125_村長就任初仕事
「さて、まずはナプールの経済支配からですね。」
「いきなり不穏だね。具体的にはどうするんだい?」
「ドクさん…なんかノリノリだけど、ブレーキ役なんだからほどほどにしておきなさいよ。」
「ネイチャンさんの言う通りです。お二人が自重を投げ捨てたら誰にも止められないんですから。」
3/12藍の日(金曜日)ブルームーンフォレスト村長に就任した次の日、僕らはドクさんの家にお邪魔していた。
目的は今後の計画について、村の頭脳であるドクさんとネイチャンさんと相談する為だね。
僕は前もっていくつか考えていた案の内、一番平和的な方法をこれから提案しようとしてるんだけど、女性陣の目が冷たい。
何かを企んでいる時の僕はとにかく信用が無いんだね。やっぱり一回単独行動をした時のツケかな。あの時は色々と心配を掛けたからなぁ。
さて、ちゃんと説明して今回は大丈夫だと分かって貰わないとね。
「まず、最初に行うのは外貨獲得ですね。それもナプール全員が利用するような商売で。
具体的には……」
「……それはまたなんとも。まぁ私達も彼女達の能力の便利さを知ってしまっているからね。」
「確かにあれを知ってしまうと今までの生活には戻れないわね。」
「でも大丈夫ですか?あの2人に借りを作ると…」
「うん、確かにちょっと怖いね。」
「ははぁ…彼女達はあれで節度を弁えているから大丈夫だと思うよ…多分。」
「ドクさん!最後の一言が余計です!!」
僕の提案はおおむね好評だったんだけど、実は2つほど問題がある。
「でもどうするんだい?確かに良い案だけど今回は『大工』スキルが必須になるよ。」
「そうなんですよね~。一応明日ナプールに行ってラビリさんに相談しようと思うんですけど。」
「ちょっと難しいかも知れないわね。今回の相手はリンガ政府だもの。流石に国のトップに問い詰められたら私達の事を話さないわけにはいかないでしょう。」
「そうですよね。例えラビリさんが守秘義務を守ってくれたとしても、大工さんがそうとは限りませんし。」
問題その1。今回の計画を実行する上で、どうしても建物を建てる必要がある。
その為には秘密を守れて、且つ短期間で建物を建てられる『大工』スキル持ちが必要だという事。
現状の村の人材では建物の補修はともかく、本格的な建築は不可能だ。さすがに図面を引いたりとかは出来ないからね。
スミスのジジイも木材加工の腕はピカ一だけど、建物となるとお手上げだそうだ。まったくいつも偉そうな癖に使えねぇな。
まぁ、建物の内装については依頼する予定だからあんまり文句も言えないんだけど。
「それから、協力者を募らないといけませんね。特にラバール一家の協力は必須です。」
「カリーナさんにお願い事ですか…これをダシに結婚とか迫られそうで怖いです。」
「ははぁ、僕もラクスさんに迫られそうだから他人事じゃないんだけど…」
「まぁそれは置いておくとして、建物を建てるのはナプール近郊になるだろうから、移動手段が必要になるね。」
「それならゼブラに任せればいいでしょう。アイツのスキルなら荷馬車を軽くする事も出来るでしょう。
この間、健康診断ついでに試してみたけど、荷馬車引いても15分でナプールに着いたわよ。」
「あの人も結構デタラメですよね。僕の『スキル強化芋』で強化すればもっと早く…」
「止めて下さい!荷馬車の人達がミンチになります!」
「でも、ますますゼブラへの負担が大きくなるわね。
アイツ今でも毎日こことナプールを往復してるでしょう。」
「それなら問題ありませんよ。あのシマウマの目的は大喰らいリスですから。」
「コンヨウさん。なんか黒いオーラが出てますよ。」
「だってあのシマウマ『早くスフィーダさんに会いに行きたいから『スキル強化芋』寄越せ。』とか言ってくるんだよ!!
