セノの収監所見学
アバロン収監所の囚人たちの場所。
それは岩盤の中を大きく、くりぬいた土色の空間。
そこには外の暑さが届くことはなく、快適な温度に保たれていた。
壁一面に2段、上下6部屋ずつ独房の扉が並ぶ。
それが四面すべてを埋め尽くしていた。
この空間が収監所には4つある。
魔力持ちか否かと、男女で空間を分けている。
4つの空間すべての定員は192名。現在は107名の囚人が収監されていた。
それをたった五人の看守――大根、人参、茄子、里芋、ゴボウで管理している。
看守の主な仕事は囚人の監視と食事の提供。
しかし看守と囚人は顔を直接合わせることはほとんどない。
食事などのやり取りは1階の中継部屋に置くだけで済ませるからだ。
お昼、看守3人が薄暗い収監所の入口にある部屋で昼食を食べていた。
これは看守のルール。常に誰か2人が2階の監視部屋にいることになっている。
ただ、そこにいる大根と人参の2人は基本昼寝状態だった。
茄子は昼食を終えると、すぐに出て行く。
残されたのはまだ食事中の里芋と食事を終えたゴボウ。
それはいつもの光景だった。
しばらくすると、茄子が不機嫌な顔をして帰ってきた。
「頼む」
そう言うと、連れてきた子供を部屋の入口に置いて、すぐに出て行った。
里芋は急いで向かうと、唖然として、子供の頭と茄子の背中を交互に何度も見た。
ふと外へと目線を向ける。
そこには、日陰にいた鹿がちょうど立ち上がる姿があった。
◇◇◇
セノは里芋に連れられ、シカくんと一緒に所内を散策することになった。
ここは収監所。
囚人の空間ぐらいしか見るところはない。
そして、その空間は入り口の近くにある所長室の中を通ってからしか行けない。
里芋はセノとシカくんを連れて、所長室への階段を登って行く。
所長室の扉の前まで来ると振り返った。
「部屋を出るまでしゃべってはいけないし、足音も立てちゃいけない。わかった?」
セノがうなずく。
それを見て、シカくんもうなずく。
里芋は手のひらを扉に当てると、音もなく扉が消えた。
所長が机に座っているのを確認すると、滑るような足取りで入って行く。
セノもまねをして、里芋のあとに続く。
さらに、シカくんもそのあとに続くが、足先をしならせて、悠々と歩く。
所長室のもう一つの扉に里芋が手のひらで触れると、同じように扉が消える。
そうして、ギルマンに気づかれることなく、3人は所長室を出て行った。
3人が所長室を出てしばらくして。
ギルマンはセピア色の囚人たちの顔写真をずっと眺めていた。
ふと、顔を上げた。
向こうに里芋とセノの背中が映っている。
一度は机の上に視線を戻したが、気になって、もう一度見た。
少し考える――
再び顔写真に目を戻した。
シカくんもセノの後ろに居たが、ちょうど死角に入っていて、ギルマンは認識できなかった。
◇◇◇
セノとシカくんは囚人たちの空間を上から見下ろしていた。
里芋が背伸びをしたセノに話しかける。
「ここが魔力なしの男性エリア。知り合いいる?」
「んー、いない」
それを聞くと、里芋は次のエリアに向かって歩き出した。
「ここが魔力持ちの男性エリア。ほら、ニタニルいるよ」
そう言うと、里芋がニタニルを指さす。
ニタニルはぽつんと一人、一点を見つめ、口元を動かしていた。
「宰相らしいね。どうするんだろ……」
「もうクビになったよ」
「そうなんだ……」
セノが里芋を見上げ、ニタニルの情報を付け加えた。
「魔法は使えないよ。でも魔術は勉強中」
「そうなんだ……なんでここにいるんだろ…………まぁいいや」
「ここが魔力なしの女性エリア……。エレラインって知り合い?」
「召喚したことある」
「召喚? へぇー、そんなことできるんだ」
「暴れたから、すぐに戻した」
エレラインが下から里芋をニラみ続けている。
里芋はそれに気づくと、視界に入らないように、すぐにその場を後にした。
---------
【あトがき】
収監所入口。
茄子が帰ってきた。
そこには両足を投げ出して、本を読んでいるゴボウしかいない。
茄子 「里芋は?」
ゴボウ 「……子供を連れて、出て行きましたよ」
茄子 「なんでだよ!」
ゴボウ 「中を見せたかったんじゃないですか? 何かまずいんですか?」
茄子 「あのバカ……」
そう言うと茄子は足早に出ていった。




