119_狩猟部隊スキル開発講座(前編)
「と言うわけでこれより集落狩猟部隊のスキルチェックを始めたいと思います。」
「何が、と言うわけなのかは分からへんけど、今日と明日は全員の適正武器の確認って事でええんかいな?」
3/9橙の日(月曜日)の昼過ぎ。場所は集落の外れの森の中。
僕はリンガ政府の動きが怪しいという情報を受け、何をするべきかと考えたんだけど、やっぱりまずは武力だよね。
リンガ政府がどういう行動を取るかは分からないけど、ぶっちゃけウチの集落に対して兵糧攻めとか経済制裁って無意味だから。
なんせ芋を作る事しか能がない腐れ外道と、モンスターを平然と狩れる強者ぞろいの狩猟部隊の皆様がいるから、食料が無くなる事なんてあり得ないし。
リンガは全ての種族が平等で平和的な国とか自分達の事を謳ってるけど、権力者って奴は結局最後は腕力に頼る。その時に対抗する手段はこちらも武力を持つ事だ。
ほら、この前ドクさんと話してたけど、強い力はより強い力を引き寄せるんだよね。
あれって、力を持っている人間が自分の脅威になりそうなモノを潰そうとするから起こるんだよ。
つまり戦争とは、現状既得権益を得ている人間がそれを守ろうとしたり、不要な搾取を行おうとするから起こるモノなんだと思う。
それに対する反発する奴もいるにはいるけど、それにしても元凶は権力者側にあると言って間違いない。
だいぶ話が逸れてしまったけど、僕の中でリンガは信用に値しないと思っている。それはプラム村の事件やゲッスやズンダダの件だけでも明らかだ。
故に武力を持って備える必要がある。
その為に戦闘要員の能力を把握したいって言うのが今回のコンセプトだね。
この事については昨日の内にドクさんとバックルさんには相談済み。
「では、今日はメンバーの内半分を見ていこうと思います。まずはバックルさんお願いします。」
ちなみにメンバーを半分に分けたのはもう半分に防衛に当たってもらう為。今回、パフィさんは防衛側に参加の為、別行動。
僕の言葉を受けたバックルさんが質問に応じてくれる。
「俺からやな。俺のスキルは『盾術』『頑強』『怪力』『チョトツモウシン』や。」
「えっと、なんか脳筋な構成ですけど、何か分からないスキルとかありますか?」
「最後の『チョトツモウシン』やな。これなぁ、使ってみても発動せんのや。」
なるほど、『猪突猛進』ねぇ。名前の通りならおそらくただ突っ立てるだけじゃ発動しないだろうね。
「バックルさん。あそこに木が見えますよね。あそこに盾を構えた状態で全力で突進して下さい。その時『猪突猛進』スキルを使うのも忘れずに。」
「ん?別に構わへんけど、俺でもアレにぶつかったら怪我するさかい。」
「大丈夫です。折れてもネイチャンさんにくっつけて貰いますから。」
「どこが大丈夫なんや!!まったく、ミルが鬼、悪魔言うてた理由がよう分かったわ!」
ミルさんそんな事を言ってたのね。これは後でお仕置きだね。勿論情報の出所を明かした上で。
おっと、どうやら僕の不穏な雰囲気が読み取られたみたいだ。異常に焦ったバックルさんが直径2mの大木に突撃する。
本当に無茶をする人だなwwあんなのに突っ込んで怪我でもしたらどうするんだろうwww
……ズッドドッドドドドドドドドドドドオドドドドドドドド~~~~~~~~~~~~~ン!!!!!!!!!!!!!
エッ!!エェェエエエエェェエエエエェ~~~~~~~~!!!ナンデッ!!バックルさん!!!ナンデ~~~~ッ!!!
鳴り響く破壊音。直径2mの大木が轟音を上げながら叩き折られる。
「…バックルさん、出オチありがとうございます。次の人がやりにくくなるからほどほどにお願いします。」
「あんさんがやれって言うたんやろが!本当に良い性格しとるわ!!」
さて、いきなり衝撃映像を生み出した空気を読めないバックルさんは無視して次に行きますか。
「では次は…マッドさんお願いします。」
「おうさ、おいの番やね。」
僕の声に応じたのはサイ獣人のマッドさん。筋骨隆々の偉丈夫で現在は前衛を担当。
「おいのスキルは『キョウキュウ』『サンダン』『怪力』の三つやね。もっとも『怪力』以外は何のことかよぅ分からんけど。」
ん?『強弓』『散弾』かな。この人なんで前衛やってんの?この構成どう考えても中、後衛じゃん。
僕は呆れながら弓矢を手に取りマッドさんに手渡す。
「マッドさん、あなたの武器はこれです。」
「いや、コンヨウどん。おいが普通の弓使うたら壊してしまうけん。」
「大丈夫です。まずは『強弓』スキルを弓に使って下さい。」
「おう…スキル、発動したみたいやね。次はどうするとね。」
「次は矢の方に『散弾』スキルを使って下さい。」
「ん?こうかね…こっちもスキル発動やね。」
「では取り敢えずアッチ方向に矢を放って下さい。」
僕が指示したのは人がいなくて木が密集した森の中。マッドさんが力いっぱい弓を引き搾り、そして矢を放つ!!
