133_心に藁人形と五寸釘を
「ゼブラさん…なんでここにいるんですか?」
「『ラビアンローズ』に『スイートポテト』の納品だよ。ワリィかよ。」
「そう言えば~、今日まではゼブラさんが納品する予定だったね~。」
3/15赤の日(日曜日)、孤児院で朝食を頂こうと食堂に向かってみれば、余計なシマウマを発見したのでちょっと絡んでる所だね。
ちなみに『スイートポテト』は前の日にエレフさんがまとめて作っておいて、ルクちゃんに『殺菌・防腐』してもらった後、必要分をその都度運ぶって感じだね。
「おい、言っとくけどお前が頼んだ大豆を運ぶのは俺っちの仕事なんだからな。何を言いたいかは分かるよな。」
「勿論でございます、ゼブラ様。ささぁ、一緒に食事にしましょう。ちょうどスフィーダさんの隣の席が空いてますので。」
「えっ!マジで!…でもスフィーダさんは俺っちが隣でも…」
「ゼブラさん、燻製肉ありがとうございます。少し胡椒とハーブを効かせてみたんですけど、良かったら食べていって下さい。」
「あぁ!ありがとう。じゃあお言葉に甘えて。」
「ゼブラさんの席はそっちですよ。」
「そうだぜ、ここは俺の席。」
「ゼブラお兄さん、早く席についてよ。ご飯食べられないじゃない。」
「あぁ、すまねぇ。じゃあ、スフィーダさん。隣、失礼するぜ。」
「アッ!はい、どうぞ…」
「じゃあ、頂くとするかのぅ。」
「せ~の、いただきます。」×11
僕はガキどもと結託してゼブラさんを無理やりスフィーダさんの隣に座らせる。
こうしてクズミ様の音頭の下、食事は始まったわけだけど…チッ!リア充どもが!二人とも赤くなって、ゼブラさんの目は泳いでるし、スフィーダさんはなんかもじもじしてるし。
テメェら初めて異性と付き合う中学生かよ!ったく、やってらんねぇな!!
でも、この後ゼブラさんには色々運んでもらう物があるからご機嫌取りしておかないといけないし。
ここは嫉妬パワーは一時封印して、顔はニコニコ笑みを浮かべながら、心で藁人形に五寸釘を打たないとね。
「コンヨウさん、食事中に碌でもない事考えないで下さい。」
「パフィさんには分からないんだよ。モテない男の苦悩というやつが。」
「カッコつけて言ってますけど、そのセリフ、超絶カッコ悪いですよ。」
クッ!的確に僕のアイアンハートにダメージを与えてくる。最近パフィさんは僕の心の抉り方を心得て来たみたいだ。
これ以上この話題を続けると僕の心がボドボドになるので、黙って目の前の食事に舌鼓を打とう。
さて、今日のメニューは燻製肉の香草焼き、お野菜たっぷりのスープ、僕の焼き芋。朝から結構ボリューミーだね。
まぁここには大喰らいが3人と成長期のガキどもが5人いるからこのくらいは欲しいんだろうな。
燻製肉の塩加減と胡椒と香草の香りが絶妙で焼き芋ともよく合うね。スープもタップリ野菜の旨味のおかげで少しの塩で味付けしただけなのにとっても美味しい。
モグモグ……
「ごちそうさまでした。」×11
食事も済んだところで僕らは少し食休みをしながら、今日の予定について雑談を始める。
「ゼブラさんはこの後、『ラビアンローズ』に行くとしてその後はどうするんですか?」
「俺っちは色々買い物をしてから村に戻る予定だぜ。明日、プラム村の人達を迎え入れる予定だからよ。」
「とうとう住人が増えるんですね。それじゃまずは焼き芋でおもてなししないとですね。」
「エッ!コンヨウっち、お前どうしちまったんだ?熱でもあるのか?」
「どういう意味ですか…」
「いや、外から来た人間なんてお前にとってはただの穀潰しだろう。そんな人間を率先してもてなそうだなんて…」
「…ゼブラさん。マジで僕の事をなんだと思ってるんですか。」
「自業自得です。」
「うんうん。」×7
「ハハァ…」
うわぁ~、絶対にオカシイ!完璧にゼブラさんが失礼な事言っているはずなのに僕の味方がどこにもいない。
パフィさんはシマウマに援護射撃するし、エレフさん、スフィーダさん、ガキどもは頷いてるし、クズミ様は乾いた笑いを漏らしてるし。
まったく、僕は今までの僕とは違うんだからね!
「あのですね。これは所謂先行投資ですよ。これから一緒に暮らすんですから、心象を良くしておいて、何かあった時に色々手伝って貰いやすい環境を作っておかないとですね。」
僕は目先に損得だけに囚われない、中長期的な目線を手に入れたのだ。最初に少し損をしても最終的には帳尻が合う様にしっかり調整してだね。
「あぁ、良かった。やっぱりコンヨウっちだった。」
「ほんとですね。わたしもホッとしました。」
「それでこそ~コンヨウ君だよ~。」
(こくこく)×7
あれ?僕はちゃんと計算づくでおもてなしをするって説明したら、みんな納得の表情になっている。
僕は冷たい視線とともに守銭奴扱いされると思ってたのに…つまり僕は守銭奴って事に関してはデフォなわけ?
