爺さんはすべてお見通し
魔法紙工房の近くにある湖のそばの小屋。
そこではセノと元盗賊、元徴税官と爺さんと元重装兵とシカくんと里芋がまったりしていた。
元盗賊がセノにすがるように話しかける。
「一生のお願いだ……今、エレラインがどうしているのか知りたい……」
セノは座ったまま、魔法陣を描いている。
少しだけ間を置くと、元盗賊の方を見ずに答える。
「……わかった」
「できるのか!」
元盗賊の目が大きくなった。
「少年。これ、見せてもらっていい?」
元徴税官が魔法陣を描くのに夢中なセノに近づいて、話しかける。
「ぃぃょ……あげる……」
セノは元徴税官を見上げることなく答えた。
元徴税官は白い球を両手でつかむと暖炉のそばに持って行く。
そのあとをついていくシカくん。白い球を見上げる。
「こうやって見てると、申し訳なく思うわ」
元徴税官は自分の席に戻ると、白い球に映る工房で作業する人たちを眺めて、つぶやく。
それに反応するように爺さんもつぶやく。
「男性でも使える魔法紙を作れるならやらせてもらえるぞ。前にもおったのぅ……」
「そうなのか……」
元徴税官はアゴに当てた人差し指を横に動かすと、考えを巡らせた。
「爺さん!」
元盗賊が爺さんに向かって、激しく手招きする。
「収監所まで移動させてくれ。場所知ってるだろ?」
元盗賊はニコッと笑って、セノが作ったばかりの灰色の球を少し上げてみせた。
◇◇◇
アバロン収監所。
その中にある囚人の一区画。
魔力持ちの男性用のエリアに魔力のないニタニルはいた。
大人しく食事の列に並んでいる。
自分の順番がようやくやってきた。
プレートを受け取る手を差し出した瞬間――
プレートが地面へ落ちていく。
ニタニルは足元に落ちたプレートを力ない目で見つめる。
いつもはあふれ出る言葉が一切、口から出なかった。
しゃがんで、泥の付いた食べ物を手で拾い上げると、そのまま次々と口に入れる。
地面にわずかにたまった、こぼれたスープも吸おうとした時。
横から現れた靴がそのスープをグリグリと踏みにじむ。
――わずかなスープが地面に吸いこまれていく――
ニタニルはそれをあきらめの目で見つめていた。この時ほど、自分に何の力もないことを悔やんだことはなかった。
◇◇◇
元盗賊が爺さんに話しかける。
「爺さん!どうだ!」
「今やっとるわい……」
爺さんは灰色の球に映る景色を見ながら、指先を勢いよく滑らせて景色を変えていく。
「収監所を映してどうするんじゃ?」
「エレラインを応援する」
「……」
爺さんは手元を止め、元盗賊の目をチラッと見る。
「ここに連れてくるんじゃないぞ」
「ダメなのか?」
元盗賊は期待に満ちた目をしてセノにたずねる。
「少年!できるのか?」
「球に映るなら、できるよ」
「本当か!」
「ダメじゃ!」
元盗賊は爺さんの大きな声にびっくりして固まった。
「少年。絶対に連れてくるでないぞ。ワシらの首が飛ぶ」
「ん……? わかった……」
「爺さん……ダメなのか……」
元盗賊はすがるような目で爺さんを見つめる。
「エレラインに会えるなら、死んでも構わないとでも言うんじゃろ?」
「さすが、爺さん!」
爺さんは目を閉じると、深く息を吐いた。
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【あトがき】
元盗賊が爺さんに怒られている時、その隣では……。
シカくんが元徴税官のズボンの裾を噛んで引っ張っていた。
元徴税官「見たいものがあるのか?」
シカくんは元徴税官の目をまっすぐ見て、一度だけまばたきをする。
元徴税官「これか?」
シカくん「……」
元徴税官「これか?」
シカくんは球を見つめたまま、反応がない。
元徴税官は映る女性を変えるたびに、シカくんの目を確認する。
そして、一番手前の小さな女の子を映した時、シカくんの目の黒い部分が大きくなった。
元徴税官「この子か……知り合いなのか?」
シカくんは一度だけ、ゆっくりとまばたきをした。




