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Cenacolo

追手がくるまいと男は私とBeeに車に乗るよう言った。

私は今の状況を受け入れられなかった。ただもし本当にBeeが256を知らないのなら、、、。


「256?に関する情報を教えてくれ」


走り出すと同時にBeeは尋ねる。

別に大して情報を持っているわけではないが正直に答えた。


「少し黒の混ざった茶髪で、年齢は20~30くらいの男。声は低く何回か直接話した。」

「ネットカフェで会ったのが最初で、その後コンビニでも会っている。あの時薬を飲まされたのもそいつだ。」

「ピザ屋の地下にもいた。銃を持っていた。」


Beeは黙って聞いている。


「Lozxを撃ったのは多分そいつだ。」

そう言い終えてから、少し間があった。

車の揺れだけが続く。

Beeは静かに息を吐いた。


─────────「Cenacolo」─────────────


「256という番号に心当たりはない。」


「つまりOrcaの内部の人間ではないということか?」


「少なくとも私が把握している限りはね。」


把握している限り。その言葉が少し引っかかった。

つまり把握できていない部分があるということだ。


窓の外を見ると、街が後ろへ流れていく。

Beeは再び窓の外に視線を向けた。

その横顔は何かを考え込んでいるように見えた。


「そもそも『Orca』とは何なんだ?」


そう聞くとBeeは少し黙り込んでしまった。

何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのだろうか


「後で話す。今は時間が足りないし盗聴されているかもしれないだろう?」


そんなに時間がかかるような話なのか。

やはり私にはよく分からない、そもそも一台のスマホの故障くらいどうでも良かったはずだ。

なぜこんなことに首を突っ込んでしまったのか。


相変わらず車のエンジンはうるさく音を立てている。


窓の外に目を向けた。

夕暮れが近いのか、空の端が薄くオレンジに染まり始めていた。


ビルの隙間からその色が覗いている。

歩道では会社帰りらしいスーツの男が俯いて歩いている。

コンビニの前で学生が笑いながら話している。

横断歩道を老夫婦がゆっくりと渡っている。


誰も私を見ない。

誰も私の事など知らない。


よくよく考えれば車に乗っている二人は全くの他人で、友人ですらない。

私に敵対する筈だった人物だろうが、今私は何かとても安心してしまっている。


二人とも無言だ。

誰も喋らないまま時間が流れている。

1分。また1分と。きっと私が思うよりも、。


何故かリラックスしきっていたがそういえば今私は殺人鬼的なのに追われている。

追手は来ていないのか心配だ。そもそも先程数人倒れていたがあれは何だったんだ。


「Bee、そもそも今どこへ向かっているんだ?」


「私の拠点、、まあ家だよ。これからのことは着いてから話す。まあ直ぐ着くだろうから待っていてくれ」


そう言うとまたそっぽを向いてしまった。

拠点、、これからとはなんだ。

そもそもAlphasだの512だの私は何一つ終わらせていない、それはどうしろって言うんだ。

3日という期限もある。

今何日目だ、時計もカレンダーもないから分からない。


後ろを振り返った。

追ってくる車の気配はない。

ただ安心できるわけでもない、気づいていないだけかもしれない。


窓に映る自分の顔を見た。

随分とひどい顔をしている。

「着きましたよ。」

Beeの声で窓から顔を離した。


車が速度を落とし、静かに止まる。

外に出ると夜の空気が肌に触れた。


目の前には白い豪邸が佇んでいる。


「まずは案内するよ。」


そう言ってBeeは家へ入った。

私も続けて入る。

木材のフローリングに白い壁、あちこちに観葉植物が置いてある。

壁には所々に絵画が飾ってある、きっと相当な額がするのだろう。

リビングへ到着すると相変わらずコーヒーの香りが漂っていた。


「くつろいでもらって構わないよ、大したものは無いけどな」


言い終わるとBeeはどこかへ歩いて行ってしまう。

鳥の鳴き声がする、こんなタイミングで律儀に世話でもしているのだろうか


玄関で音がした。

運転手の男も入ってきた。


少ししてBeeは戻ってくる。

「それでまずはOrcaについてだな、疑問があるだろうし私も私で説明不足だった」

「まずTFAは分かるだろうが念のため説明しておこう」


前置きは良いからさっさと話せというのが本音だ。

2~3年前、技術部門にその名前が下りてからTFAなんて腐るほど聞いた。


「あれは私が作ったアプリだ。正確に言えばAlphasと君の兄と私だがね」

「当初の目的は外部とのコミュニケーションと暗号通貨の取引だった。」

「今では犯罪を目的としていない使用者なんて滅多に聞かないだろうけどな」


Beeは続ける。


「私はTFAの力を侮っていた。特に自分の作ったアプリとなれば何が起きても対処できると思っていた」

「ただ現実は違った。私の知らないうちにユーザー人口は世界規模となりアナーキズム最高峰なんて呼ばれるまでになってしまった。」

「そんなTFAで生み出されたゴミの清掃を行うのがOrcaだ。」


「Orcaには基本0から999までの英数字IDが割り振られる。これをOCodeなんて呼んだりする」

「そしてOrcaに登録されたメンバーはOrca内で資産の保管や取引なんかが可能だ」

「OrcaDBへのアクセスや登録はLozxやAlphasと言った上位権限者による招待でしか不可だ。」

「ただOrcaの存在を知ったTFAユーザーによる偽物やLozxによる権限譲渡や多数の招待により不正規のOrcaメンバーが増えてきている為私も全てを把握できているわけではない」


全てが本当かは分からないがなんとなくは納得だ。

ただサイバー犯罪なのかフィジカルで犯罪なのか、もうごちゃ混ぜじゃないか。


「それで、何か疑問でも?」


ふざけているのか?逆に今の説明だけで今までの事柄を理解できる奴なんていないだろう。

コーヒーを啜る音が聞こえる。いつの間に淹れたのだろうか?

