118_動き出す権力
「…大豆1トン、本当に用意したんじゃのぅ。」
「では、クズミ様!よろしくお願いします。」
3/8赤の日(日曜日)僕らはその日の朝を孤児院で迎えたわけだけど、早速発注していた大豆がゼブラ運輸で届いたみたいだ。
「コンヨウっち!テメェーは俺っちをもっと労いやがれ!」
「お疲れ様です。ゼブラさん。良ければお水とタオルをどうぞ。」
「あぁ、ありがとう。スフィーダさんだけだよ。俺っちに優しいのは。」
「……」
チッ!!リア充どもが朝からイチャつきやがって!アイツらあれで付き合ってないつもりだからな!まったく死ねばいいのに!
見せつけてくれる無自覚カップルどもに祝いの思念を送っていたんだけど、パフィさんの視線がドンドン冷たくなる気がする。
さて、他人が乳繰り合う様なんて見ていても何も面白くないので、僕らは僕らで作業と行きますかね。
「クズミ様。大豆油を500キロ、醤油を400キロ、味噌を100キロお願いします。」
「承知、こんなに大量にスキルを使うのは初めてじゃのぅ。」
「無理っぽかったら大豆油は後日で大丈夫ですので。」
「なぁに、心配無用じゃ。では…」
クズミ様が静かに大豆に手をかざしスキルを発動する。
すると大豆油、醤油、味噌がそれぞれ1個当たり10キロ程のラベルの張った樽に入った状態で生成される。
いっつも思うけど、この世界のスキルって何気に消費者に優しいよね。多分中身が無くなったら樽は消える仕様なんだろうなぁ。
しかも樽に重さを感じないんだけどどういう仕組みなんだろう?
本当はお豆腐も作りたかったけど、今回は保存スキル持ちがいなかったので延期。ほら、お豆腐って鮮度が落ちやすいから。
「ふぅ~、まぁこんなもんじゃろうかな。少し疲れたのぅ。」
「お疲れ様です、クズミ様。宜しければこれを。」
「ほぅ、これはすまんのぅ。」
僕はお疲れのクズミ様にキッチンであらかじめ入れて置いたハーブティーを差し出す。
このハーブティーは『芋ファイア』で沸かしたお湯で煮だした後、『芋アクア(氷水一歩手前)』で冷やしておいたものだ。
全力の揉み手でクズミ様に媚びへつらう僕にみんなの視線が痛い。だがそんな事は今はどうでもいい。
ゼブラさんの手元にはただの水、クズミ様の手には薫り高いハーブティー。どう考えても僕らの勝ちですよね。
「さて、ではブツも仕上がりましたし。ゼブラさん、早速運んじゃってください。」
「コンヨウっち、テメェって奴は~~。」
さて、リア充の憩いの時間を無事に邪魔した所で、僕らもそろそろお暇しますかね。
「ではクズミ様、ついでにガキどもとスフィーダさん。これにて失礼します。」
「ゼブラさん、パフィさん。いつでもいらして下さいね。コンヨウ君はお芋だけ置いて行って下さいね。」
と、いつもの心温まる遣り取りをした後、僕らは孤児院を後にする。
この時、僕とスフィーダさん以外は苦笑いをしていた気がするけど、多分気のせいだろう。
しかし最近スフィーダさんの僕に対する扱いが一段と雑だけどなんでだろう?
