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124_青い月の村

「さて、こうなったらリンガとは徹底抗戦ですね。」


「なんですか?いきなり物騒ですね。」


「……はぁ~~。」


3/12青の日(木曜日)の昼前、場所はドクさんの家。

昨日の焼き芋販売を終えて、孤児院で一泊した僕らは朝一番に集落へと戻ることにした。ドクさんと色々相談したかったからだ。

ビッチ司教の事、変態狐の事、ストーカーコウモリとその背後にいる汚職議長(言いがかり)の事。とにかく考えないといけない事が増えてきた。

今までだったら自分独りで何とかしようとしていたんだけど、もう独りでどうにかなるレベルを超えている。

それにもう決めたから。僕はこの集落をみんなと一緒に世界最強の共同体にしていくと。

今はまだ準備段階でみんなにそれを伝えられないのが少し歯痒いけど、それでもここにいる全員の為に最善を尽くすつもりだ。

そんな真面目な気持ちを込めて放った言葉がさっきの一言なんだけど、パフィさんは呆れて冷たい視線を向けて来るし、ドクさんは肩を落としながらため息を吐くばかりだし。

パフィさんはいつもの事だけど、ドクさんのその反応は少し傷つくなぁ。

防弾ガラスが輪ゴム銃で撃ち抜かれたくらいの傷を負った僕を余所に、少しの沈黙を挟んで最初に口を開いたのはドクさんだ。


「徹底抗戦と言ったけど、具体的にはどうするんだね?」


「それはこれから考えます。」


「うわぁ~、あれだけ勢いよく言っておいてノープランですか?」


「いや、アイデアはあるんだけど、どれが使えるかの相談をしたいんだよ。」


呆れるパフィさんに慌てて弁明する僕。それを聞いたドクさんが不敵な笑みを浮かべながらポツリと呟く。


「そういう事ならみんなを呼んだ方が良さそうだね。」


「えっ、みんなって集落全員ですか?」


「そうだよ。今回は大規模な作戦になるだろうから全員に協力して貰わないと。」


「それってつまり…」


「そういう事だよ。今日の夕食は全員で広場で食べよう。」


それだけ言い残して、ドクさんはその場を後にした。


「コンヨウさん、これってどういう事ですか?」


「いよいよって事だよ。我が集落が最強になるための最初の一歩だよ。」


そして、その日の夕方。

集落の広場は美味しそうな匂いに溢れていた。エレフさんが自重無しで調理家電と異世界のレシピを駆使して作り上げたメニューの数々。

ハンバーグ、鶏のから揚げ、ピザ、グラタン、サンドイッチ、フライドポテト、お芋の煮物、新鮮野菜サラダ、豚汁、お芋モンブラン、フルーツ盛り合わせ、氷で冷やしたリンゴジュース、それから極上品の焼き芋各種。

それらが立食形式で所狭しと並べられた光景に、この場に集まった者全員が涎を垂らす。


「では、いただくとしましょう…」


いただきま~~~~す!!!!!!!


ドクさんの音頭と共に、全員が食事への感謝を捧げ、目の前の料理に舌鼓を打つ。

日本ではお馴染みのメニューばかりだけど、この世界の人達からすれば異世界の料理。

普通なら馴染みのない食べ物に少し戸惑う場面もあるかも知れないけど、今まで僕が持ち込んだ料理は全て美味しい事はこの集落の人間なら誰もが分かっている。

むしろ珍しい食べ物から率先して口に運び、気にいったモノの前に陣取る者まで現れるほど。特にハンバーグと唐揚げは人気が高く、大量に作っていたはずなのにすぐに無くなり、慌てて追加を作る始末。

子供や若い男性にはやっぱりお肉系が人気で、女性はサラダやモンブラン、年齢が高い人は豚汁や煮物が好みのようだ。

こんな時でもネイチャンさんは男どもに野菜を食べろと叱っていたし、そのくせ自分はモンブランばっかり食べていてジト目を向けられていたりと、意外な人の意外な一面を見る事も出来た。


パフィさんは全制覇した後に『極上甘納芋』を3つ平らげるという健啖家ぶりを発揮し、それに負けじとエレフさんも『極上絹甘スイート』を4つ平らげる。

他のみんなもこの時初めて極上品の焼き芋を食べたんだけど、料理を食べている時と負けず劣らずの大騒ぎとなった。

どうやらウチの集落では、『極上甘納芋』が一番人気で次が『極上鳴子銀時』、僕が好きな『極上紅音姫』とエレフさんが好きな『極上絹甘スイート』は少数派らしい。

『極上紅音姫』派閥が僕とゼブラさんとミル様(通称ダメ人間ズ)の3人だけで、『極上絹甘スイート』派閥に至ってはエレフさんとペテロさん(通称スイーツ男子)の二人だけという始末。

