セノ、目覚める
アバロン収監所の所長室。
そこには二体の銀糸の繭が横たわっていた。
ギルマンはシートを持ってくると、床に敷き、その上に小さい銀糸の繭を置かせた。
看守たちに頭以外の銀糸を一層ずつ剥がさせる。
白い輪っかをつけようとするが、大きすぎてつけられない。
仕方なく看守四人が一つずつ輪っかを両手で持つ。
輪っかが黒くなり、色が変わらなくなるまで待った。
急いで頭部の銀糸を剥ぐ。
そこにはぐったりした子供の顔があった。
「セヴァン!」
ギルマンはセノの顔を真剣に見つめたまま、セヴァンを強い語気で呼んだ。
セヴァンは重い足取りでやってくると、セノの前で屈んだ。
――セノは汗ばんだ顔で気を失っているように見える――
その顔の少し上にそっと、セヴァンは左手をかざした。
セノのこわばった表情が少しずつ和らいでいく。
ギルマンはセノの服を脱がせると、その服を黙ってセヴァンに渡す。
受け取ろうとしないセヴァンの手元に、もう一度突きつけた。
渋々服を受け取ると、セヴァンは所長室から出て行こうとした。
「待て! シートもだ」
◇◇◇
看守たちは残ったもう一つの大きな銀糸の繭を囲んで見つめていた。
「気を付けろよ」
ギルマンは笑いを噛みしめながらそう言うと、看守一人一人の肩を握っていく。
そして、机の上に腰掛け腕を組んで、作業を見守る。
その隣には毛布にくるまれて眠るセノの姿があった。
同じように頭部以外の銀糸を剥がさせる。
途中、看守がエレラインの肌に少しでも触れると暴れるため、それだけで看守たちは体力を消耗した。
白い輪っかを持った看守二人がギルマンを見つめる。
「エレラインは魔力持ちではない。だが、規則は規則だ」
二人でエレラインを押さえ、残りの二人で白い輪っかをつけていく。
しばし、輪っかの色を見つめる。
そして、色の変わらなかった輪っかを再び取り外す。
その間も、しっかり暴れるエレラインに看守四人とも満身創痍になった。
二人でエレラインをうつぶせのまま押さえ、残りの二人で頭部の銀糸を剥ぐ。
エレラインは咳き込みながら悲鳴を上げ、首を上げてはまぶしそうに周囲を見ようとする。
ギルマンと目が合ったエレラインはしばし固まったのち、うなだれるように頭を伏せ、静かになった。
ギルマンは看守たちをねぎらうようにやさしい目で合図する。
胸をなでおろした看守たちは、顔を伏せたまま力の抜けたエレラインを連れて、部屋から出ていった。
◇◇◇
セヴァンが洗濯を終え、所長室に戻ってきた。
ギルマンにシートを渡し、机の上に乾いた服を置く。
その一部始終を見ていたギルマンが問いかける。
「服の中に入ってた物はどうした?」
袖の中から包まれた布をためらうように取り出す。
さらに、その布の中から紙の束を取り出した。
「たぶん魔法紙です」
ギルマンはそれを受け取ると、パラパラとめくってみる。
「ん……。読めるか?」
「読めません」
「待て……。魔術師か? おまえと同じだな。厄介だぞ……」
ギルマンのその言葉にセヴァンは引きつった笑みを浮かべる。
そして、セノに視線を向けるギルマンの表情を一瞬うかがった。
セヴァンが寝たままのセノに服を着せた。
ギルマンはそれを待っていたかのようにセノを抱えると、セヴァンの左肩にセノの胸を当てて、肘で支えさせる。
「そのまま!」
ギルマンが少し大きなキレのある声を放つので、セヴァンは思わず固まってしまった。
ギルマンの右手がセヴァンの左肩、左手がセノの背中に触れた瞬間。
ビリビリッと衝撃が全身に走った。
セヴァンは目を開けたまま、視線を下に向けて歯を食いしばった。
セノの目がゆっくり開く。
「!」
セヴァンはセノとつながった腕を見つめ、目を丸くした。
セノのグーパーグーパーする左手がセヴァンの顔に当たる。
迷惑そうな顔をするセヴァンはそれをかき分けるようにギルマンと目を合わせようとする。
「……どういうことですか?」
「そういうことだよ。ここでは預かれんと言っただろ。約束を破った罰だ」
ギルマンは少し口角を上げると、水を口に含んだ。




