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134_ここはきっちり割り勘です

「よぉ、久しぶりだな。コンヨウ。」


「ハヤテさん、お久しぶりです。」


「…そっちの嬢ちゃんはこの前公園で一緒にいた…お前の(スケ)か?」


(スケ)~~~!!!!」


今僕らがいるのは、とある大衆食堂。『大工』スキル持ちの職人さんを紹介して貰う為にハヤテさんを探している時に、悪そうな黒犬族のお兄さん(黒犬組の下っ端)に案内されてここに来た。

そして暫く待って現れたハヤテさんとの最初の遣り取りだったんだけど、パフィさんが絶叫しちゃってるし。

そりゃ~、みんながチヤホヤするくらい可愛い(らしい)パフィさんからすれば、僕みたいな三重苦(チビ、根暗、腐れ外道)持った人間の彼女なんて嫌だろうけど、本人の前でそこまで拒否る事なくない。


「はぁ…そう言えばお前は昔から鈍感だったな。」


「何か言いましたか?ハヤテさん。」


「いや、何でもない。それより要件はなんだ。」


ハヤテさんは何やら僕に聞こえない声で呟いた後、手元のエールに軽く口をつけながら僕に話を促す。

僕も手元のオレンジジュースを一服した後に本題に入る。


「実は……」


「…う~む、『大工』スキル持ちを探しているのか。目的は?」


ここで僕は健康ランドとコインランドリーを建てて商売を始めようとしている事を説明する。

それを聞いたハヤテさんの反応は。


「そいつはいいな。ナプールはあまり水に恵まれてないからな。わざわざ遠くの洗濯場に行かなくて済むのはありがたい。

それに健康ランドか。風呂なんて贅沢品、個人で用意なんて出来ないからな。」


ハヤテさんの言う通り、ナプールの水事情は決していいとは言えない。

街が大きい割に川が1本しか通っていないから、洗濯場は下流の方の一か所と決められている。

洗濯場まではそれなりに距離があるし、街の人達が一堂に会するので常に満員状態。

そのせいか街の人の洗濯は週に一度がせいぜいで、しかもやたらと時間が掛かる。

そしてそんな事情だから風呂になんて入れ…あれ?この会話、ちょっとおかしいぞ。


「あの~、ハヤテさんはお風呂をご存じなんですか?」


「…まあな。リンガより更に南には風呂の習慣があるからな。」


「そうなんですか。知りませんでした。」


「まぁ、無理もない。水が豊富で湿気が高い南国でしか発展しない文化だし、そこにしてもわざわざ浸かるための湯を沸かすなんて贅沢な話だからな。」


なるほど、僕が知らなかっただけでこの世界にも風呂文化はあるのか。まぁ『聖者様』は日本人だし、そういう文化を残していたとしても不思議じゃないか。

しかしハヤテさんはかなり博識みたいだ。話から察するに風呂は本当に特殊な文化みたいだし。なんでこんな人がヤクザなんてやってるんだろうね。

さて、僕の思考が明後日の方向に飛ぶ前に本題に戻らないと。僕はオレンジジュースにもう一口含んだところで再び話を切り出す。


「条件については分かって頂けたと思うんですが、如何でしょうか?」


「出来なくはないが、政府に内緒で街の外となるとこれ(・・)がだいぶ掛かるぞ。」


ハヤテさんは右手の親指と人差し指で円を作りながら苦い顔をする。

そりゃモンスターが来るかもしれない街の外で、しかも政府に内緒で仕事をするとなると相応の条件での求人が必要になる。端的に言えばお金が掛かる。

でも逆を言えばお金さえ準備できればやれるという事だ。さて、交渉開始だね。


「具体的にはどの程度掛かりますか?」


「大金貨3枚だな。内訳は人件費と材料費と護衛料と仲介手数料だ。」


「3000万フルールですか!!!」


「……」


ここで今まで背景に徹して僕とハヤテさんの会話を書き留めていたパフィさんが声を上げる。

まぁ、この世界で家を建てようと思えば、人件費と材料費を合わせても1000万フルールくらいだから、だいぶ高く感じるよね。

これは『大工』スキル持ちがどこにでも一定数いて、そのおかげで家を建てるのにさほど労力が掛からないからというのが理由なんだけど。

今回の場合は街の外なのでお給金を高くしないといけないし、材料の運搬費が嵩むし、護衛も必要になる。

僕から言わせて貰えば3000万フルールでもかなり良心的に思える。とは言えやっぱり大金である事に変わりはないわけで、


「材料と護衛をこちらで持った場合はいくらになりますか?」


当然値引き交渉を行う。ハヤテさんは少し考えこみ、


「それなら1100万だな。人件費1000万と仲介手数料が100万だ。護衛はあの角牛族どもがやってくれるんだろ。」


「う~ん、その辺が妥当でしょうね。分割払いはできますか?」


「それだと利息がプラス10万だ。」


「まけてくれませんか?」


「ダメだな。それから契約成立時にいくらか手付金を入れてもらう事になる。」


「クッ!仕方ありませんね。この案件は一旦村に持ち帰ります。」


「それがいいだろう。なにもお前ひとりで払う必要もないんだからな。」


ハヤテさんの一言に僕は思わずハッとした。僕はまた独りで抱え込もうとしてた。

これは村全体で行う事業なんだ。村の経費があるはずだから相談してそこから出してもらえばよかったんだ。

まだ会って間もないハヤテさんにその事を指摘されるなんて、僕もまだまだ村長としての自覚が足りないみたいだね。


「では、次の緑の日(水曜日)に改めて会うという事で。」


「あぁ、色よい返事を期待している。」


そう言うと、ハヤテさんはエールを一気に飲み干し、自分の分のお金だけ置いて席を立つ。

それを見送った僕は思わず呟く。


「はぁ~。裏社会を牛耳るヤクザの若頭がきっちり割り勘とは。」


「まぁ、あの人からすればわたし達に奢ってやる道理はありませんもんね。」


「言っとくけど、僕らも割り勘だからね。追加注文した飲食代はパフィさんが払うんだよ。」


「エッ!嘘でしょ!コンヨウさんのケチ~~~!」


僕はパフィさんの目の前に並ぶ大量の食べ物を眺めながら思わずため息を吐く。

パフィさん、僕が理由無く物を奢らない事は知ってるよね。さて、パフィさんが泣きながら注文した料理を平らげている間、僕はパフィさんが書いたメモでも確認するかな。


…………


一方、店を出たハヤテはと言うと。


「ダグ、次の青の日(木曜日)から働ける『大工』スキル持ちの職人を数人確保しておけ。」


「へい、若頭。」


「……」


「どうしました?若頭。」


「いや、何でもねぇ。これからヤンチャやってるバカどものお掃除だったか。」


「シマトラ組の残党どもですね。いつもみたいに派手にお願いしますぜ。」


「…はぁ~。ダグ、ヤクザ者の仕事は静かにスマートであるべきだ。表の人間に迷惑にならないようにな。」


「……若頭、最近なんか雰囲気変わりましたね。」


「不服か?」


「いえ、今の方が全然いいですよ。」


自分の命令を受け、威勢よく飛び出す部下を見送りながらハヤテは思わず呟く。


「はぁ~、さっきはあのガキに偉そうな事を言ったが、俺もまだまだだな…もう少し部下に仕事を振るか。」


なんだかんだ言って、自分も問題を独りで抱え込む性分なのだと思い、ウンザリした気分になるハヤテであった。

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