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136_閑話_スカンク少女の悪夢

「はぁ~、今日のハンバーガーとフライドポテトは絶品でしたし、食後のストロベリーアイスも最高でした。お土産にクッキーも貰いましたし、最高の気分です。

今度はベーコンとトマトソースのピザが食べたいです。」


ここはどこだろう?わたしはごちそうをお腹いっぱい食べて、満足しながら歩いていました。

周りは真っ暗で何もありません。モノがないだけじゃなくて、音も光も存在しません。そしてなにより異様だったのは、そんな異常事態にわたしが不安を感じていないことです。

わたしが鼻歌交じりにスキップをしながら道なき道を進んでいると、金髪碧眼の少女と紫の髪と黒の瞳の紳士が姿を現しました。

わたしはその姿を見た瞬間、身体の内から今までに感じたことのない無条件の好意と信頼が溢れ出てくるのを感じました。


「さぁ、×××さん。ここは危険でございますわ。わたくしめ達と一緒に参りましょう。」


「えっと、危険ってどういう事ですか?」


「ここは本来人が入ってはいけない場所だ。私達が守りますので一緒にここから出ましょう。」


「はい、分かりました。よろしくお願いします。」


少女と紳士は信頼できる、一緒について行くべきだ。わたしの心はそうわたしに訴えかけます。

わたしはその内から湧き出す感情に従い、少女と紳士について行きます。

それから長い事暗い道を歩き続けた気がします。わたしが歩き疲れていると、後ろからパタパタと足音が聞こえてきます。


「テメェら!!×××さんをどこへ連れていくつもりだ!!」


振り返ると、そこには黒髪黒目の小さく痩せこけた少年が佇んでいました。


「×××さん、あの少年はあなたを攫いに来た悪い人間です。絶対に信用してはいけません。」


「…はい、あんな得体の知れない少年、わたしは信じません。」


えっ!わたしなんでこんな事口走ってるんだろう。

少年の顔が一瞬悲痛に歪んだ後、一気に怒りに染まるのが見て取れます。


「テメェら!!×××さんに何をした!!」


「いえ、何も。これが彼女の本心なのではございませんか?」


「そんなはずは…」


「では本人に聞いてみましょう。×××さん、如何でございますか?」


「はい、わたしはあんな人の事なんて知りません。こんな不気味な奴、早く追っ払って下さい。」


「承知!」


違う!わたしはそんな事言わない!!この少年はきっとわたしの大切な人なのにどうしてそんな酷い事が言えるんだ!!

わたしの言葉を受けて、紳士が少年に剣を振り下ろす。やめて!その人を傷つけないで!!


だが無情にも紳士の剣は少年を肩口から袈裟に切り裂く。

その光景にわたしの脳みそは沸騰し、絶望で全身が冷たくなるのを感じます。

なのにここにいるわたしは口角をつり上げて嬉しそうに笑ってます。


「×××…さん。」


斬られて力なくわたしの名を呼ぶ少年を、嘲笑いながら見下ろすわたし。

もう嫌だ!!こんなわたしなんて大嫌いだ!!誰か、わたしを殺して!!


