シカくん、ととのう
収監所三階。囚人たちを見渡せる階層。
そこには里芋とセノとシカくん。
そして、目を見開いて、あとからやってきた茄子がいた。
「おい! なんだそれ? ダメだろ」
茄子がシカくんを指さす。
そして、里芋に唇がつきそうになるくらい詰め寄ると、首元を掴んだ。
「大人しく子守してろと言っただろ」
「言ってない」
「……言ったよな?」
「言ってない」
「言ったよな!」
「言ってない」
茄子は掴んでいた里芋の首元を突き放した。
コホッ、コホッ
里芋が咳き込む。
ギルマンは壁に肘をついて、黙って一部始終を見ていた。
3人に気づかれないように息を吐いて間を取る。
「こいつが勝手に……」
茄子がギルマンに気づく。目でも訴えかける。
しかし、ギルマンはその目を最初から見ないよう、視線を外しており、合わせようともしない。
「出ようか?」
ギルマンは4人それぞれに視線を送り、そう言うと先頭を切って、収監所の入口まで向かった。
◇◇◇
茶色い土の地面の上にセノの首、その隣にシカくんの首がある。
目を閉じたまま、じっと動かない。
その後ろ、夕焼けに照らされ、里芋が目を細め、うつむいて座っていた。
「どうだい?」
「……気持ちいぃ……」
セノは目を閉じたまま答えた。隣のシカくんは目を閉じたまま反応しない。
里芋は両手で砂を掬うと、砂を首元までかけてあげる。
トントンと首元の砂を固める。
このあと、里芋がどれだけ話しかけても二人とも何もしゃべらないし、全く動かなくなった――
しばらくたって、砂がどんどん減っていく。
セノとシカくんの首から下が徐々に姿を現す。
「おしまい。ごはん食べに行こ」
ひざ下まで砂がなくなると、二人は目を開けることもなく、膝がカクンと折れてへたり込んでしまった。
セノはどことなく少し口元が緩んでいる。
「ちょっと……そんなに……良かった?」
里芋は空になった砂風呂の槽に降りると、セノとシカくんの手を引っ張った。
しかし、二人とも手に力が全く入ってないし、動かそうともしない。反応もない。
「ちょっと…………もぅ……」
しばらくすると、セノは両手を開いたり、閉じたりし始めた。何かを実感している。
そして、シカくんにも目のチカラが戻った。軽やかに槽をジャンプして抜け出すと、宙を舞うように何度も後ろキックの試し蹴りをしていた。
◇◇◇
里芋とセノ、シカくんは三人横に並んで収監所入口に向かって歩いていた。
「シカくんのごはんあるの?」
ふと、セノが里芋を見上げて質問する。
シカくんの耳がピクッとする。
「ん? そっか……」
里芋は部屋に戻る前に食糧庫へと向かう。
もちろん、セノとシカくんも一緒。
大きな黒い壁の前に立つ。
里芋がてのひらで壁に触れると黒い部分だけがスッと消えた。
紙の独特な匂いが漂ってくる。
中は真っ暗。
シカくんは目を閉じ、鼻をくんくんする。
里芋が灯りを準備している間にシカくんが音もなく中に入って行った。
それに気づかず、里芋は手に灯りを持つとセノと中に入って行く。
ゴソゴソ
「誰かいる?」
「シカくんじゃない?」
セノの言葉に里芋は小走りで音のする方向へと向かう。
「あ……」
そこには袋を食い破って中身を無心で食べているシカくんの姿があった。
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【あとがき】
収監所の入り口・看守の待機部屋。
食糧庫から里芋とセノとシカくんが戻ってきた後の出来事。
茄子はまだ腹の虫がおさまっていなかった。
見回りから帰ってくるなり、部屋の中にいる鹿を見て声を荒げた。
「さっさと、その鹿、つまみだせよ!」
里芋は動かない。
茄子は紙の束を使って、シカくんを外へ出そうとする。
「出て行けよ」
シカくんは、ゆっくりと入口の方へと頭を向けた。
そして、シカくんのおしりを茄子が紙で叩いた瞬間。
シカくんのジャンプ後ろキックが茄子の両肩に入った――
バシッ
茄子の身体は最初からそこに居たかのように壁にもたれ、泡を吹いて、うなだれていた。
シカくんは首をシュッとしてセノと里芋を交互に見上げる。
うしろのほうで見ていたゴボウは口を開けたまま固まっていた。




