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魔術師セノ  作者: 森山すぱこ。
セノの夏休み
46/55

湖畔の攻防


凍った湖面を夕日が赤く照らす。


その湖面で三つの人影がそれぞれ動いていた。

元盗賊と元重装兵は凍った湖面の下から藻を引き揚げる。

元徴税官は藻の種まきと生育状況を確認していた。


――バン!


突き抜けるような衝撃音が響き渡った。

三人は同時に作業の手を止める。

そして、音のした方向へ顔を向けて、固まった――



真っ先に走り出したのは、元盗賊だった。

元重装兵もその後を急いで追う。

さらにその後、元徴税官は彼らとは逆方向にある小屋へと走った。


元重装兵はその巨体に見合わない脚さばきで元盗賊に追いつく。

太い腕を伸ばし、その首元を掴んで踏ん張った。

そして、止まるとすぐに元盗賊を力の限り、後ろにぶん投げた。


元盗賊は目を見開いて宙を舞う。


元重装兵は振り返ることなく、足を進める。

衝撃音のした場所にいた子供たちのもとまで進むと、デンと腰を下ろし、あぐらをかいて話しかけた。


「どこから来た? なんでここにいる?」


「ちょっと待って……」


小さな男の子(セノ)は手袋を脱いだ。

そして、ポケットから手のひらサイズの紙の束を取り出す。

その紙の束をパラパラとめくりながら、小さな女の子(ノノア)に近づいていく。

その手を握る――すると、跡形もなく一瞬で消えた。


残されたシカくん。

消えた場所を見つめ、まばたきをする。


そして、元重装兵とシカくんは、しばし見つめ合った――




元徴税官がキヴァスとシヴを引き連れて、やってきた。

シヴが早速気づく。


「この前のシカじゃない?」


シカくんは耳をピクピク動かし、周囲の気配を感じ取ろうとしている。


「どうした?」


キヴァスが元重装兵の肩にドンッと手を置く。

元重装兵がハッとして、見上げる。


「……子供が二人いたんだけど……突然消えちゃって……」

「ほかには? この小屋はシカの家? 前からあった?」

「それは……わからないです……」

「その子供はどうやって消えたか見てたか?」

「女の子と手をつないだら消えました」

「……」


元重装兵は振り返って元盗賊を見るも、元盗賊は頷くだけ。

キヴァスは目線を遠くに向ける。シヴはその横顔を面白そうに見ている。


元徴税官は元盗賊の袖を引っ張った。


「仕事に戻ろう」


元重装兵と元盗賊は仕事に戻るため、ようやく立ち上がった。



キヴァスは、付近に何か手掛かりは残されていないか目で探していた。

ふいに左肩をシヴに引っ張られる。

シヴは倒れた小屋の破片を拾って、下から眺める。


「どうする? 待つ?」

「……」


「おいで」


シヴはシカくんを手招きするも、まったく反応がない。


「連れていったほうがまた来たときにわかるかも……」

「鹿って何が好きなんだ? 野菜? 肉?」

「ついてこないか……急いで食べ物持ってこよう」

「そうだな」


シヴを中心に反対方向に転換すると、二人は走って小屋に向かった。



◇◇◇



セヴァンは銀糸の繭を引きずりながら、工房の奥にある部屋に入った。

そこにはすでに工房の匠の一人――コロミィが正面の机で食事をしていた。

いつもはしない音にコロミィがすぐに振り返る。

視線がセヴァンの顔と引きずってきた物の間で何度も往復した。


「プレゼント?」

「なんでだよ……」


セヴァンはアゴに力を入れると、その繭を入り口のすぐ脇にそっと置いた。


「これは無い物として……とにかく気にしないでくれ……」


セヴァンは小さく開けた口から、静かに長く息を吐き続けた。

荷物から解放され、少し笑みがこぼれた。


コロミィは食事をしながらボソッと呟く。


「何か聞こえるよ?」

「気にしない」


セヴァンは少し被せ気味に答えた。

繭の中身がかすかにうごめく――


セヴァンは目を逸らすと、コロミィの隣の席に腰を下ろした。

コロミィの食べている缶詰を見つめる。


「缶詰でいいのかい?」

「うん。これでいい」



窓に張り付く小さな雪――

コロミィが缶詰をスプーンでカチカチと掻く音だけが響いた。



◇◇◇



セノは一人で大きな袋を持って、湖畔に戻ってきた。

辺りはもうすっかり暗くなっている。

しかし、暗くはなったが雪原はぼんやりと明るい。


大きな袋の中にはシカくんのための食べ物がたくさん入っている。

セノはそれを手で大きく円を描くように混ぜた。

聞き耳を立てて、ゆっくりと混ぜながら、周囲を警戒する。


しばらく待ったが、それでも現れなかった。


セノは小屋の中に袋をしまうと、湖畔へと駆け出した。


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