眠れないセヴァン
セヴァンが湖畔の小屋から工房に戻ってきた。
自分の部屋に戻り、外套を脱ぎかける。
開いている扉の向こうで水槽を前にして俯いているコロミィが目に入った。
外套を壁のフックに掛けると、コロミィのもとへ向かった。
「どうした?」
水槽の中を見ると、いつもの分厚い塊がまったくない。
やはり魔法紙ができないようだった。
「そういう日もあるだろう。今日はゆっくり休め」
言ったあとで、昨日も同じようなことを言ったことに気づいた。
「ところで……小さい子とコロコロとした子を見なかったか?」
「……」
「どうした?」
「なんでもない」
「見たか? 小さい男の子と……」
「帰ってきてたけど、すぐ出て行ったよ」
「それはいつの話だ?」
「少し前」
セヴァンの眉間のシワがだんだんと深くなっていく。
(どこ行ったんだ? 何してるんだ?)
再び外套を手にすると部屋を出て行こうとする。
「あっ……」
セヴァンの背中に話しかけようとするコロミィ。
しかし、部屋を出ていくセヴァンの険しい横顔を見て、言葉を飲み込んでしまった。
◇◇◇
セヴァンは一晩中、工房の周りで足跡を探していた。
その足取りはどこかたどたどしい。
外が少し明るくなってきた頃、セノと里芋らしき足跡をようやく見つけた。
近くにあったソリを見る。
昨夜、セヴァンが工房にソリで戻ってきた時に足跡を消してしまっていたのだ。
雪を踏みしめ、追っていく。
途中で蹄の足跡も見つけた。
間違いなさそうだ。
少し開けた場所。
よく見ると、少し離れたところに目を閉じたシカくんの頭がある。
思わず一歩下がったが、おそるおそる近づく。
シカくんが目を覚ます様子はないが、呼吸でわずかに頭が上下に動いている。
指先を近づけ、首元を確認。
つながってる。
シカくんの頭と扉の隙間からのぞくと、さらに奥があるようだった。
「いるのかー」
このあとも何度か問いかけたが、返事はない。
シカくんをしばらくじっと見つめる――
このまま扉のそばで座って待つことにした。
~~~
シカくんが突然走り出した。
その音と振動で目が覚める。
セノと里芋が二人で、セヴァンを不思議そうに見下ろしていた。
「一晩中探したぞ」
セヴァンは疲れた目で二人を見上げ、白い息を吐く。
シカくんが辺りを一周して帰ってきた。
耳をピクピク動かしながら、セノを見つめている。
小さなシッポが右に左に動く。
そんな無邪気な姿を横目に、セヴァンは一瞬だけ眉間にシワを寄せた。
セノと里芋それぞれに目線を送ると、静かに語りかける。
「今度から外に出る時は、コロミィに言ってから出かけてくれ」
そう言うとセヴァンが立ち上がった。
セノが話し出す。
「今日、展示会行く」
「なんだそれは」
「夜ある」
「……わかった。日が落ちたら、私の部屋に来い。私も行く。問題ないな?」
「うん」
扉の中を見るセヴァン。
とてもじゃないが普通の大人が入れる大きさではない。
コロコロした里芋が入れるギリギリの大きさだった。
「大きくなったらどうするんだ? 入れなくなるぞ」
「そっか……」
セノはあごを引いて、入口を見つめて考える。
「大きくする」
「そんなことできるのか」
「たぶん」
セヴァンは振り返って、セノを二度見した。
そして、力ない足取り、疲れ切った重い背中で工房へと向かう。
途中で足が止まる。
(アバロンに何をしに行ったか聞くのを忘れた……)
(まぁ後で聞くか……)
セヴァンは歩みを進めた。
このあと夕方まで完全に意識を失った。