「ゼブラさんとスフィーダさんの仲を知った瞬間に、コンヨウさんの態度が分かりやすいくらいしょっぱくなったからでしょう。」
「パフィさん。知ってると思うけど、僕の前でイチャつく奴は全員死ねばいいと思ってるから。」
「そんな事ばっかり言ってるからいつまで経っても非モテの陰キャなんですよ。」
僕の人としてごく当たり前の主張にパフィさんの態度が冷たい。
こうして僕とパフィさんとゼブラさん、久しぶりに3人での帰宅。
まったりとした気分で歩いていたんだけど、その雰囲気をぶち壊しにする話題がゼブラさんから降ってくる。
「なぁ、コンヨウっち。ちょっと耳に入れておきたい事がある。」
「なんですか?」
「実は俺っち達がナプールで商売をしている事をリンガ政府が嗅ぎつけたみたいなんだ。
それで奴らのことだからきっと俺っち達から色々搾り取ろうとしてくるはずだ。」
「つまり、税金を払え、っという事ですか?」
「まぁ、平たく言えばな。最も俺っち達の集落は村じゃないから税金を払う義務は無いんだけどな。」
「ん?どういう事ですか?」
ここで頭にはてなマークを浮かべる僕にゼブラさんが村と集落の違いについて説明してくれる。
この世界において、村や町や街は国の庇護下にある地方自治体だが、集落は国の庇護下にない人の集まりらしい。
村になれば国に税金を納める義務がある代わりに何かあれば国に助けを求められる。
一方集落は税金を収まる義務は無い代わりに何が起きても自己責任。もっとも集落なんてものはほとんど存在しないらしいんだけど。
僕はこれを聞いた瞬間、リンガ政府はどうしようもないゴミの集まりだと思った。
「あの~、リンガ政府は本気で僕らから税金を取るつもりなんですか?」
「コンヨウさん、言い方。」
「パフィちゃん。今回に関しては俺はコンヨウっちの味方だぜ。リンガ政府はマジみたいだ。
プラム村の時は本来助けるべき村人を食い物にした癖に、その上今まで放置していた俺っち達からまで搾取しようとしてきやがる。」
「…潰した方がいいんじゃないですか?リンガ政府。」
「コンヨウさんが言うと洒落になりませんからやめて下さい。」
僕はただ一般的な不平不満を口にしただけなのに、パフィさんが本気で焦ってる。
嫌だな~、まさか本気で今すぐ潰すわけないじゃないか~。もう、パフィさんってばあわてんぼうなんだから。
「潰す事そのものをやめて下さい。」
「いや、まぁ流石にこの欺瞞に満ちた世界でも必死に生きてる人がいるわけだし、別に無差別テロとかはしないよ。」
「格好つけてますけど、思考が犯罪者です。革命とか出来そうだったらするんでしょう。」
「しないよ。面倒くさい。」
「コンヨウっちはやろうと思えばできそうだよな。その時は俺っちにも一口噛ませろよ。」
「ゼブラさんもやめて下さい!!」
僕とゼブラさんが素敵な笑顔を浮かべながら、リンガ転覆を企む中、パフィさんのツッコミだけが木霊するのであった。
一方その頃、リンガ共和国首都リンガ、上級議会議長室にて。
ここに肥え太ったカイゼル髭の豚獣人の男とヤセぎすのコウモリ獣人の男が何やら密談をしていた。
「聞いたかね、ヒューストン君。『マードック・ザ・ワイズマン』がナプールで見つかったそうじゃないか。」
「それは興味深いですね。フィリップス議長。かの賢人は『聖者の遺言の答えを求める』と言って各地を放浪していたはずですが。」
「あぁ、どうやらあの町に蔓延っていた小悪党どもを一掃した上で何やら商売を始めたそうだぞ。」
「それはますます興味深いですね。かの賢人が行う商売でしたらきっと繁盛している事でしょう。」
「その通りだ。だがナプールは我が国固有の領土だ。そこで商売をするなら当然納税の義務が発生する。そうは思わんかね、ヒューストン君。」
「ごもっともでございます、議長閣下。本来であれば裁判所を通して、然るべき税の支払いを通達するのが筋でございますが。」
「ふん!あの老いぼれが素直に金を払うと思うか?どうせ『リンガに定住していないのだから払う義務は無い』とか言い出すに決まっている。」
「では、如何なさいますか。」
「ナプールの商業ギルドに登録している人族の少年コンヨウについて調査したまえ。
この少年が『マードック・ザ・ワイズマン』の代理人である可能性が高い。
この少年から税を徴収すれば『マードック・ザ・ワイズマン』も動かざるを得なくなるだろう。
かの賢人の知恵は国家に役立ててこそだ。そしてその国は最も優れた民主政治を敷くリンガ共和国こそ相応しい。」
「仰せのままに。フィリップス議長閣下。」
こうしてウィル=フィリップス上級議会議長の首席補佐官オリバー=ヒューストンは動き出す。
税を取り立てるという名目の下『マードック・ザ・ワイズマン』を手元に置くという使命を帯びて。