非モテアピールしながらリア充ムーブとかマジで制裁モノなんですけど!!!」
問題その2。ゼブラさんがウザイ…じゃなくて、特定の人の協力が必要だという事だ。
特にアライグマのラスカリ姉妹の負担が大きくなる。何故なら…
「本格開始にはまだ色々と準備が必要だね。」
「えぇ、ブルームーンフォレスト発。『健康ランド蒼月』計画。」
今回僕が提案した計画はナプール近郊に健康ランドとそれに併設するコインランドリーを建てる事だからだ。
え?今からリンガ政府と戦うんだよね?戦力はいいの?税金対策はいいの?って思った人いるよね。
ぶっちゃけリンガ政府側がまともな方法で僕らから税金を取る事は不可能なんだよね。
リンガの税制だけど基本的には人頭税でそこに固定資産税や法人税なんかが掛かってくるって感じなんだけど、これはあくまでも村とか街とかに住んでる人が対象なんだ。
この世界にはモンスターがいるから、人々は基本的に村なんかに身を寄せ合って暮らしているけど、僕らみたいにモンスターが出没する未開の地に住んでいる人もいないわけじゃない。
国としても税金は多く取りたいだろうけど、徴収に行くにしてもモンスターがいる場所に人を送る事は出来ない。コストとリターンが見合わないからだ。
じゃあ、リンガ政府は無視して村に引き籠ればいいのでは?っと思ったかも知れない。でもこれも無理だ。
僕らは外と関わる事を選んだ。それに孤児院のみんなやラビリさん達はもう僕らの仲間だ。今更関係を断ち切る事は出来ない。
では何を懸念しているのかと言うと、まずは孤児院の干し芋販売の件。
リンガ政府がこれを嗅ぎつければいずれ僕らの事が知られるだろう。下手をすると孤児院に多額の税金が掛けられる可能性がある。
ほら、干し芋を作るのには人が必要じゃない。居るはずの人間を隠して脱税してるみたいな論法で税金の徴収くらいこの国の腐った役人ならやりかねないからね。
それと同じ理由でラビリさんの方にも迷惑が掛かる可能性がある。ぶっちゃけモンスター素材の販売とか、大量の食料の買い付けとか、人間がどれだけいるんだよって話だから。
まぁ難癖付けて金を多く取ろうとするのはどこの世界でも一緒って事だよね。
その癖払う時は渋るし。なんで年金は死亡した段階で勝手に止められるのに、その後遺族年金に切り替える時はいちいち手続きしないといけないんだよ!
遺族年金を受け取る人の中には自分で手続き出来ない健康状態の人だっているんだぞ!年金無くなったら飢え死にする人だっているだろう!弱者は死ねってのか!!生存権はどうなってんだよ!
これだからお役所仕事は嫌なんだよ!!クソが!!
おっと、話が逸れたね。怒りを鎮めないと。こういう時は楽しい事を想像するのが一番だね。
これから出来る健康ランドの事を想像しよう。可愛い女の子達が裸でキャッキャウフフする姿…あぁ、モフモフの獣人さん達がお風呂に入る姿って癒される~。
ってチゲェ~よ!!僕が求めているのはもっとこうイヤ~ンな感じのやつだよ!!くそ!!僕って16で死んでるから向こうでエロ本すら見た事が無いんだよな!
僕の想像力じゃエロエロじゃなかった、色々カバーできないんだよ。チキショ~!!!!
「コンヨウさん、真面目な話をしている時にクズな妄想に耽るのはやめて頂けませんか。」
「パフィさん、何度も言ってるけど、心を読まないでくれるかな。」
「コンヨウ君、今のは私でも分かるよ。」
「ドクさんには鼻がありますからね。」
「いえ、そんなモノが無くても分かるわよ。思春期特有の盛りの付いたケダモノのようなオーラが滲み出ていたもの。」
ガハァ~~!!(吐血)僕って完全に変態扱いだ。これ以上この話をすると独立村創設初日で村長交代という前代未聞の事態になりかねない。
ここは話を真面目な方向に戻そう。
「一応、今回の趣旨について説明しておきますね。
この健康ランドの売り上げについてはきちんと税金を払おうと思います。」
「えっと、どういう事ですか?」
僕の一言にパフィさんのみ疑問の表情を浮かべる。
どうやらドクさんとネイチャンさんは僕の狙いが分かっているようだ。
「今回はナプール近郊に健康ランドを建てるわけだから、土地はリンガの国土の中にあるんだよ。
ただし、街の外だから地価自体は実質0の未開の地だけど。
だから僕らが払うのは健康ランドの売り上げから発生する税金だけになるけど、それについてはきちんと支払う。
ここまではいいね。」
「はい、それ以外の税金を払えとか言われたらどうしますか?」
「確かに、リンガで商売をするんだから人頭税を払えとか、土地を使ってるんだから固定資産税を払えとか言われるかもしれないね。
