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魔術師セノ  作者: 森山すぱこ。
セノの夏休み
51/57

セノの工房訪問①


お昼すぎの工房付近。


ザッザッ、ザッザッ


白い雪原の中を黒い物体が走り抜けていく。



モリサは工房のてっぺんから、なんだかわからないそれを眺めていた。

右から左。後ろから前へと駆け抜けていく。

それはアテもなく、走っているようだった。


そして、それは工房の手前で突然止まった。

その反動で上に乗っていた別の黒い物体(セノ)がそのまま前へと投げ出された。



モリサは見下ろす先にある黒い物体の本体(シカくん)と目が合うと、滑るようにして落ちる。


スーーーーーッ、バサッ


植え込みの茶色いツルのクッションにおしりがハマってしまった。

両足をバタつかせるが、抜け出せない。


「ペゴォォォーーーー!」


モリサが目を閉じて叫ぶ。

シカくん(ペゴ)は近づいてモリサの首をくわえると、地面にそっと降ろした。


目を開けると、そこには凛とした佇まいのシカくんがまっすぐ見つめていた。

――モリサはシカくんの首元にギュッと抱きついた。




雪まみれのセノは、口からパフッと雪を吐き出すと、ブルブルッと体を振った。

サッサッと両手で雪を払い落とす。

そして、少し離れたところから、シカくんを見つめる。

そこには、シカくんが少女(モリサ)を見上げる姿があった。

シカくんの瞳の輝きが増していくのを感じて、思わず笑顔になった。



◇◇◇



工房の裏手。

セノは一人で、昨夜訪れた場所に来ていた。


昨日と同じ魔法陣を出そうとポケットに手を入れる。

しかし、周りの地面に降り積もった雪が視界に入り、急に気が変わった。


まず、何の意味もない枠だけの魔法陣を描いた。

その魔法陣を空中に浮かべて大きくすると、それを使って周辺の雪をかき集める。

そして雪山を作った。


次は別の魔法陣を描く。

今度は魔法陣を描いた魔法紙の両端を持って、雪山の前で一振りした。

すると、魔法陣が雪山の中へとゆっくり入って行く。

魔法陣から次々と雪の板が連続で飛び出し、工房の窓の下へと階段状に積み上がっていった。

雪の板は粉雪をまき散らしながら、次々と何層にも隙間なく積み重なっていく。

そして、窓へと続く雪の坂があっという間に出来上がった。


セノは手をつきながら、一歩一歩踏みしめ、雪の坂を登っていく。

そして、無事、窓までたどりつけた。

でも、窓が上がらない。

中をのぞくも、部屋には誰もいなかった。


「ねぇ。何してるの?」


シカくんを追いかけてやってきたモリサが、セノに声をかけた。


「遊びに来た」

「そこ、入り口あるよ」


モリサはセノから少し離れた場所を指さす。

セノは腰を落としてゆっくり雪の坂を下ると、その入り口まで走った。

ちょっと背伸びをして、扉を開けようとするがドアノブが回らない。

振り返って、モリサに尋ねる。


「セヴァン、知ってる?」

「……ちょっと待ってて」


モリサは少し考えてから、奥へと歩きだした。

そのすぐ後ろをシカくんもついていく。

さらに、セノもその後をついていく。


工房のまわりを半分近く歩いたところで、キッサが蒸気タバコを吸っていた。

キッサはモリサの話を聞くと、蒸気タバコをケースに仕舞って、中に入っていった。



セノはシカくんに話しかける。


「ペゴ」


セノの少し先を歩くシカくんの耳がピンと反応する。


「ペゴ」


シカくんの耳がピン、ピンとなった。



◇◇◇



キヴァスとシヴは二人して横になっていた。

今は昼休憩。

何の音も聞こえない。

天気が良ければ、雪がドサッと落ちる音がたまに聞こえるくらいだ。


シヴが左側に寝返りを打とうとして、キヴァスの左腕が引っ張られる。

シヴは完全に腕がつながっていることを忘れて寝ていた。

キヴァスは仕方なくシヴの背中に顔を寄せ、静寂を満喫したまま眠りについた。



左肩を揺すられて目が覚めた。


「お客さんだって」

「うん……。珍しいな」


「いくよ……」


キヴァスとシヴは、両手を振り上げると同時に勢いよく上体を起こし、座る体勢になった。

スッと立ち上がると、部屋を出て、薄暗い廊下のすぐそばにある扉を開けた。

シヴは扉を開けたまま、建物から出ずに近くにいたキッサとモリサに問いかける。


「お客さんは?」

「あそこ」


モリサが指をさす。

シヴとキヴァスが上半身を出して、その方向を見つめる。

目を凝らすと黒い点が見えた。

だが、それは建物の反対側へと消えていった。


シヴが消えた方向を見ながら、もう一度問いかけた。


「……もしかして、男の子とシカじゃない?」

「そうです」

「ほら……」


キヴァスの顔が引きつる。

建物のまわりをおそらく一周したであろうシカくんがモリサの前で前足を突っ張って急に止まった。

すると、シカくんの背中に掴まっていたセノが投げ出された。

セノは眩しそうな目でシヴたちをまっすぐ見つめたまま、滑って向かってくる。

シヴはキヴァスに問いかける。


「どうする?」


一瞬、目を離した隙にさらに加速したのか、もう目の前まで来ていた。

キヴァスは急いで扉を閉めようとするが、間に合わない。

セノの手が閉まりかける扉をつかむと、シヴの片足を巻き込んで、建物の中へと華麗に入っていった。



---------

【あとがき】

セノがシカくんに乗って爆走する時の脳内BGMです。(特にサビの部分)

以下のURLはアーティストの公式チャンネルで公開されているインスト音源です。

https://www.youtube.com/watch?v=1Mm7FoquuOM


※こちらのアーティスト様と私は一切関係ございません。一ファンとしての紹介となります。


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