そんな少数派の僕達を尻目に最大派閥『甘納芋』組と第二勢力『鳴子銀時』組の間で血で血を洗う抗争が…起こる事は無かった。

だって『甘納芋』組にはパフィさんとネイチャンさんがいるんだもん。絶対勝てるわけ無いよね。『鳴子銀時』組筆頭のドクさんも流石に撤退一択だよね。


さて、そんなこんなで用意した食事も全て平らげられ、にぎやかで楽しく、そして美味しい時間は幕を下ろした。

みんなが満足感に目を細める中、決して大きくはないが静寂を打ち破るには十分なドクさんの声が響く。


「さて、本日こうして皆様に集まって頂き、素晴らしい食事と楽しいひと時を過ごせた事を大変嬉しく思います。

この集落は去年末から今年の初めにかけて…ほんの2ヶ月余り前の話だけど、飢えが蔓延し滅びの危機に瀕していました。」


ここでドクさんは一旦言葉を切ってみんなの注目を集める。

そう言えば、あれから2ヶ月ちょっとしか経ってなかったんだな。


「今日の食事に預かられたのも…そしてあの時我々が救われたのも…一人の少年のおかげだと私は断言します。」


この瞬間、みんなの視線が僕の方に向く。ちょっと!ドクさん!僕、こういうの苦手なんだけど。

みんなが僕に向けて来る笑顔が本当に幸せそうで、今までの人生で向けられた事が無い様な特大級の好意にこそばゆい気持ちになる。


「彼はこう言った。自分は平和に、穏やかに、慎ましく…怠惰に日々を過ごしたいだけだと。」


ハハァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ちょっとドクさん!余計な事言わなくてもいいのに!みんなもちょっと笑い過ぎでしょう!

まったく、ここはお笑いのライブ会場じゃないんだから、ドッと沸かせる必要なんてないし、何より僕をネタに使わないで下さいよ!

今笑った奴ら、後でライブの入場料取るから覚悟しておけよ。


「おっと、失礼。何やら少年から不穏な空気が流れているので話を戻しましょう。

彼はこうも言いました。このモンスターだらけの森で無事に生き抜くだけではダメなのだと!

訳ありの我々が外の世界と渡り合う為の確かな力、交渉力が必要なのだと!」


………


「外敵に対抗する為の戦闘力!」


ドクさんの視線がパフィさん、バックル達狩猟部隊の皆さんへと注がれる。


「経済力を高める為の生産能力!」


ドクさんの視線がエレフさん、スミスのジジイ、カウズ一家を始めとする村の生産を支える人達へと注がれる。


「経済力を支える為の運搬能力!」


ドクさんの視線がゼブラさんへと注がれる。


「村の健康と生活を支える医療福祉!」


ドクさんの視線がネイチャンさん、ラスカリ姉妹を始めとする、村の健康を支える人達へと注がれる。


「少年は言った。


…我々の力を貸して欲しいと!


……やっと我々は少年に必要とされたんだ!!!」


ワァァアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!


