セノ、再び湖畔の小屋へ
セヴァンが里芋とセノを探しに行く前。
里芋とセノが工房から出てきた時に戻る。
セノは分厚い魔法紙を胸に抱きしめ、満面の笑み。
セノが抱きしめる紙を見て、里芋がたずねる。
「それ、普通のと何が違うの?」
「たぶん、魔力いらない」
「ダメじゃん」
セノが抱きしめる魔法紙を里芋は取り上げようとするが、セノは離さない。
目をつぶって、手に力を入れる。
片目を開けると、目の前に里芋がいる。
「取らないの?」
「それで何する?」
「小屋に行く」
「……それならいいか……セヴァンも魔術使ったらダメって言ってなかったし……」
セノはソリの座席に分厚い魔法紙を置く。
荷台に乗って別の方向を見ていたシカくんが、突然立ち上がって向きを変えた。再び座ると、間近でセノの顔を見つめる。
里芋もセノの後ろから見つめる。
セノは魔法紙に指先を当てると、円を描き始めた。
そして、円を描き終えた時だった。
円の中から出てくる骨の手。
それがセノの手首をしっかりつかんだ。
「ぉ」
セノは手を軽くグーパーグーパーしてみるが、まったく動かせない。
《セノ?》
セノは手首をつかむ骨の指を一つ一つ剥がそうとする。
でも、まったく動かない。
《セノ?》
「なに?」
セノはその骨が誰かわかっているかのように返事をする。
シカくんは座ったまま、首をニュッと出して、骨の手の甲に何度も噛みつく。
里芋はギョッとして、骨の手に目が釘付け。セノが誰としゃべっているかもわからないようだった。
《頼みがある。ニタニルのところへ連れて行ってほしい》
「なんで?」
《ヤツをここに連れてきたのは私だ。連れて帰りたい》
セノは骨の手を見つめて、話しかける。
「もう少し、ガマンできる?」
《……》
「できる?」
《……問題ない。この紙を彼に渡してくれればいい》
「わかった」
骨の手がセノから離れ、魔法紙の円の中へとゆっくりと沈むように消えていった。
◇◇◇
魔法陣の上に乗って移動するセノと里芋とシカくん。
セノの前髪がふわっと上がって、おでこが出る。
あっという間に湖のほとりにたどり着いた。
ゆっくり地面まで降下すると、魔法陣は地面の中へと消えて行った。
「湖って言われないとわからないね」
里芋が雪で覆われた湖を眺めながら、つぶやく。そして、セノにたずねる。
「何するの?」
「夕方またくる」
「?」
セノはそう言うと小屋に向かって歩き出した。
ぼーっとしていた里芋はあわてて、セノの後ろを追いかける。さらにその後ろをシカくんがゆっくり追いかける。
◇◇◇
小屋の中の四人が一斉に入口に顔を向けた。
シカくん、セノ、里芋の順番で小屋に入っていく。
セノに気づいた元盗賊。
立ち上がって、セノに近づいていく。
「少年! 無事だったか!」
セノを笑顔で見下ろすと、しゃがんで抱き上げ、肩車をした。
元盗賊はセノを見上げて、たずねる。
「セヴァンを倒したのか?」
「倒してない。一緒に戻って来た。ぼくと里芋が一緒にいないとセヴァンは倒れるんだって」
「……? なんだそれ? ところで、なんで看守をつれてきた?」
「一緒にいないとダメなんだって」
「どういうことだ?」
そう言うと、元盗賊はセノを期待の眼差しで見上げる。
「そんなことより、少年。一生のお願いだ。工房の中が見たい」
「エレライン見たいの?」
「わかってるじゃねぇか……」
「エレラインなら収監所に戻ったよ」
「……なんだと」
里芋の言葉で、元盗賊の顔が一気に赤くなった。
元盗賊はセノをそっと床に下ろすと、看守の首を片手で掴んで持ち上げた。
「もう一度言ってみろ……」




