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魔術師セノ  作者: 森山すぱこ。
セノの夏休み
49/57

スイッチが入るセノ


セヴァンの部屋と、コロミィの作業部屋は隣合わせ。

廊下からそれぞれの部屋に入る扉のほか、二つの部屋を隔てる壁にも扉があった。

その扉はいつも開かれている。


コロミィが作業部屋で水槽の中の水をかく。

その音が、セヴァンの部屋にも心地よいリズムで聞こえてくる。

それは静かな旋律のようにさざめいていた――



セヴァンは振り返った、その時。


――ニコッとして固まる子供(セノ)の姿――


それが窓の向こうにあった。

すぐに正面に顔を戻すと、腕を組んで、目をギュッとつぶり、うつむく。


「まだ、居るか?」

「「居ます……」」


セヴァンは眉毛をピクッと上げた。

目を開けると、もう一度確認した。


「まだ、居るか?」

「「居ます……」」



キヴァスとシヴの声は小さくなった。

セヴァンは覚悟を決め、伏し目がちに窓に近づくと、下から上へとゆっくりと窓を開けた。

そこで初めてセノと目を合わせる。


「何か……用かな?」

「……あっ……」


「……」

「忘れてた……」


「何を……?」

「……」


しばらくの間、セノとセヴァンは無言のまま見つめ合う。

シカくんは残念そうな目でセノの横顔を見上げていた。



◇◇◇



セヴァンは突然現れた窓辺の少年(セノ)に穏やかな声で提案した。


「入る?」


セノはセヴァン、そして、後ろの二人を順番に見ていく。


「……明日にする」

「そう……」


セヴァンは左手で窓を支えると、顔を窓から少し出して、右手を下ろした。

無数の細い銀糸がモワッとその残像に沿って湧くと、セノたちへと向かう。

しかし、それはセノたちにたどり着くことなく、直前で音もなく跡形もなく消えていく。


それを見たセノ。その目つきが変わった。

おねむで重くなりかけていたまぶたがしっかりと据わる。


「何それ?」


セヴァンはとっておきの技を無効化され、右手の震えを押さえきれなかった。

伏し目がちにセノとシカへ交互に視線を走らせる。


「何それ?」


その言葉にセヴァンは我に返ると、目の前までセノの顔が近づいていた。

手を伸ばせば、確実に届く距離だ。

もう一度、そっと右手を上げ、振り下ろそうとした時。



「できたよー」


コロミィの明るい声が後ろから聞こえてきた。

セヴァンは後ろを振り返ることなく、セノを見つめたまま、噛みしめた唇から小さく息を吐いた。




セノとシカくんは宙に浮いたまま、窓から入っていく。

セヴァンは押しのけられ、何もできず、唖然としてセノを見つめるだけ。

キヴァスとシヴも少し口を開けたまま見つめるだけ。

コロミィは扉の隙間から出した顔を少しだけ傾け、不思議そうにまばたきをくり返すだけ。


セノは床に置かれた銀糸のかたまりに一瞬目を奪われるも、コロミィのところにまっすぐ向かう。


「何ができたの?」


コロミィはセヴァンを見るが、目線が合わない。

セヴァンはセノをじっと見つめたまま。


セノはためらいなく、コロミィの部屋をのぞく。


「何これ?」


そこには濡れたまま、大人の手のひらぐらい分厚い紙が板の上に置かれていた。

セノとシカくんは少しずつ降下していく。

そして最後に、ストンと床に落ちた。


「何これ?」


セノは床に着地すると、銀糸に包まれた物体に近づき、屈んでつつき始めた。

その物体は真ん中あたりがビクンと激しく反応を見せる。

セヴァンは急いで、その間に駆け寄ろうとする。

しかし、セノとシカくんに同時に振り向かれ、その足を止めた。

セヴァンは胸元まで上げた右手の震えが止まらない。


その時、銀糸に包まれた物体(ニタニル)が自ら動き出した。

床に両手をついて、腰を上げて、銀糸の中から姿を現した。

目は開けているが床を見つめたままで焦点は合っていない。

しばらくすると、ニタニルはまぶしそうに見渡した。

ひととおり見渡したのち、セノをじっと見つめ、言葉をこぼす。


「おまえは……生意気なクソガキか」


そして、ニタニルが目を細め、セヴァンをニラみつけた瞬間。

セヴァンはドタッと大きな音を立てて、床に倒れ込んだ。


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