絶対に離れるな
アバロン収監所の所長室。
魔法陣が消え、セヴァン、セノ、里芋が再び現れた。
セヴァンは閉じていた目をゆっくりと開けた。
セノはまゆげを上げ、床をじっと見つめている。
里芋はまわりをキョロキョロ。
「少し妥協した」
ギルマンはそう言うと、伏し目がちに机の上に腰掛けた。
セヴァンが切実な目で問いかける。
「説明しないつもりですか?」
「その子供がどちらか片方の三歩以内にいれば問題ない。すごく易しくなっただろ?」
セヴァンは表情を緩めたが、すぐに引き締めた。
ギルマンの目をじっと見つめる。
「五日経ったら、来い。解除してやる」
「それだけですか?」
「そうだ」
「絶対何かあるでしょ?」
「じゃあ、ここで一つ一つ試すか?」
「それはやめてください」
ギルマンは里芋に視線を移すと、話しかけた。
「それと……今日で看守は終わりだ。しばらく工房にいなさい」
◇◇◇
引き手のないソリ。
道中はセヴァンのたっての希望で里芋とセノは静かにしていた。
セヴァンと里芋の間にセノ、そして荷台に後ろ向きで香箱座りしているシカくんを乗せ、工房の前に到着した。
里芋はソリから最初に降りて、セヴァンにたずねる。
「何すればいい?」
「何もしなくていい」
「?」
セヴァンの即答に里芋は口を開けたまま固まった。
セヴァンが続ける。
「五日間、お前の仕事は子守りだ。絶対に、絶対に離れるなよ」
「……そんなんでいいの?」
「あと、基本、私のそばにいろ」
「わかった」
セノがソリから降りようとおしりをズラす。
「ぼくはもう帰っていいよね?」
「ダメ」「ダメでしょ」
里芋がセノの両肩を押さえた。
急に神妙な面持ちになったセヴァンがセノにたずねる。
「……もしかして……帰れるのか?」
「秘密」
「念のため、三歩以上離れるなよ……離れないでくれ……」
里芋とセノは同じ場所に居るが、セノとセヴァンは三歩か微妙な距離だ。
セヴァンは顔をこわばらせながら、ソリの座席を滑るようにして、セノたちの方に寄っていく。
近づいてきたセヴァンにセノが質問する。
「どうなるの?」
「それは何と言ったらいいか……三人みんな痛い思いをするぞ」
セノは首をかしげ、すぐにセヴァンに言葉を返した。
「なんで?」
「……だから、あと五日だけは帰らないでくれ」
「ちょっとだけ帰るのは?」
「用でもあるのか?」
「うん」
「それは……一緒に行っても構わないか?」
「いいよ」
セヴァンは軽くうなずくと、ソリから降りる。
その時。
セノがシカくんに気づいた。
さりげなく前足を小さくかいている。
「シカくんのごはん、忘れてる!」
◇◇◇
セノは魔法紙に魔法陣を指先で描く。
セヴァンと里芋はそれをだまって見ている。
そして――
「できた」
「……」
魔法紙に描かれた塗りつぶされたような小さな魔法陣。
セヴァンはそれを見て、目を少し細めた。
「ちゃんと動くのか?」
「動くよ」
「本当か?」
「大丈夫。シカくん、おいで」
セノは魔法紙をセヴァンに渡すとシカくんの首を抱き寄せた。
セヴァンは魔法紙に描かれた魔法陣を首を傾け、見つめていた。
---------
【あトがき】
魔法学校の近くにあるセノのおうち。
そこにはセノの執事とセノの世話人がいた。
今は二人して、庭先でお茶中。
それを少し離れた高い所から、セヴァン、里芋、セノが見ている。
里芋「直接転移できないの?」
セノ「自分の部屋を転移先にしない。これ、基本」
里芋「……そうなのか?」(よくわかってない)
セヴァン、里芋、セノ。背の高い順に歩いていく。
が、必死に二人の歩くスピードについていく途中でセノが転んだ。
セノの「うぐっ」という声に気づいたセヴァンが振り返り、青ざめる。
完全に三歩以上離れるところだった。
背の低い順に歩いていくことにした。
セノの歩みが遅いので里芋とセヴァンがもたつきながら歩く。
見つからないように裏から家に入って行く。
セノの部屋は二階。
途中の階段から物が置かれていた。
セノの部屋は足の踏み場がなく、物がびっしり。
セヴァンの顔が引きつる。
里芋も険しい表情になる。
セノが物であふれかえる部屋の中に入って行く。
セヴァン「三歩以上になるんじゃないか?」
セノ「1……2……3……あった!」
里芋「今、三歩超えた?」
セヴァン「……」(完全に顔が引きつる)
里芋「子供の一歩だから大丈夫だったんじゃない?」
セノがお金を握りしめ、出てきた。
このあと、三人は市場に行ってシカくんのごはん――白い麦と葉野菜を二つの大袋と一つの子袋いっぱいに無事調達した。




