真夜中の来訪者
夜の魔術教室は、物音一つ立てるのがためらわれるような、深い静寂が満ち満ちていた。
窓の外から差し込むわずかな光が、床に長い影を落としている。
ナツメは一人、魔法陣の試行錯誤に没頭していた。
描かれた魔法陣の光が、かすかにゆらめく。
その静かな空間を切り裂くように、音もなく扉が開いた。
そこには、夜の暗闇よりもさらに深い「何か」。
かつて誰よりも気高く、知を究めた魔導師の成れの果て――骸骨紳士。
だが、その姿は異様だった。
全身の三分の二が、影のように透け、見ることができない。
左上半身が、不気味に宙で揺れ、かげろうのようにゆらめいている。
そんな壊れかけの姿にもかかわらず、凍てつくような圧迫感を教室の隅々まで行き渡らせていた。
◇◇◇
骸骨紳士は低い鴨居を避けるように少し頭を下げて教室に入ってきた。
右手には、寝衣を着た少女が抱えられている。
「ノノア?」
ナツメは骸骨紳士のことなど気に留めず、ノノアの心配をした。
ノノアは、ただ力なく眠っていた。
声も出せない人形のように大きな骨の手に収まっている。
骸骨紳士はここを訪れるのが初めてとは思えないほど自然に、ナツメの傍らにあった椅子へ腰かけた。
そして、空虚な眼窩でナツメを上から射抜く。
口を動かすことなく、直接脳を揺さぶるような声が響いた。
「ナツメ……。君には感謝しているよ」
言葉に温度がなかったが、感謝の念だけは波のように伝わってくる。
ナツメは初めて骸骨紳士の深く暗い眼窩に視線を合わせた。
「どれだけ恩返ししてもしきれないのだが、もう一つお願いがある」
骸骨紳士は、ノノアを握る手に力を込め、絞り出すように言葉をつづけた。
「残りの魂の欠片を、一緒に探してほしい」




