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魔術師セノ  作者: 森山すぱこ。
セノの夏休み(前半)
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セノのアヂト


魔法紙工房の裏手。

セヴァンの部屋近くにある出入口から、セノと里芋が外に出てきた。

外はもうすっかり暗い。が、地面が雪に覆われているためか、見えなくもない。



先頭を歩くセノの肩に、里芋が手を置く。

里芋はセノの歩調に合わせられず、足元がおぼつかない。


セノはセヴァンの部屋の窓から見える森の方へと向かっていた。


森に入って少し進んだところ。

セノは辺りを見回す。

盛り上がっている場所を見つけると走って向かっていく。

あわてて里芋も追いかける。


「ここ」


セノは振り返って里芋を見上げると、少し盛り上がった地面を指さした。

二人で一緒に雪をかき分ける。


木の扉が出てきた。

扉を開けると、下へと続く階段があった。


里芋が問いかける。


「作ったの?」

「うん」


セノは里芋を見上げ、真剣な表情になると小さな声で一文字一文字をはっきりと言った。


「アヂ(・)ト」



セノはスッと入って行く。

里芋も続こうとするがサイズ的にギリギリ。高さが足りず、立てない。

膝と手をつきながら階段を下りていく。


「ちょっと待って……」



下りた先も天井が低い。

里芋は頭を下にしてハイハイしながら、セノが入っていった一番奥の部屋に向かっていた。


「三歩以上離れてるよー」


里芋が声を上げるも、セノからの返事はない。


ようやくセノがいる部屋までたどりついた。

部屋の中に入ると甘い香りが充満している。


「何してるの?」

「ごはん作ってる」


バケツいっぱいに赤い小さな玉が入っている。


里芋は膝をついたまま、バケツの前まで行く。

バケツの中から赤い玉を一つ、手でつまんだ。

目線の高さまで持って見つめる。


「食べていい?」

「いいよ」


赤い玉を口に入れると、果実のやさしい甘味が口の中に広がった。

さらに噛むと果肉の粒が出てきた。酸味が効いた果汁も追いかけるように広がって、混ざり合う。


「これがごはん?」

「うん」


セノが当然のように即答する。

里芋の小さく動くあごが一瞬、止まった。


~~~


夜、寝静まった頃。

床の上でセノと里芋は雑魚寝をしていた。


カタッ、カタッ、カタッ


里芋が目を覚ます。部屋の中はうっすら明るい。

天井を見る。目だけを動かし、音がする場所を感じようとする。

片肘をついたまま、上半身だけを起こす。

目をこする。


まだ、カタカタと音が聞こえている。


里芋の隣でセノが仰向けで小さく息をしている。

起こすのがためらわれる。


四つん這いで移動し、部屋の外に顔だけを出す。

どうしても気になる。

セノから三歩以上離れられないので、セノの敷布団をそっと引きずって移動する。


音は入り口、階段の上からしている。

ただ、暗くて何か分からない。


カツッ


それはゴソゴソしながら音を出していた。

激しい鼻息も伝わってくる。


「シカくん?」


カツッの音の間隔が明らかに短くなった。

よく見ると、入口が狭くて中に入れず、前足で宙をかいているシカくんの姿があった。


里芋は一旦部屋に戻り、赤い玉の入ったバケツを持ってきた。

このままでは外に出られないので、シカくんの口元をトントンする。

外まで出るとバケツを地面に置いた。

すかさずシカくんはバケツの中に口を入れる。


シカくんは赤い玉をすぐに食べ終えると、里芋を見て、前足をかいてみせる。

赤い玉をもっとご所望とのサインだろう。


里芋はもう一つ、赤い玉の入ったバケツを持ってきた。

目をこすりながら、その食べっぷりを立って見守った。


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