エレラインとキヴァス
朝の魔法紙工房、キッサの作業部屋。
いきなり部屋に入って来たセヴァン。
まっすぐ、キッサのもとに向かい、話しかける。
「正直に言ってくれ。エレラインと話せるか?」
キッサは下を見つめたまま、少し考えるとはっきりと答えた。
「……話したくないです」
「わかった」
一瞬の間をおいて、セヴァンは答えると、すぐに部屋を出た。
扉のすぐ隣で背中をスーッとすべらせて座り込む。
そうして、キヴァスとシヴが来るのを待った。
◇◇◇
エレラインは朝早くから紙作りに集中していた。
作業場の真ん中を無言で突き抜けていく、キヴァスとシヴ。
エレラインはその風と匂いを感じ、顔を上げた。
扉が閉まって、二人の背中が見えなくなるまで見続けた。
今日も背中を見れた。
その余韻に浸りながら、エレラインは手を動かした。
紙をすく器を小刻みに上下に揺らし、黒い浮遊物を均等に振り分けていく。
「エレライン」
ふと聞こえた自分の名前。
顔を上げると、目の前にキヴァスとシヴがいた。
シヴはエレラインを見て、控え目な笑顔だが、キヴァスはエレラインの手元を見たまま。
エレラインはまばたきをせず、目を見開いてキヴァスの目を見る。
キヴァスが目を伏せたまま、切り出した。
「ちょっと来てくれるか」
「……はい!」
エレラインの声が弾んだ。
作業場の真ん中を突き抜け、扉の中へと入っていく。
キヴァスがエレラインの歩みを確かめるように、時折振り返る。
ただそれだけ。それだけでエレラインの胸は満たされた。
突き当りを左に折れ、いちばん奥の部屋まで向かった。
キヴァスがその部屋の扉をノックした。
扉を開けるとエレラインだけ部屋に入るように手で示す。
中には見たことのない中年男性が立っていた。
「君がエレラインか?」
「はい!」
その男性がエレラインの目の前までやってくると、右手をエレラインの頭の上にゆっくりと上げた。
エレラインは茫然と、その手を見つめる。
そして、その手が下り始めた瞬間。
エレラインの視界は完全に閉ざされた。
◇◇◇
アバロン収監所の所長室。
ギルマンとセヴァン、看守四人。
大小二体の銀糸の繭が、並べられていた。
ギルマンは机から立ち上がると、セヴァンの座る椅子の対面に立った。
呆れた表情で目の前に座るセヴァンを見下ろす。
「なんだ? お前は自分で約束したことも守れないのか?」
「ついでにエレラインも連れてきました。あと、エレラインの毒に侵された者たちも使い物にならないので後日、連れてきます」
セヴァンはギルマンを見ることなく、ギルマンの後ろに広がる、茶色一色の外を見つめたまま、答えた。
「新しい毒の用意はできとらんぞ」
「構いません」
小さい方の銀糸の繭が立ち上がって、動き始めた。
ちょこちょこ横歩きで部屋の中を動き回る。
それを看守四人が追いかけるが、捕まらない。
しかし、その繭は突然立ち止まった。
看守たちが顔を見合わせ、そっと距離をつめていく。
繭から液体が出て、床にじわじわと広がっていく。
それを見て、看守たちの動きが止まった。
その状況を知る由もなく、ギルマンは静かに腰かけ、セヴァンに問い詰める。
「子供の方はどうするつもりだ?」
「おまかせします」
ギルマンはセヴァンの目を見ると、視線を落とした。
そして、看守たちの方を向いて声を掛けようとした。
「銀糸をはいで……待て!」
ギルマンは看守たちの違和感に気づき、慌てて制止させた。




