工房での攻防
昼すぎ。
久しぶりにキヴァスとシヴが工房に姿を見せた。
その後ろ姿を見たエレラインの表情が、一瞬だけ華やいだかに見えた。
キヴァスたちは作業している女性たちに一切声をかけることはしない。
足音すら立てず、気配を消し、工房の真ん中を通って真っ直ぐ奥の個室へと向かう。
その姿を追っていたエレラインはキッセがいつもの場所にいないことに気づいた。
エレラインの頬が、わずかに引きつく。
苛立ちがこみあげるのか、胸でこぶしを握りしめていた。
◇◇◇
その夜。
雪山の重い扉が、内側に開かれた。
灯りが外に漏れる。
モリサが外に出てきた。積もった雪を踏みしめる音が辺りに伝わっていく。
今夜は雪も降っていない。
扉を閉めると、再び明かりがなくなった。
ジャキジャキと固まった氷が解けるような音だけがする。
しばらく、モリサはそこに立っていたが、急に不安そうな表情になった。
モリサは中に戻ろうとしているのか、扉の取っ手を手探りで探し始めた。
指先が冷たいのか、時折ハァハァと息を吹きかけて温めている。
そのモリサの姿を友達の鹿――ペゴはひさしぶりに見つめていた。
四つの足がプルプルと震える。
いつ飛びかかろうかとタイミングをうかがう。
モリサの近くまで、ゆっくり近づくペゴ。
そして、再会の喜びを押さえきれなくなり、勢いよく後ろ足で地面を蹴った。
大好きな背中を目がけ、全力でダイブ。
ドンッ!
モリサは硬い雪の壁に額を強く打ち付け、そのまま力なく倒れこんだ。
ペゴは倒れたモリサの周りで頭を執拗にこすりつける。
けれど、いつまで経ってもモリサは動かない。
ようやく異変に気づいたペゴは、そっとモリサの首元をくわえると、さらに暗い闇の中へと消えていった。
◇◇◇
「あんた、やりすぎだよ。あの子が何をしたっていうのよ」
ティリーが腰に手を付き、あきれたように咎める。
「私に意見する気? どうなっても知らないわよ」
「あんたのイライラのはけ口にするんじゃないよ。みっともない」
そう言うと、ティリーは扉の前に座るエレラインをどかそうと肩を掴もうとする。
だが、エレラインは足を出して、近づかせないようにする。
そんな攻防が繰り広げられていた。
ドンッ!
二人が目を合わせ、互いに動きを止める。
さらにエレラインは背筋をピンと伸ばした。
小さな子供には出せない強烈な音だったことに息を呑んだ。
その隙をティリーは逃さなかった。
エレラインの肩をがしっと掴むと片手で体ごと持ち上げる。
エレラインの体が宙を舞った。
そして、後ろの地面に背中から叩きつけた。
ガサッ!
エレラインは目を開けたまま天井を見つめ、はぁはぁと口で息をしている。
ティリーは扉を開けると、エレラインを見下ろした。
「あんた、泣いてるのかい?」
エレラインの瞳からあふれた涙が、頬をなぞって耳元へと一筋のきらめく糸を紡いだ。




