ニタニルの灯
ニタニルはそこにいるであろう看守に強い視線を送り続けていた。
その目線が突然、ふさがれる。
首元を引っ張られ、地面へと引きずり落とされた。
んがっ……
ニタニルは顔を地面で強く打つと、手で押さえ、痛みで転げまわった。
冷めた笑い声があちらこちらから聞こえてくる。
その中でふさがれた視界に何度も火花が走った。
そして、少しずつ意識も動きも小さくなっていった――
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洞窟の中から明かり、時々、笑い声が漏れ出ていた。
洞窟の外。
足と手をくくられ、逆さにつるされた男。
顔は真っ赤になり、こめかみの血管が浮き上がっていた。
目が血走る。
歯をカタカタとさせる。
必死に呼吸をしているように見えた。
垂れ下がったボサボサの髪が絶えず揺れていたが、やがて力なく目を閉じると動かなくなった。
しばらくして。
突然、目を見開いた。
ニタニルは目の前にいる3人を順番に見ていくと、一番小さいのに目を細める。
「おまえは……クソガキか」
絞り出すような、かすれた声。
目を開いた時にあった勢いは、その声にはもう残っていなかった。
ニタニルはわずかに口元を緩めると、目を閉じ、ダラッと全身の力が抜けたように垂れ下がった。
ギルマンがつるされたニタニルをおろそうと近寄る。
そのギルマンに後ろからセノが声を掛ける。
「待って……」
セノは分厚い薄黄色の魔法紙に指先でサッと円を描いた。
なぞられた部分が鮮やかな藍色に変わっていく。
円が完成すると、その中から骨の手が待ちきれないように勢いよく音もなくスッと飛び出してきた。
そして、ニタニルの顔をわしづかみにすると、握りつぶそうとするかのように小刻みに震えている。
やがて、骨の手は同化するように透明になって消えて行った。
ニタニルは電気が走ったように全身がビクンとする。
足の縄が解け、頭から落ちかけたがそこに何かがあるように止まった。
そして、次の瞬間。
身体の上下が反転し、足が地面についた。
ニタニルは濡れた土をペチャペチャと裸足で歩く。
無表情でうつむき加減だが、足取りはしっかりしている。
「セノ、ありがとう。助かったよ」
そう言うと、手を差し出す。
セノは差し出された手に、反射的に首すじを少し伸ばした。
そして、その手を見つめたまま、両手でニタニルの親指と小指を握る。
「どういたしました」
「?」
ニタニルを見上げるセノ。
セノをまばたきもせずに見つめるニタニル。
ニタニルは握られた箇所を見つめる。
セノの手がゆっくりと離れた。
「すぐに戻る」
そう言い残し、ニタニルは洞窟の中に走って入って行った。
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しばらくして、ニタニルは泥の塊のような物を背負って出てきた。
背を屈めて、地面にそっとおろす。
それは真っ黒。まったく動く気配がない。
「治療できる者はいるか? このまま放置していると危ない」
ニタニルは里芋とギルマンに向かって問いかけた。
ギルマンはしゃがんで黒い塊に触れている。
「ここには薬しかない……」
そうつぶやくと、顔の部分の泥を手のひらでゆっくりと何度もすくい取る。
しかし、いくらすくっても黒いまま。
「お前、名前は?」
悲痛な顔のギルマンが問いかける。
わずかに口が動いたようにも思えるが言葉にならない。
「クーレン」
消えそうな小さな声。
たしかにそう言った。
「悪かった……」
ギルマンは開かない目を見つめ、何度も何度も手で黒い泥をすくい続けた。
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【あトがき】
セノたちがニタニル救出に向かう直前。
ニタニルのつるされた様子を見た里芋。
里芋は気づいてもらおうと、球を操作して、なんとか人参を起こそうとするもダメ。まったく起きそうになかった。
そこで里芋は立ち上がった。
セノに促す。
里芋「アバロンに行こ」
セノ「うん……」(生返事)
爺さん「何しに行く?」
里芋「所長に許可もらえばいいでしょ?」
爺さん「そう、じゃな……」
里芋「じゃあ、行こう」
セノの肩をちょいちょいと上に引っ張る里芋。
セノは魔法陣を描くのに夢中。
その中から再び骨の手が出てきた。
思わず口が「ぉ」の形になる。
《そのまま……アバロンに行くんだな?》
里芋が頷く。
骨の手が大きくなると、セノと里芋を握りしめた。
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アバロン収監所の二階。
里芋とセノが立つ。
里芋が意を決したように監視室に入って行く。
あわてて追いかけるセノ。
里芋はまず、寝ている人参を長椅子から引きずりおろしてから、ぶん殴った。
目の焦点が合わない人参。大混乱中。
監視台からつるされたニタニルを見る里芋。
セノが足元の白い球を拾って、里芋の横に立とうとする。
里芋はセノを抱きかかえると走って、ギルマン所長の部屋へと向かった。