「我々にはこれだけの素晴らしい力がある。だがまだ足りない。何故なら我々は30余人しかいない。

圧倒的少数の我々は外からの脅威に対抗するためには、一丸となってこの集落を強くしなくてはならない。

自身を磨き、仲間を増やし、外との繋がりを強める。そうやって力をつけていき、ゆくゆくは国すらも容易に手を出す事が出来ない、最強の共同体になる。

それこそが我々の平穏の為になすべき事であると、私はそう確信した。異議のある方はおられますかな。」


…………


流れる沈黙、決意に満ちた笑顔、歓喜に緩む口元、未来を見据える様に遠くを見つめる視線。

みんな思い思いの形で自らの決意を表現する。形は違えど向かっている先は同じ。最強の集落。


「満場一致だね。では我らがリーダーコンヨウ殿。一言お言葉を頂けますかな?」


エッ!僕、そんなの聞いてないよ!どうしよう、この状況…なんかみんなの期待の視線が痛いし。

つか、リーダーって何?これ絶対に僕には内緒でみんなで話を進めていた奴だよね。チキショ~、後で覚えてろよ。


「えっと、いつから僕がリーダーになったのかはこの際置いておくとしまして、僕の持つ理想については共有して貰えていると思います。

僕が望むのはみんなが豊かに、穏やかに、ゆとりを持って、そして何より美味しいご飯をお腹いっぱい食べられる、そんな場所です。」


…ここで僕は一拍、間をおいて話を仕切り直す。


「まず、皆さんに伝えておかないといけない事があります。僕は皆さんに記憶が無いと嘘をついていました。

信じて貰えないかも知れませんが、僕の正体は『異世界人』です。」


ここで僕はみんなの反応を確かめる為に暫く黙り込む。

さて、みんなの反応は…


「オカン、イセカイジンって何なん?」


「ウチにも分からへんわ。でもきっとウチらと大して変わらんと思うわぁ。」


「せやな。オレ、コンヨウ兄ちゃんが大魔王って言われても不思議に思わへんし。」


「こら!バン君!コンヨウ君に失礼なの!…でも大魔王のコンヨウ君も危険な香りがして素敵なの。」


「まったく、ラクス姉はコンヨウさんなら性病持ちでもOKなんですよね~。」


「性病持ちは嫌なの。」


「エッ!コンヨウさんって性病持ちだったんですか?」


「おい!!テメェ~ら!!特に腹黒養殖系アイドル!!ナニ根も葉もない風評被害垂れ流してんだ!ゴラァ~~~~~!!!」


きゃぁ~~~~~~~~!!


僕が本気で睨みつけながら、全身全霊の怒りを込めて怒鳴りつけるとガキどもが蜘蛛の巣を散らしたようにその場から逃げ出す。

チキショウ!!童貞の僕がどうやって性病になるって言うんだよ!!おい!そこのシマウマ!ナニ笑ってやがんだ、アァ~~~ッ!!!


「さて、皆さんが僕の事をどう思っているかよく分かりました。

皆さん、明日の朝の焼き芋は抜きですからね。」


ブ~~ブ~~!!!


るっせ~んだよ!いちいち話の腰折りやがって!!この空気でどうやって真面目な話をしろってんだよ!まったく…

はぁ~、みんな楽しそうにして…僕にはこのくらいでちょうどいいな。


「じゃあ、もう色々どうでもよくなりましたので適当に話します。

取り敢えずこの集落ですけど、これからは()を名乗りたいと思います。」


!!!!

この場の全員に戦慄が走る。そりゃそうだよね。村って言うのは国の庇護に入った地方自治体の呼称。

僕の発言はどこかの国に属すると言った様なもんだからね。でも僕の考えは少し違う。


「僕が言っている()と言うのは、どこの国にも属さない集団の事。そうですね、じゃあ仮に独立村(どくりつむら)とでもしておきましょうか。

僕は国の庇護に入れない者、国の干渉を望まない者の受け皿としてこの独立村構想を進めていく事を提案します。」


この言葉にドクさん、ネイチャンさんを始め、頭のいい人達は驚愕の表情を浮かべる。


この構想は…建国に等しいからだ。


もっとも僕が国の運営に関わるなんて事は出来ないだろうから、そんな大それたものではないんだけどね。


「僕が思い描いている独立村は建国なんて堅苦しいものではなく、言うならば緩い繋がりによる共同体でしょうか。

村の中では皆が協力し合い、共に日々を生きる。みんながみんなの為に、そして何より自分自身の為に適度に頑張ることで幸せを追求する集団です。」


なんか緩い社会主義みたいだけど、これを国の規模でやろうとすればまず失敗するだろうね。

なんせ人の集団には必ず怠ける人間がいるから。働きアリの法則だったっけ。3割の人間は必ずサボるってやつ。

でも小さい集団だったらその怠けアリをローテーションで回す事だって出来る。

そうやってみんなが一生懸命働いて時々適度にサボるくらいが理想かな。


「その為には外敵に屈しない力を持ちつつ、外との繋がりを持った自立した集団にする必要があります。

そんな村を僕は皆さんと作っていきたい。どうか僕に力を貸して下さい。」


ワァァアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!


「皆さん。ご賛同ありがとうございます。ではその証として、独立村に名前を付けたいと思います。」


僕はふと空を見上げる。僕の目に映るモノ、もし村を作るならこの名前にしようと決めていた。


「ではあの青い月にちなんで『ブルームーンフォレスト』と言うのは如何でしょうか。」


ワァァアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!

ビバッ!!独立村!!ブルームーンフォレスト、バンザ~~~~~~イ!!!!!!!!!


こうして独立村ブルームーンフォレストが誕生した。

せっかく月にちなんだというのに、実際に浮かんでいるのが地球で言うところの十三夜だって言うのが中途半端でなんとも僕らしいね。


………


ここにこの世界の歴史上もっとも偉大な村、ブルームーンフォレストの初代村長コンヨウが誕生した。

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