ナツメあきらめる
深夜、ナツメは歩きながら迷っていた。
自分が足を踏みしめる音以外、何も聞こえない。
目の前には重厚な石造りの門構え。
深夜にもかかわらず、門は開いており、その先の庭は薄暗い灯りで照らされている。
その奥には魔法使いの名家、リコット邸の本宅がある。
本宅は五階建て、あるいはそれ以上だろうか。
表から見ただけでも、百人は容易に住まわせることができそうな屋敷。
大人の男性が独りで、女性の家を訪ねるには、時間があまりに遅い。
門は開いているとはいえ、数々の高名な魔法使いを輩出してきたリコット家。
色々な罠が仕掛けられているに違いない。
仮に罠を潜り抜けられたとしても、ヴァレンタリアの部屋を探し出すだけで、夜が明けてしまうだろう。
リコット邸の本宅を視界に入れたまま考える――
無理だ。
ナツメは潔くあきらめた。
明日の朝、学校で学長を交えてヴァレンタリアと話すことに決めた。
ナツメは闇に溶け込むようにして、リコット邸を後にした。
◇◇◇
翌朝、セノは弾むような足取りで魔術教室へとやってきた。
いつも居るはずの時間にノノアの姿がないのだ。
たぶん、居ないだろうが、念のため、ここにも探しに来た。
万が一の可能性もある。
教室の扉を開け、入っていく。
ナツメの姿がない。
二階かもしれない。セノはいつものように移動棒を使い、吸い込まれるように二階へ。
「あれ? セノ。早いね」
二階に着くや否や、背後から声をかけられた。
そこにいたのはナツメではない別の男。
ナツメがいない時だけ姿を現す、もう一人の先生――トーノだった。
「ナツメは?」
「ノノアちゃんとお出かけだよ。ちょっと遠出になるから、しばらく戻らないらしいよ」
「ナツメがおでかけ!? ノノアと!!!」
セノは、言葉を失って立ち尽くした。
まさかの組み合わせに思考が止まった。
セノはその場に崩れ落ち、力なく膝をついた。
そして、放心状態のまま、ナツメがいつも座っている席を見つめていた。
「セノ?」
トーノはセノの肩を必死に揺さぶって、飛んでいった意識を戻そうとしていた。