わたしの心の叫びが届いたのか、突如少年の身体から黒い靄が現れ、わたしを包み込みます。

この靄に包まれてわたしは死ぬのかな?大切な人を死なせた報いだから当然か…そう思ってました。


「テメェら!よくも×××さんを泣かせたな!!生きて帰れると思うな!!」


「なっ!!」


黒い瘴気を纏った少年が怒りの咆哮を上げると、彼を切りつけた紳士は炎に飲まれ、のたうち回りながら息絶えました。


「次はテメェだ!腐れビッチ!!」


「エッ?」


少年は少女押し倒した後、馬乗りになりその顔面を容赦なく拳で殴打しました。

顔の形が悲惨なまでに歪み、身体が痙攣をおこし、悲鳴を上げて泣き叫んでも殴るのを止めませんでした。

少年の拳は皮膚が剥がれ、血を流し、骨が剥き出しになっていましたが、殴るのを止めませんでした。


「もういいです!止めて下さい!!」


黒い靄に包まれたまま、わたしが彼にしがみ付くと漸く止まってくれました。

もういいんです。だってもうその人は死んでるんです。これ以上殴ってもあなたが傷つくだけです。だからもう止めて下さい。

わたしは彼が人殺しをした事に対する忌避感より、彼自身が傷つく事に心を痛めていました。

泣いているわたしの頭を彼の小さな手が撫でるのを感じます。


「良かった、元に戻ったんだね。もう大丈夫だよ、×××さん。」


「はい、ごめんなさい。助けてくれてありがとうございます。」


黒い靄に包まれながら、温かい涙を流すわたし。彼は人殺しをしたけど、それでもまだ元に戻れる。

まだ全てを失っていないという安堵がわたしを支配します。そんな中、不意に彼が。


「ゴメン、ちょっとお腹が空いちゃった。何か食べ物持ってない?」


この言葉を聞いた瞬間、わたしは不謹慎にも笑いそうになりました。

こんな時にまでご飯を求めるだなんて、どれだけ神経が図太くて、どれだけ彼らしいんだろう。


「はい、これでよかったらどうぞ。」


私は微笑みながら、帰ってから食べる予定だったクッキーを少年に差し出します。


「ありがとう、いただきま~す。」


少年は笑みを浮かべながら、クッキーを頬張ります。


「おいし……っ。」


異変は突如訪れました。


「ゴホッ!!ゴホッ!!」


少年がクッキーを吐き出したのです。苦しそうに咳き込む彼。


「血の‥におい…うっ!」


クッキーと一緒に胃酸を吐き続ける彼。


「待っていてください。すぐに別の食べ物を!!」


わたしは慌ててその場を駆け出します。すると食べ物は意外と簡単に見つかりました。

パン、お肉、お魚、コロッケ、グラタン、サラダ、スープ、スイーツ、ジュース、彩とりどりのごちそうが私の目の前に湧き出てきます。

わたしはすぐ手近にあるパンとスープを持って少年の元に走ります。


「食べ物を持ってきました!食べて下さい。」


「ありがとう…モグッ…うっ!!ゴホッ!ゴホッ!」


彼は口につけたモノを全て吐き出します。

わたしは食事を取りに駆けずり回りました。

でもダメでした。

お肉もお魚もコロッケもグラタンもサラダもスイーツもジュースも…何を食べさせても彼はそれを吐き出しました。

そして元々痩せていた彼は見る見る衰弱していきました。


「あぁ…食べ物…お願い…誰か…食べ物を…」


憔悴しうわ言を漏らしながら食べ物を求めるわたし。

そんなわたしの肩に…硬い感触が伝わってきます。


「もう…いい…よ…ありが…う…」


完全に脂肪が無くなった彼の手。肩に食い込む彼の骨が痛い。皮膚に伝わる彼の体温が冷たい。


「そんな事…言わないで…下さい…今すぐ食べ物を…」


「い…んだ…あり…とう…パ…」


「エッ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!信じない!信じない!信じない!信じない!信じない!信じない!信じない!信じない!信じない!信じない!」


「………」


動かなくなった彼を見てわたしは正気を失った。


「………さん!!」


「うぅッ!うわぁああぁああああぁああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「…フィさん!!」


全てを失い絶叫するわたし。


「パフィさん!!」


その声にわたしは現実へと引き戻される。


「ハッ!!…はぁ…はぁ…」


「大丈夫?凄くうなされていたけど。怖い夢でも見たの?」


目の前には見慣れた黒髪黒目の痩せた少年の姿。

怖い夢から目覚めたはずなのに、わたしはその姿にたまらなく胸が苦しくなる。


「コンヨウさん!!よがっだ!!わぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!」


「落ち着いて、大丈夫だから。ここには怖いモノなんてないから。」


コンヨウさんの胸の中で迷子の様に泣きじゃくるわたし。

大好きな彼の腕に包まれていると、どうしようもなく不安になります。

ねぇ、コンヨウさん。あなたはどうしていつまで経っても小さく痩せたままなんですか?

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