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132_それぞれのお勉強と成長

「のぅ、コンヨウ殿、エレフ殿。少しお話があるんじゃが。」


「はい、なんでしょうか?」


食事が終わった後の事、僕とエレフさんはクズミ様に呼ばれて、そのまま彼の部屋まで移動した。

そこで畏まった表情で切り出すクズミ様に僕とエレフさんは居住まいを正す。


「今後の孤児院での食事についてなのじゃが、お主らが来た時についてもワシらで準備しようと思うのじゃ。」


「……」×2


あぁ、そういう事か。理由については大体察しはつくけど、ここはクズミ様に話してもらうべきだろうね。僕らは黙って頷いて話を促す。


「お主らの料理は絶品じゃ。おそらくこの街一番の高級料理店と比べても勝るほどにのぅ。」


「……」×2


「でも、ここは孤児院じゃ。別にワシは孤児だから贅沢してはいけないと言うつもりはない。

でものぅ…ここの子達は自分で生きる力を身につけねばならんのじゃ。

贅沢をするにしても、それは自分の手で獲得したものでなくてはならないのじゃ。」


「……」×2


クズミ様ならそう言うと思ったよ。孤児とはつまり親という当たり前に保護してくれる存在がいない子供達の事だ。当然の話だけど親を持つ子供よりも早く自立する必要があるし、その為に生き方を学ばないといけない。

