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魔術師セノ  作者: 森山すぱこ。
セノの夏休み
44/55

湖畔の丸太小屋②


元重装兵に熱い飲み物を足の甲にかけられ、元盗賊はしばらく跳ねまわる。

それをまったく気にすることなく、元重装兵は話を続けた。


「あの二人はどっちなんだろうね。キヴァスは白。シヴは黒?」

「共犯じゃないのか?」


元徴税官の疑問に、爺さんが振り返って答える。


「ここに来て初めて会ったって聞いたな」

「いくら気が合っても、一日中一緒じゃ、地獄だろ」


「エレラインとなら構わない」


ようやくダンスを終えた元盗賊が神妙な顔をしてポツリとこぼした。


「「「言うと思った」」」



「エレラインの気持ちになって考えてみなよ」


元重装兵の悪気のない一言に元盗賊の目に火が灯った。


「おまえは人が余韻に浸っているのに、台無しにしてくれるな……」

「何の余韻? 何か想像してたの?」


悪びれない元重装兵の背後に回り込み、元盗賊はその首元に手を伸ばした。力ずくで顔を上に向かせる。


「どこだ? ここか? 頸動脈ここか?」




◇◇◇




「やっぱり、男六人で一つの小屋じゃ狭いよな」


突然、元盗賊がぼそっとつぶやく。

それを聞いた元重装兵がすぐに反応する。


「どうせ昼間は時間あるし、三人で作ろっか?」


「裏方で協力するけど、力仕事は苦手だから、実質二人だよ」

「「わかってる」」


元徴税官は早速、椅子を机代わりにして、設計図を書き始める。

元重装兵と元盗賊が上から肩を組んで覗き込む。


「エレラインとの新居、作っちゃう?」

「たまにはいいこと言うじゃねぇか」

「悪人同士、一つの家で殺し合えば……みん……なが……幸せになる……よぉぉぉ」


元盗賊は元重装兵が話している途中で、こめかみをグリグリする。

元重装兵は容赦のないグリグリに大きく目をあけ、叫びながらも最後まで言い切った。




そんな時、小屋の中に冷たい風が吹き込み、空気が瞬時に凍りついた。

キヴァスとシヴの二人が帰ってきた。

一瞥もせず、ぴったりと肩を合わせ、まっすぐ中二階へと続く階段を昇っていく。


爺さんも後を追うように向かった。




元重装兵と元盗賊、元徴税官はそれぞれ、仕事のための着替えに動き出した。


元重装兵が一番乗りで外へと出て行く。

夕焼け色に照らされた湖は氷に覆われていても暖かそうだが、外気に晒されれば、すぐに手はかじかんでしまう。


つづいて、元盗賊がすぐに出てきた。


二人は湖面へと一緒に歩く。

元重装兵が周りの景色から位置を確認すると、目盛りの付いた透明な細長い板をまっすぐ、ゆっくりと湖面の氷に突き刺し、円を描いていく。


元盗賊は円が一周するのを待ってから、足で思いきり踏み抜いた。

くり抜かれた氷の塊をそのまま足で下に押して、氷の層の下へと滑らせる。

そして、穴の中を覗き込み、お目当てのものを見定めた。

顔を上げると、今度は、湖の中に手を深く入れて(まさぐ)り、ゆっくりと引き揚げていく。


引き揚げられたのは、黒々とした藻草(もぐさ)だ。

後ろから元重装兵も手伝う。



ようやく、遅れて元徴税官がオオカミのソリでやってきた。

ソリからそっと降りて、穴の前までやってくるとポケットに手を突っ込んだ。

そして、ポケットから親指ほどの白い球を一つ取り出すと、湖面の穴に静かに落とした。


それはゆっくりと沈んでいく。



その時だった。

近くの湖面から天を突き抜けるほどの強烈な光が、真上へ一直線に駆け昇っていった。



◇◇◇



魔術教室の二階。

ニタニル(骸骨紳士)は壁際で、椅子の後ろ脚だけを使って前後にゆっくり揺れていた。

窓際でセノとノノアが魔法特訓(精神回廊)に励んでいる。

ニタニルはその様子を目を細めながら眺めていた。

久しぶりに元気そうなノノアを見て安心していた。


〈何だ? あの娘に何かあるのか? まさか、そういう趣味があるのか? 不死になったとしても変わらないんだな……〉

〈うるさい……二度と返さないぞ〉

〈人の体を許可なく乗っ取っておいて、その横柄な物言いはいったい何だ。本来なら「このたびは不肖な私に体をお貸しいただき、本当にありがとうございます。いかなる要望でも喜んで協力させていただきますので、遠慮なくお申し付けください」と言うところだろうが。本当に、救いようのない不作法者だよ、お前は……〉

〈よくわかった〉


ニタニルは長々しい言葉にうつむき、眉間にしわを寄せる。

そして、一瞬の魔力解放で本来の宿主の意識を遠ざけた。


頭の中に完全な静寂が戻った。



ようやく窓際に目線を戻す。


……


そこには誰もいない。

立ち上がって、教室の中を見渡すが二人の姿はどこにもいなかった。


額に汗が流れる。


ニタニルは目を閉じ、ノノアの魂を感じようとする。

しかし、どの方角からもその気配を探ることができなかった。


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