129_共有したい幸福
「はぁ~、我ながらよく出来てると思うだけどどうかな?」
「はい!美味しいです。コンヨウさんって、結構なんでも出来ちゃうんですね。わたしの紅茶はどうですか?」
「うん!凄く美味しいよ。これならどこに出しても恥ずかしくないね。」
エレフさんの『スイートポテト』講習を終えた僕らは、現在ティータイムの真っ最中。
スイートポテトは自分用、審査用、ホール組用の計3個を作るのがノルマで、僕はパフィさんの分を作った。
ちなみに審査はエレフさん、ラビリさん、ヒヨリさん、グランパティシエのアイザックさん、ホールチーフのウィリアムさんで行うそうで、審査に合格しないとお店で出す『スイートポテト』は作らせてもらえない事になっている。
ラビリさん、ヒヨリさん、ウィリアムさんの審査は割と簡単に通るみたいだけど、アイザックさんとエレフさんがかなり厳しいみたい。
どうやらエレフさんのレシピって他の人からすると分量とか混ぜ具合とかが結構シビアみたいでみんなそこで苦戦しているみたいだ。
うわぁ〜…既に半数以上がそこで落とされている。やっぱり高級スイーツショップの試食会は和気あいあいとは行かないね。
余談だけど『ラビアンローズ』では作れるレパートリーが多ければ多いほど、お給金に反映されるシステムらしいから、みんなかなり必死だ。
そして何故かお給金と全く関係ないはずなのに合格を貰ってしまった僕。落ちた人からの視線が痛い。
えっ?いつものお前ならダメージなんてないだろうって?いや、生活かけて必死にやっている人相手に何も思わないほど人間辞めてないからね。
まぁ、落ちた人を慰めるのは他のホール組の人達に任せよう。僕がやると嫌味に聞こえそうだから。
最終的な合格者はアイザックさん、タカハシさん、タッパさんと元々『ラビアンローズ』にいたパティシエの人が5人ほど、それから僕とエレフさん。
エレフさんもちゃんと審査を受けてるんだよね。公平を期する為って事だろうけど、なんかみんな自分達との能力の差に打ちひしがれてたみたい。エレフさんはもう殿堂入りでいいと思う。
それから、残り10名ほどは今回は不合格という事になるんだけど、この人達は来月またエレフさんが来るときに再審査となる。
そしてこの再審査で通らないと新しいレシピは教えて貰えない。つまり作れるレパートリーが増えないからお給金が上がらない。結構殺伐としそうなシステムだね。
まぁ、ここのパティシエの皆さんは仲間意識が強いからみんな合格できるようにお勉強会とか頑張るでしょう。
お勉強会の経費についてはラビリさんがきちんと確保してくれるみたいだしね。
さて、そんな実力主義な『ラビアンローズ』のシステムについてはこの辺にして、今は美味しいスイーツに舌鼓といきますかな。
おや、アッチで何か悩めるパティシエールの呻き声が。
「う~ぅ~。わたし~のスイーツが不合格~。エレフさんに~言われた通りに作ったはずなのに~。」
「それはあなたも分かっているはずだ。最初の目分量での計量が響いたのだろう。」
「そうでやすね。ミシェルさんの作った『スイートポテト』はほんの少しだけべちゃっとした感じがしました。」
「分かってるよ~。でもあの後はちゃんと修正したはずだし~。確かに~合格品と比べたら少し味がちがうけど~、それでも十分美味しいはずだよ~。」
「まぁ、小生も悪くはないとは思うが、その僅かを妥協しないのがエレフ師なのだろう。」
「厳しい師匠でやすけど、その食に賭ける信念は尊敬に値するでやすな。」
「う~ぅ~。二人とも、わたし~の特訓付き合ってよね~。今度は~エレフさんのアッと驚くような~美味しい『スイートポテト』作るんだから~。」
どうやらミシェルさんも本気になってくれたみたいだね。これで新しいレシピをドンドン覚えてくれれば、製菓はこちらに任せて、僕とエレフさんは研究に没頭できるようになるだろう。
そしてウチの村からは材料を売りさばき、街一番のスイーツショップとなるであろう『ラビアンローズ』を陰から支配する。そうすればスイーツ好きのナプールの住民の掌握は大いに進む事だろう。
ふっふっふ~…僕は何もだたスイーツが食べたいからって理由だけでこんな事をしているわけじゃないんだよ。
これもナプールの経済支配の第一歩なんだよ。いや、文化侵略と言ってもいいかも知れないね。人間、便利なモノと美味しいモノにはなかなか抗えないからね。
さて、僕が若干下衆い事を考えていると、横からジト目のパフィさんが。
「コンヨウさん、またクズな事考えてるでしょう。」
「ソンナコトナイヨ~。今僕は村と『ラビアンローズ』の未来について真剣に考えていたトコロさ~(棒)。」
「どうせ『材料を売りつけてぼろ儲けだ~。』とか考えていたんでしょう。今はそんな未来の事より、目の前のスイーツに集中しましょう。」
「うん、そうだね…すぅ〜、ゴクン…はぁ~。紅茶が美味しい~。」
「ふふ~ん、そうでしょう。もっと褒めていいんですよ。」
あっ!さっきのジト目から一転。パフィさん、凄いご機嫌だ。なるほど、自分の入れた紅茶を褒めて欲しかったんだな。まぁなんだかんだ言っても11歳の子供だからなぁ。
思わず頭を撫でたくなるけど、ちょっと距離があり過ぎるね。それに最近大人のレディーを意識し始めたみたいで、頭を撫でると怒るんだよな~。ちょっと前まで撫でさせてくれてたのに。
これが子供の成長って奴か。まぁ、僕も未成年の子供ではあるんだけど、僕自身がこんな風に素直な成長をしていないから、ちょっと新鮮な気分だね。
さて、周りを見回すとパティシエ組が目を血走らせながら再審査の対策を練っているのに対して、ホール組は和気あいあいと『スイートポテト』と紅茶を楽しんでいるみたいだね。
チュウジさんとミミーさんもモフモフお姉様達と楽しそうにお茶会を楽しんでるし、ラビリさんとヒヨリさんも仲直り出来たみたいだ。
こういう光景を見てると…ちょっと切なくなるね。
「どうしたんですか?コンヨウさん?」
「いや…ちょっと思っちゃったんだ。今は村のみんなはあの森に隠れ住んでるけど、たまには何の気兼ねもなく、みんなでこういうところでスイーツを堪能できたらなぁ、ってね。」
「そうですね。その為にはまずリンガ政府と交渉できるだけの力をつけないとですね。」
「うん、そうだね。」
こういう幸せな光景をみんなと共有する為に今を精一杯生きる。それが今僕らに出来る唯一の事なんだろうね。
いつかブルームーンフォレストがあの森に隠れなくてもいいようになる日の為に、僕らは決意を新たにするのであった。




