゼカは展示会場の様子を上からうかがっていた。
ある光景を見たベゼカは思わず口にしてしまう。
「おーーい。馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿……」
子供がベゼカの目標――灰色のビンに興味を持ったのだ。
灰色のビンの中には熱い砂が入っている。
寒いところでは手軽に暖を取れる貴重なアイテムになるのだ。
毎回、展示会が開催されるたび、ベゼカはそれをくすねていた。
今回もその予定だったのだ。
ベゼカは室内を大股で落ち着きなく往復する。
「持って行くなよ、持って行くなよ、持って行くなよ……」
「止めろよ…… 止めろ! 止めろ!」
セノが灰色のビンを両手で一個抱えて、よいしょよいしょと運ぶ。
(一個か……いやっ一個でも……一個なら……)
それを見つけた里芋がセノから灰色のビンを取り上げ、元の場所に戻す。
(よし! よくやった! そのまま!)
ビーーーーッ、カチッ
ベゼカは長めに鳴り続けた警報のスイッチをようやく解除する。
そして、里芋を心の底から応援する。
警報の音で目覚めた警備の一人が、薄目で周囲の様子をうかがっているとも知らず……。
~~~
セノが灰色のビンを手にする。
里芋がそれを取り上げ、元に戻す。
それは何度も何度も繰り返された。
セノもなかなかあきらめないが、里芋も根気強い。
それに一喜一憂するベゼカ。
本気で里芋を応援する。
「よし!」
「あ……」
「よし!」
「あ……」
だが、ついに均衡が破れる。
里芋が現場を放棄して、一方向に向かって走り始めたのだ。
その隙を見て、セノが再び灰色のビンを両手で抱える。
「何やってんだ!」と言った瞬間。
グイッ
ベゼカの首元が、背後からヒモで息もままならないくらい、強く締め上げられた。
~~~
セノは灰色のビンをリュックに入れる。
しかし、重くて背負ったままだと立ち上がれない。
しばらくじっとして考える。
目をこするセノ。
仕方ないので、一旦外に出した。
その時、再び里芋がやってきた。
灰色のビンをサッと元に戻すと、有無を言わさず、セノを抱きかかえる。
やってきた方向へと向かった。
「どう?」
里芋は心配そうにセヴァンに話しかける。
「あぁ……もう大丈夫だ」
セヴァンはうずくまり、胸に手を当てていたが、ゆっくりと立ち上がった。
「お前ら何ともないのか? 何ともなさそうだな……やっぱり、オレだけか……」
~~~
「大人しくしていろよ……」
屋根裏の警備室。
警備の男はベゼカの手足をヒモできつく縛る。
「下のヤツらはお前の仲間か?」
「……」
床に座って下のヤツらを見ているベゼカ。
警備の男が話しかけても無反応だ。
もう一人の警備の男を激しく揺するが、全く起きる気配がない。
侵入者は三人。一人では立ち向かえない。
目の前に侵入者がいるというのに何もできず、ただ途方に暮れていた――
突然、ベゼカが大きな声を上げた。
「おーい!」
「あっ?」
ベゼカがさらに声を漏らす。
警備の男が反応し、ベゼカと同じ方向を見やった。
もうそこには三人の姿がなかった。
「どうした? おまえを置いて仲間は帰ったのか?」
「……」
ベゼカは激しく揺すられるが、何も答えようとしない。
しばらくして、つぶやくように言った。
「消えた……」
「はっ?」
警備の男はベゼカと同じ方向に目を凝らしてみたが、その痕跡は全く残っていなかった。




