湖畔の丸太小屋①
工房からさらに北に行った場所。
生きる者の影はまったくない。
外に出て、息をすれば、すぐに凍るような白銀の世界。
湖はずっと分厚い氷に閉ざされ、季節の移り変わりなど存在しない。
その湖の近く、こっそりとある古びた丸太小屋。
そんな世界の果てのような場所に、六人の男たちが身を寄せ合って生きている。
小屋の真ん中で吊り下げられた暖炉。
今、それを中心として円状に置かれた椅子に四人が思い思いに座ったり、寝そべったり、机代わりにしたり。
小屋の中は男たちの会話に合の手を入れるように薪が爆ぜる。
「エレライン……」
ぽつりと言ったのはドヴェル。三十代半ばの元盗賊だ。かつては鋭かったはずの眼光はふだん抑えられている。
コップを持って一点を見つめたまま、動かない。
「また始まったか」
呆れたように応じたのは、四十すぎの元徴税官ヴリガン。白い顔でやれやれと手を振る。
「一日一回は言ってるな」
二十年以上、この小屋に住んでいる年長者――レロ爺さんがつぶやく。
「一度だけ、それも一瞬見ただけでしょ? それだけで一筋ってスゴいね」
椅子に突っ伏しながら、だらしない声をあげたのは二十代後半、元重装兵ヴァーグ。
戦場で戦っていたなど想像できないくらい肥えた体を揺らす。
「あの女に決めた」
元盗賊の揺るぎない顔つきを見た爺さん。火箸で炭を動かしながら忠告する。
「何度も言うがやめとけ。この爺に色目を使うヤツなんてろくなヤツじゃない」
「……爺さん、それは自慢か?」
「話を全部聞いてないな」
「もし結婚したら極悪夫婦になるな……違うか、二人とも刑務所に逆戻りだね……」
元重装兵が笑いながらぼそっと言う。
その瞬間、元盗賊がスッと立つ。
「なんだと……」
元盗賊は元重装兵にゆっくりと歩み寄ると、両頬を指でムニムニとつまんだり、離したりを繰り返す。
「やめろ……こぼれるだろ……」
「新入り?」
元徴税官が暖炉のゆらめく火を見つめながら、つぶやいた。
「もうだいぶ経つぞ」
「そうなのか、爺さん」
元盗賊が再び椅子に腰かけた。
「小さい子だぞ」
「たまには早起きして見に行くか」
元徴税官が顔を上げ、爺さんに目を向ける。
「昼間に行くと、いつも工房のてっぺんに座っておる」
「今度昼間に爺さんと一緒に見に行こう。工房に行くの、久しぶりだな」
「いくつくらいの子?」
それまで黙って話を聞いていた元重装兵がなんとなく質問する。
爺さんは何も言わず、両手をパッと広げる。
「十才?」
「そういう意味か、小さいというのは……その子は何をしたんだ?」
元徴税官がアゴに親指を当て、考え始めた。
「何もやってないから来たんだろう」
爺さんのあっさりとした返答に、元重装兵がニヤリと元盗賊の肩を片手で掴んだ。
「でも、こいつとエレラインは確実に黒だよ」
「おまえ、年上に向かって『こいつ』とはなんだ?」
元盗賊が元重装兵の手を払い、背後を取る。
「それにおまえも黒だろ」
元盗賊は元重装兵のこめかみをグリグリする。
「盗賊なのに盗まれちゃったね……エレラインは黒らしく、ちゃんと仕事してるのにね」
さらにグリグリが強くなり、元重装兵は声を出さずに叫ぶ。
「すっかり丸くなりおって……」
そう言うと爺さんは立って、外の様子を見に窓の方へ向かった。
元盗賊は元重装兵にトドメを刺すかのように、グリグリに力を込めて言い放った。
「お・ま・え・のせいで調子が狂うんだよ」
元重装兵、元盗賊の足に熱々の飲み物をちょっとだけかける。
「あっつ!」
元盗賊はしばらく跳ねてまわった。