はっきり言っちゃえば、他人から与えられた贅沢なんて邪魔以外の何者でもないんだ。

料理の実験にテンションを上げて、色々自重を忘れてたさっきまでの自分達をシバキ倒したい気分になりながら、肩を落とし反省する僕とエレフさん。


「いや!別にお主らを責めているわけではないのじゃ。

だた、コンヨウ殿はここで勉強を教えてくれて、その報酬としてこの孤児院に泊まるという事になっておったじゃろ。

その上、贅沢な食事まで用意して貰ったのではワシらは貰い過ぎてしまう事になる。」


僕らのしょぼんとした様子に慌ててフォローを入れる。

確かに僕の信条であるギブアンドテイクに反する行いだったかも知れない。

まぁ、僕ら視点で言えば新メニューの実験という名目はあるんだけど、孤児院の立場からすると子供達の教育にとってマイナスになり兼ねないもんね。

いい事をしてると思っていても、それがいい結果に結びつくとは限らないという良い例だと思う。

行動の結果に責任を持つ、って事は大切だけど、その前にしっかり行動を吟味しないといけない、という事を学ばせてもらった気がする。

僕とエレフさんのお勉強が終わった所で、今度はエレフさんが話を切り出す。


「う~ん、確かに今回はちょっとやり過ぎちゃったと思います~。

そこで提案なんですけど~、僕は所用でこれから月に一度ナプールに来る事になりました~。

ですので僕の宿代として~、僕が泊めてもらう時は子供達とお料理をしてもいいですか~。

もちろん材料はそちら持ちですけど~。」


おぉ~!これは思い掛けない提案。でもこれはなかなか面白いかも。クズミ様はいまいちピンと来てないみたいなので僕から説明するかな。


「つまり、子供達にお料理を教える事で家事と職業の訓練を両方同時に行おうと。」


この言葉にエレフさんが頷きながら、説明を引き継ぐ。


「うん~、普通の食材でお料理を覚える事で独り立ちの役に立てばと思ってね~。

それに僕自身の為でもあるんだけど~、食材や調理器具が少なくても出来るレシピも開発したいからね~。

最近は珍しい食材や便利な調理器具に~、頼りっきりになってた部分もあるから~。」


なるほど、エレフさんらしい。本当に料理に関しては向上心の塊みたいな人だ。


「うむ。大変ありがたい申し出、心より感謝いたします。エレフ殿、今後ともどうぞ宜しくお願いします。」


「いえいえ~、こちらこそ~。」


エレフさんの提案に破顔するクズミ様。どうやら話は決まったみたいだね。

では、僕の方もせっかくなのでダメ元で例の相談をしてみようかな。


「あの~、クズミ様は神父様をしている関係上、顔はお広い方ですよね。」


「うむ~、広いかどうかはわからんが、それなりに知り合いは多い方じゃと思うぞぃ。」


ここで僕は、リンガ政府に内緒で働いてくれる『大工』スキル持ちの人を探していることを説明する。すると、やはりと言うべきか、クズミ様は若干渋い顔をする。


「なるほどのぅ。お主らも色々難儀しておられるのじゃな。

ワシも流石にリンガ政府に内緒で働ける人となると心当たりは無いのじゃが…」


「そうですか…」


「これこれ、話は最後まで聞きなされ。」


僅かに肩を落とす僕にクズミ様が待ったをかける。


「コンヨウ殿、こういう時はその道の専門家に聞くのが一番じゃ。」


「専門家?ですか。」


「そうじゃ。ワシはこういう仕事柄、裏家業の人間の懺悔などもする事があってのぅ。

そういう人間と渡りをつける事もできるのじゃ。」


うわぁ~、これは意外。てっきり善人のクズミ様はそういう人達と縁が無いと思ってたけど。


「それでどうする?良ければ顔繋ぎをしてもよいのじゃが。」


ここで僕は少し考えこむ。そう言えば一人いたなぁ。裏家業の知り合い。


「いえ、それでしたら自分でどうにかします。一人そういう知り合いがいますので。」


「ちなみに誰か聞いても?」


クズミ様が心配そうに僕に問いかける。そりゃそうだよね。たかが16歳のガキンチョが裏社会の人間と知り合いとか、下手すれば事案モノだよね。ここは正直に答えるべきだろう。


「黒犬組のハヤテ=ブラックさんです。」


「…う~む、そやつならまぁ大丈夫じゃろう。」


「えっと、知り合いですか?」


「ちょっとのぅ…」


なにやらクズミ様が遠い目をしているけど、なんか因縁でもあるのかな?

まぁこれに関しては聞かないのが吉かな。クズミ様もそんな雰囲気を出してるし。


「ありがとうございました。それでは一回ハヤテさんに相談してみます。」


「そうじゃな、それが良かろう。」


「じゃあ、そろそろガキどもも洗い物を終える頃でしょうし、授業は10分後に開始しますね。お茶請けに干し芋用意しておきますので遅れずに来てくださいね。」


「そう言えばお勉強会がまだじゃったな。やれやれ、お主のお勉強はちょっと年寄りには密度が濃すぎてキツイんじゃがのぅ。」


「まぁ~そう言わず~。美味しいハーブティー用意しておきますので~。」


さて、『健康ランド蒼月』計画の取り敢えずの宛てが出来たところで、本来の目的、お勉強会と参りますか。

ガキどもは簡単な単語の読みと足し算引き算、パフィさんは四則計算と難しめの文法の練習、スフィーダさんとクズミ様は法律のお勉強だね。

僕とエレフさんはクズミ様を残し、勉強会の準備をするため広間へと向かうのであった。


……


コンヨウが去った後、クズミは少し前の事を思い返していた。


…数日前の昼下がり。


「クズミ神父…少し話がある。」


クズミの前に現れたのは鋭い眼光のドーベルマンの獣人。その出で立ち、雰囲気は明らかに堅気のものじゃない。

そしてなにより、クズミはこの男を知っている。そう、ゲッスの命令で自分を森の小屋に監禁していた黒犬組の人間だ。


「どういったご用件じゃ。」


「俺はハヤテ=ブラック、黒犬組の若頭を務めている。今日はあなたに詫びに来た。仕事とはいえ堅気のあなたに危害を加えてしまった。

これはヤクザの仁義に反する行為だ。そのケジメをつけたい。」


「……」


クズミはハヤテから目を離せないでいた。

そこにはあの時自分を監禁した、血気盛んで手柄を焦る若造の姿はなかった。

頭を下げているにも関わらずその心は気高く、その言葉には確かな知性が宿っていた。


「お主の気持ちはよく分かったのじゃ。一つ聞いてもよいかのぅ?」


「何なりと。」


「お主をそこまで変えたものはなんじゃ?」


だから思わず聞いてしまった。何があったら人はここまで変われるのか。

ハヤテは少し考える素振りをした後にポツポツと呟くように応じる。


「大昔に死に別れた友との誓いを果たす為…だろうか。」


「……」


クズミはこれ以上踏み込んではいけないと思った。

この話はハヤテにとっての聖域。何者も犯してはならない領域なのだと感じた。

クズミは無言で頷く事でハヤテの話を制する。


「クズミ神父、お心遣い感謝する。何か困り事があればいつでも黒犬組に頼るといい。街の悪そうな黒犬族にこれを見せれば助けになってくれるだろう。」


そう言いながら自身の名刺を差し出すハヤテ。クズミがそれを受け取るとハヤテは無言でその場を立ち去る。


「…どエライ男に貸しを作ったものじゃのぅ。」


ハヤテの名刺を空に掲げながら独り言ちるクズミ。

一人のヤクザ者の成長に虚空を見上げながら、それでも何故かその口元には僅かに笑みが浮かぶのであった。

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