ヒューーン…ズドドドドドドドドドドドドーーーーーーーッ!!!!!!
飛んで行った矢が無数に分裂して木々に突き刺さる。予想はしてたけど実際見ると強烈な映像だね。
マッドさんのスキルだけどまず『強弓』で弓を強化して、『散弾』で矢をショットガンに変えて、『怪力』で放つって組み合わせだね。
今見た感じだと射程は中距離で範囲殲滅タイプ。多分今までこの世界にはいなかったタイプだろう。さっき出オチをしてくれたバックルさんが口をあんぐりさせてるし。
ただし弱点としては一発撃つたびに矢が一本無くなって再利用不可になるって所だね。僕の分析結果をマッドさんに説明すると、
「コンヨウどん。ぬしの知識は凄かね。今までおいは『怪力』で殴るしか能がなかったけん、これでもっと戦力になれるばい。」
と、驚き半分、喜び半分の様子だったね。じゃあ次、巻きで行こうか。
「では次はハヌマさんお願いします。」
「OK!俺様の番だぜ。」
陽気な返事で飛び出してきたのは細身の猿獣人ハヌマさん。
「OK!俺様のスキルは『棒術』『剛腕』『軽業』『にょういぼう』だぜ。基本的にメイスで相手を殴って攪乱するのが仕事だぜ。ところで『にょういぼう』ってなんだぜ。」
マジかよ。今度は『如意棒』って。ファンタジーの武器のご登場かよ。この人のスキル構成を考えると縦横無尽に動くオールレンジタイプかな。
僕は細めの樫の木の棒をハヌマさんに手渡しながら説明する。
「ハヌマさん。ここからあの木を殴ってみて下さい。」
「No!何言ってんだぜ。ここからじゃ届かないぜ。」
「大丈夫です。スキルを使えばその棒は伸びますから。」
「Hah…まあやってみるけどYo。スキル『にょいぼう』!!」
ビュン!!…バキン!!
「Oh…マジか!!へへッ、こりゃ便利だぜ!!」
ハヌマさんが棒を一振りすると、それは急激に伸びて10m先の木を殴りつける。
前の二人が派手過ぎて分かりにくいかも知れないけど、素早く敵のアウトレンジから攻撃出来る高性能なスキルだ。
さて次だ、ドンドンいこう。
「う~ん、次は僕達の番だね、セラさん。」
「そうね。ロック君。」
ご存じ、リア充移動砲台コンビ。ウマ獣人のロックさんとクマ獣人の紅一点セラさん。チッ!こんなとこでもイチャイチャしやがって。爆ぜろ、クソが!
二人は僕が飛ばす怨念にお構いなしでイチャコラしながらスキルの説明を始める。
「う~ん、まず僕だけど『俊足』『持久力』『剛脚』『剛腕』『ムエタイ』だね。『ムエタイ』って何だろうか?」
「私は『投擲』『剛力』『シダン』だったわね。『シダン』がちょっと分からないわね。」
『ムエタイ』ねぇ~。つまりロックさんはセラさんを背負いながら近づいた敵を蹴り倒せるわけだ。
『人の恋路の邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』って奴かな。リア充滅べってんだよ!クソが!!
そしてセラさん、『シダン』って『指弾』のことだよね。これは試してもらった方が早いな。
僕はセラさんに小石を渡しながら二人にスキルの説明をする。
「う~ん、つまり僕のスキルは足技主体の格闘技なわけだね、セラさん。これで君に近づく虫けらどもを全て蹴り潰せるわけだ。
試しにあのちょっと細めの木を…おっ!一撃で叩き折れたね。」
「私の方は指でモノを弾くことで相手を攻撃する技だって。これでロック君に近づく害虫どもを残らず始末すればいいのね。
試しにあそこに飛んでる鳥を……やったわ~~!!今日は二人で焼き鳥パーティーね。」
あ~ぁ~、食材の鳥とそれを焼くための薪を確保しちゃったよ。そしてまたしてもオートでイチャついてるし。こいつら相手にすると疲れるからもういいよね。次行こうかな。
「わが最後かな。」
本日最後は鷹獣人のいぶし銀、最年長スナイパーのグラディスさん。ではお願いします。
「わのスキルは『狙撃』『鷹の目』『チョウダン』『キョクシャ』かな。後の二つが分からないね。」
この人ってバリトンボイスで目を瞑って聞いたら男の僕でも惚れそう。
えっと、『跳弾』と『曲射』だよね。多分この人は障害物無視で狙撃するスナイパーだ。そう思いながら僕はスキルの説明をする。
「なるほど、矢を曲げたり、壁に反射させたりして、ターゲットを狙撃するわけだね。試してみよう。」
シュッシュッシュッシュッ…カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!…グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!
オ~ッ!スゲェ、障害物を迂回して完全に死角になっているターゲットの木に矢を当てた。
しかも軽く100m以上離れているけど、多分『鷹の目』の効果で遠くの詳細な状況もはっきり見えてるんだろうな~。
「バックルさん。まだ半分ですけど、みんなとんでもないですね。」
「せやな。俺自身も含めてこれほどとは思わんかったわ。」
僕は彼等を見ながら遠い目になり、バックルさんに話し掛ける。
戦力大幅増強は嬉しいんだけど、これと戦うかも知れないリンガ兵が哀れでならないと思うのであった。