さっきの困惑は僕が善人になったとでも勘違いされたと…うわぁ~、他の奴らはともかくクズミ様からも同じ扱いを受けるのは若干キツイ。
いけないなぁ~、どうもクズミ様が絡むとハートにダメージを受けやすくなってしまうみたいだ。
さて、話を元にもどそう。
「ゼブラさん、クズミ様。申し訳ないんですけど大豆製品の件、宜しくお願いします。」
「分かってるっての。お前こそあんまりクズミ神父に無茶させんなよ。」
「分かってますよ。クズミ様はかけがえの無いお方ですからね。」
「二人とも、お気持ちはありがたいがそれほど無茶はしとらんぞぃ。最近はよく食べる様になったせいか、スキル疲れも全くしないしのぅ。」
クズミ様の言葉に僕は無言で頭を下げる。この人の笑顔に嘘が無い事は分かるけど、やっぱりこのお人好しの事は心配なんだよなぁ。
僕は前世でお爺ちゃんとかいた記憶が無いんだけど、お爺ちゃんがいたらきっとこんな感じなんだろうね。
ちょっとしんみりしそうになってしまったけど、今度はエレフさんに話を振ってみるかな。
「僕は~この後『ラビアンローズ』によってから~パティシエのみんなと意見交換する予定だよ~。」
「そうですか。『ラビアンローズ』は我がブルームーンフォレストの文化侵略の要ですから、宜しくお願いしますね。」
「相変わらず言い方が物騒だよね~。まぁ、それは置いておくとして~、原材料の値段交渉はこっちでやっておくからね~。」
「お願いします。『絹甘スイート』は一つ100フルールくらいでいいですので。」
「…あれって~、もっと高価で売れるんだけどなぁ~。本当にいいの~。」
「はい、今後は『芋羊羹』や『芋モンブラン』と言ったサツマイモスイーツを推していくつもりですので。」
「…そうやって数を売るのと同時に~、『絹甘スイート』無しじゃ立ち行かなくするつもりだね~。」
「コンヨウっち…お前相変わらず考える事がえげつないな。」
「身内にも容赦ないですよね。たまにドン引きします。」
あれ~?おかしいなぁ~(棒)。僕は身内に安価でサツマイモを卸しているだけなのに腐れ外道扱いだよwww。
だって『ラビアンローズ』はある意味人質だからね。リンガ政府が僕らにちょっかい掛けてきた時に、「じゃあ、撤退します。」って言ったらどうなると思う。
『絹甘スイート』が手に入らなくなった『ラビアンローズ』はサツマイモスイーツから手を引く。そうすると今まで食べていた格安の『スイートポテト』や新作のサツマイモスイーツが食べられなくなる。
その後、撤退の原因をリンガ政府のせいだとナプールの人達に吹き込めば…もうお分かりだよね。
まず市民が政府に抗議する。ラビリさんやコービット商会も当然抗議する。その噂が波及して他の街でも政府を非難する動きが生まれる。結果、次の選挙に大きな影響が出る。
そんなにうまく行くのかって?大丈夫、情報操作は得意だから。そんな事を考えながら素敵な笑顔を浮かべているとみんながドン引きしたので、話を切り替えようかな。
「最後に僕らの予定ですね。僕はパフィさんと一緒にハヤテさんに会いに行こうと思います。『大工』スキル持ちを紹介してもらう為に。」
「ハヤテさん?」×3
「知り合いのヤクザです。」
!!!!
僕の返答に元々知っているクズミ様とエレフさん以外は驚きの表情を浮かべる。やっぱこういう反応になるよね。
「言っておきますけど、この人はバックルさん絡みですからね。」
「なぁ、コンヨウっち。それってもしかして黒犬組の狂犬疾風じゃねぇよな。」
僕の言葉にゼブラさんが若干青い顔をしながら突っかかってくる。
「その中二病っぽい二つ名は知りませんが、黒犬組のハヤテさんで間違いないですよ。」
あっけらかんと答える僕に、ゼブラさんが思いっきり肩を落として特大級のため息を吐き出す。
「あのな~…狂犬疾風って言ったらここ一週間程でナプールの裏社会を牛耳りやがった今一番ヤバい奴なんだよ!ったく、なんでそんなのと知り合いなんだよ。」
「いえ、ですからバックルさん絡みみたいで、僕は一方的に護衛されているだけですから。」
「…そうか、取り敢えず狂犬についてはバックルさんに聞いてみるわ。お前も一応警戒しておけよ。」
「ご心配なく。よく知りもしない人間をいきなり信じるほど平和ボケしていませんから。」
僕の返事を聞いたゼブラさんは疲れた顔をしながら話を切り上げる。
今まで背景に徹していたみんなの様子は…わぁ~完全にドン引きしてる。ヤクザに護衛されるガキンチョとかヤバい匂いしかしないもんね。
さて、そろそろ出発しないと帰りが遅くなっちゃうね。
「じゃあ、僕らはそろそろ行きますね。パフィさん、行こうか。」
「分かりました…でもそのハヤテさんに会う前にわたしにもちゃんと情報を教えてくださいね。わたしはあなたの補佐官なんですから。」
「うん…分かってるよ。」
僕とパフィさんは孤児院のみんなに挨拶をし、その場を後にする。
「まったく、補佐官のわたしに内緒でコソコソと…別にわたしはヤクザ屋さんでもコンヨウさんが信頼してるなら大丈夫なのに…」
なにか僕に聞こえない声で不機嫌そうに呟くパフィさん。まさに針の筵に座っている気分で必死にパフィさんを宥めながら事情を説明する。
周りから見た僕は彼女に別れ話を持ち出されたダメ男みたいで、実に情けない姿だったという。




