二度目の展示会①
夜。
展示会場を見上げる三人の背中。
セヴァン、里芋、セノ。
セノだけ、小さな薄い藍色のリュックを背負っている。
「お子様も入場で?」
「お願いします」
セヴァンが答える。
受付の女が華麗な手さばきで、セノの背中側からヒモを巻きつける。
セノは体に巻きつけられたヒモを見て「ぉ」という表情になる。
さらに、受付の女を見上げると、改めて「ぉ」という口で固まった。
セヴァンの胸に抱きかかえられ、ヒモでしっかりと固定されたセノ。
結局、抱っこヒモを付けられてしまった――
セノは目をまんまるにしている。
ワンクッション置いてから、激しく暴れ出す。
――激しくグーパーグーパー、おしりグリグリ、足をバタつかせる。
しかし、急に止まるセノ。
セノは思い出した。初めて展示会に来て、ナツメにヒモで結ばれた時のことを。
あの時はナツメがヒモを用意したと思っていた。
急に動かなくなったセノにセヴァンが声を掛ける。
「どうした?」
「なんでもない」
◇◇◇
展示会の中。
ナツメはいつものように黒々とした歪な石――魔石をケースに入れて販売していた。
隣には初参加のテノルドもいる。
ナツメは暇さえあれば、周囲を見渡していた。
テノルドに展示会の中を一周して探してくるようにとも言ってあったが、セノは見つからない。
展示会場には子供すら見かけることはなかった。
~~~
同じ頃。
セノたちは展示会場の屋根の上で作戦会議中。
抱っこヒモがどうしてもイヤだったセノは展示会に入るのをあきらめたのだ。
リュックから取り出した大きな魔法紙を広げるセノ。
セヴァンは紙の隅っこを親指と人差し指でこすりながら、たずねる。
「なんだこれ? 魔法紙か?」
「秘密」
紙に一生懸命地図を描くセノ。
書き終えると立ち上がって腰に手を当てる。
里芋とセヴァンを見下ろし、少しほっぺたを膨らませたり引っ込めたりを何度かしてから言った。
「今夜、潜入します!」
里芋がすかさず、言う。
「要するに泥棒するってことでしょ?」
セヴァンもセノのざっくりした地図を見ながら言う。
「予定って泥棒の予定だったのか?」
セノは少し眉をひそめる。
「潜入するだけです!」
泥棒と言われ、少し不機嫌になるセノ。
赤い玉のお菓子を口に入れると、小刻みにモグモグした。
◇◇◇
展示会の入り口。
振り返りながら帰っていくナツメ。
テノルドは不思議そうにナツメを見る。
「セノ、来ませんでしたね」
「……セノが来ないわけがない……」
ナツメは険しい表情で展示会場を見上げながら、後ろ向きでしばらく歩く。
目を閉じ、気配を察知しようとするが、それらしいものは感じない。
何か嫌な予感が拭えないまま、ナツメはテノルドと展示会場を後にしたのだった。
◇◇◇
セノたちはまだ展示会場の屋根の上にいた。
暗闇の中、白く光る魔法陣。
セノは一人、その上に乗って、音もなくゆっくりと水平に移動する。
そして、展示会場の端まで行くと垂直に下へと移動する。
そうして、指と口で時間を数えながら、高さと横の距離を測ってメモをした。
セヴァンは戻ってきたセノに話しかける。
「どうやって中に入るんだ?」
「秘密」
里芋が眉をひそめて、セノに抗議する。
「泥棒みたいじゃないか」
「まだ何も盗ってないよ」
「……まだ? さっき、潜入するだけって言ってなかったか?」
セノは里芋の返しを華麗にスルーする。
魔法陣の中にさきほどメモした数字を指先で書き加える。
「準備できたよぉ。いくよぉぉ」
セノは魔法陣の端で四つん這いになって、セヴァンと里芋を笑顔で手招きする。
セヴァンは気の進まない里芋の肩を押す。里芋の耳元で「何かあれば、二人で止めればいいから」とささやく。
里芋はその言葉に渋々足を前に動かすと、ようやく一緒に魔法陣へと乗った。
セノの二度目の展示会がようやく始まる。