でもこれについては絶対に払わない。まず人頭税だけど、これは街で衛兵に守ってもらう為のお金として発生するモノなんだ。
固定資産税についても街で守られていない土地に価値なんかつかない。つまりこの二つは払う義理が無いんだ。」
「それでも払えって言われた場合は?」
「その時は街中にこう触れ回るね。『どこそこの役人が不当に税金を徴収しようとして、営業が出来なくなりましたから店を畳みます』、ってね。」
「それになんの意味があるんですか?」
流石にここまで言えば分かると思ったんだけど、ちょっと難しかったかな。
でもこれはパフィさんの考える為の訓練だから安易に答えを教えたりしないよ。
「パフィさん。ラスカリ姉妹のスキルについてどう思う?」
「えっと、ラクスさんのお風呂はとっても気持ちいいし、カリーナさんの洗濯機はとっても便利です。」
「じゃあ、それを使う事に慣れてしまった後に、いきなり取り上げられたら?」
「凄く困ると思います。身体が洗えなくて気持ち悪くなるのも、洗濯に何時間もかけるのも耐えられないと思います。」
「それがナプール全体で起こったら?」
「ちょっと想像出来ないです。きっと物凄く大変な事になるとは思いますけど。」
「つまり、僕らがやろうとしているのはそういう事だよ。」
要するに快適な生活を教えて、何か問題が起こったら、問題を起こした人間のせいにして取り上げる。
これは一種の脅迫であり、交渉手段だ。リンガは民主主義国家だ。国民の意見を無視できない。
リンガにはちゃんとした選挙制度があるから、街一つが政権に批判的になればそれだけで次の選挙に大きな影響が出る。
現政権だって次の選挙に負けたくはないだろうからね。
ついでにこれは補足だけど、ブルームーンフォレストでは既に空き家を2つ改造してお風呂を導入していたりする。2つって言うのは勿論男湯と女湯ね。つまり、パフィさんを始めブルームーンフォレストの面々は既に快適なお風呂ライフを知ってしまった後と言うわけだね。
それとパフィさんには言ってないけど、売り上げ分だけでも税金を納める事でリンガにとってもプラスになる様にする事が重要なんだ。
今回、僕らを尾行したのは補佐官だから、当然上司もいるわけだ。組織にいる以上、下っ端が何の手土産もなく、上司の元に戻るのは色々難しいだろう。
だからこちらで逃げ道を作ってやる事で無駄な争いをせず、ウチの村の存在を黙認させる事だって出来るかも知れない。
まぁ、ろくでもない役人がこちらにちょっかいさえかけてこなければ僕はそれでいいんだけどね。
さて、パフィさんへの説明も終わった所で締めに入りますかね。
「では、まずは『大工』スキル要員とその他人員の確保ですね。
僕はナプールの知り合いに当たってみますので、ドクさんは村の人と新しくプラム村から入ってくる人の中で協力してくれそうな人がいたら声を掛けて下さい。」
「分かったよ。ただしラバールさん一家には君から協力要請をしてくれるかな。その方が成功率が上がるだろうし。」
「…了解しました。」
クソ!厄介事をドクさんに押し付けようと思ったのに。パフィさん、逃げようとしないの。君も一緒に来るんだからね。
さて、気を取り直して。
「ネイチャンさん。今回の作戦の主軸であるラクスさんとカリーナさんの二人のスキル使用の限界と健康状態の把握をお願いします。
大規模なスキル使用が予想されますので、彼女達のスキル使用量の限界値によっては計画の変更が必要になります。絶対に無理だけはさせないで下さい。」
「分かったわ。任せておきなさい。」
流石出来る女ネイチャンさんは違いますね。今度お礼に果実酒持っていきますので。
「じゃあ最後にパフィさん。」
「はい!」
「君をこれから僕の護衛兼補佐官に任命する。
いろいろやってもらう事になるけど、差し当たっては僕がやろうとしている事、発言した事を逐一書き留める所から始めてくれるかな。」
「……」
「パフィさん、お願いしてもいいかな?」
「…はい!!」
僕の言葉にビックリしたみたいで、少し呆けた様子だったけど、もう一度聞き返したら嬉しそうに元気な返事が返って来た。
いや~、村長になるにあたって補佐官って欲しかったんだよね。だってカッコイイでしょう。
常に一緒にいて何かお願い出来るのってパフィさんくらいだから、その場のノリでお願いしちゃったけど、あんなに嬉しそうにして。
きっと僕と同じでそういうロマンが分かる子なんだろなぁ。そう思ってたんだけど。
「コンヨウさん…あれは絶対に勘違いしている顔ですね…」
何やら、僕の聞こえない声で呟くのと同時に向けられたジト目がなんとも印象的だった。
こうして村長になって初の一大イベント『健康ランド蒼月』計画が幕を開けるのであった。