そして彼に対する疑問。

いや今の状況に至るまでの大きな疑問。


「なぜ私がこの件に巻き込まれたんだ」


Beeは手に持っているマグカップを机に置いた。

「生前、君の兄に言われたんだよ。弟を守ってほしいと」


何を言っているんだ。


「2年前、彼は何者かに殺された。たった数年の付き合いだが私と彼は親友、いやそれ以上の関係だった

原因はきっとTFA開発の関与にある。恨むのなら私を恨んでくれ」


他殺、。

私の兄は人から恨みを買うような奴ではない、何も言わず出て行ってしまったがそれでも殺されるようなことはしていないだろう。

なぜ殺された?

そして誰に?


「それでその犯人は?」


「Lozxを殺した奴だろう、君が言う256と言う奴だ。」


「それなら早くそいつの特定をしてくれ」


急かす気は無いが私にも時間は無い。そもそも追われている途中なのだ。

しかし彼が話を進めようとした時、急に運転手の男が割り込んできた。

「駄目だ、 Beeはともかくお前はあいつと関わるな」

「Beeも明日にはGrenjaを出す準備をするべきじゃないか?」


私を出す?どういうことだ。

部屋の空気が少し重くなったように感じる。

急に現実に戻されたような感覚だ。


「なぜ?」


そう聞くと男はこちらを睨んだ。

「君に教える必要はあるか?」


何を考えているんだ。


「悪いが明日は早い、寝室に案内するからついてきてくれ」

Beeは言った。

"明日には私を出す"、"明日は早い"、皆何の話をしている?


ただ言われるがままに私はついて行った。

反発しても仕方が無いとどこかしらで思ってしまったのだ。


部屋でも尚コートを着たBeeの背中は以前より小さく見えた。



寝室に着くと、Beeはドアを閉める。

観葉植物が幾つか置いてある。そこまで植物が好きなのだろうか。


ベットに腰を下ろすと、遠くで誰かが喋っているようなのが聞こえる。

ドアに耳を押し付けた。


「─ういえばだが、明日は────が出所─る日です─ね」

「─あ、予定を──せてしまい申し訳──ません。」

「個人─にもG──jaを手放した─は───、日本に奴──る以上危険だ」

「────がいる国へと──すのも危険だと思い──けどね」


「明─の話─。────に行か──ため君も──うかと思っ─が、

生憎君の──、、いやコン──リアとの接触原因となっ──まえば本末転倒だろう。」

「そ─なら誰を行かせ───りですか?」

「Alphasだ。」


先程の電話よりも聞こえにくい。

何を言っているのかさっぱりだ。


・明日は誰かが出所する

・男がBeeの予定を狂わせた

・日本に何かがいる

・今日本に留まるのは危険


整理するとこのような感じだろうか?

「誰か」「何か」というのは別の人物だろう。となればこの件に関わっている奴が他にも最低二人存在すると。


正確ではないが、

・どこかに行かせるために男も──

・君の──との接触原因となってしまえば本末転倒

・Alphasを代わりに行かせる

というのもあった。


恐らく出所する「────」というのと「君の──」は同じ単語だろう。

それなら「明日は君の──が出所─る日です─ね」となる。

憶測であるが考えられる範囲で穴を埋めると、「明日は君の──が出所する日ですよね」

君、運転手と関係している人物が明日ムショから出る。


「生憎君の──、、いやコン──リアとの接触原因となっ──まえば本末転倒だろう。」

出所する人物と私が接触してはならない。接触してしまっては本末転倒。

少し前にあった「512から君を守れっていわれたー」みたいなのが目的であれば、

ムショに入るくらいだし「私に危害を加える/殺す」可能性があると考えるのが通常かもしれないが、

わざわざBeeが私の事を優先的に考えるとは思えない。何か不都合な事でもあるのだろうか?


まあただ情報を整理しようとしてもすぐに新たな情報が出てくる。

そもそも未だ解決していない事ばかりだ。


例えばあの時USBを落とした人物は誰だったのか、私のスマホを壊すことに意味はあったのか

そもそもBeeやLozx、256なんて名前だけ知っていて情報なんて何一つない。


このベットで寝れば明日が来る。

そうすれば今彼らが話していた内容だって分かるのだろう。

なら今考える必要はあるのか?


モノトーンなベットに植物2つと机が一つ。

部屋には埃一つ無い。

大きな窓からは冬の夜空と共にホームシックな感情が覗かせている。

ドア、窓どちらとも鍵はかかっていない。


もし私が今ここから抜けだしたらどうなるのだろうか?

Beeや男の計画は一気に崩れ、私はいつもの生活に戻るのか?

少しの疑問だ。


ベットに横たわる。

何か落ちつかない気持ちだ。いやこの状況下で落ち着く奴なんかいないかもしれないが。

溜め息が漏れる。

眠気は少しも無い、ただ今日はもう寝よう。

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