シカくんのセンサー
工房の近く。
元盗賊と元重装兵はオオカミのソリで収穫したばかりの藻を運んでいた。
途中で昨日まではなかった木製の小さな家を見つけた。
二人はソリを止め、わざわざそこまで歩いた。
それは大人の男性の腰くらいの高さと大きさ。
「なんだこれは?」
「さっき見たのと同じだね。なんだろうね?」
元盗賊は扉を開ける。
何もない。
元盗賊の吐く白い息で満たされるほどに中は狭い。
「寒いから、行こう」
元重装兵はそう言うと元盗賊と腕を組んで強引に引っ張った。
◇◇◇
工房の奥の部屋。
静かに作業が行われていた。
そこに居るのは二人の男女。セヴァンとコロミィ。
二人は一つの机の前に座って肩を丸めている。
開いていた扉をノックして、元盗賊が声をかける。
「今日はどうしますか?」
セヴァンがその言葉にすぐに反応し、顔を向けて答えた。
「今日は一杯分だけでいいよ」
「あいよ」
そう言うと元盗賊は隣の部屋に行き、そこにある水槽に藻をゆっくりと沈めた。
◇◇◇
小屋の中。
爺さん、キヴァスとシヴ、元徴税官、それとシカくんで暖炉の周りに集まっていた。
小屋の中には人間用の調理済みの食べ物ばかり。
それではおそらくシカくんの空腹を満足させることができなかったのだろう。
シカくんは寝そべってリラックスしているように見えるが、目や耳をせわしなく動かし、警戒を怠っていない様子。
突然、シカくんが立って、耳をピクピクし始めた。
扉の方に走って行くと、頭突きを始めた。だんだん、その音が強くなる。
元徴税官がヒモをシカくんの首にかける。
そして、片手でゆっくりと扉を開けた。
開ける途中、その隙間にシカくんは頭をグリグリとねじ込む。
そして、胴体まで外に出るとすぐに全力で走り出した。
「絶対離すなよ」
そうキヴァスが言った直後、元徴税官はスッと音もなく消えた。
キヴァスとシヴがシカくんのあとを追う。
元徴税官が引きずられた跡がしっかり残っている。
その上を走っていると、途中で元徴税官が転がっていた。
「ありがとう」
そう言って、キヴァスとシヴはそのままシカくんの後を追う。
シヴは元徴税官に向かって、片目をつぶって、指先を動かし、「あとでね~」の口パクをした。
元徴税官は「えっ」という表情で手を小さく振った。
そのまま、しばらく走った。
そこではシカくんが夢中で袋の中身を食べていた。
キヴァスもシカくんのそばでしゃがむ。
(白い麦? この葉っぱはなんだ?)
キヴァスはためらうことなく、袋の中身を口にする。
「わからん……何かの葉っぱと何かだな……」
「うん……そうだね……」
「これ、自分で開けたのかな?」
「ん?」
キヴァスは視線を感じ、ふと一点を見つめた。
キヴァスの視線に気づき、シヴもだまってそれを見つめる。
よく見ると小さな足跡がある。
キヴァスとシヴで周辺をつま先で突いて探ってみるが、やはり何もなかった。




