22「反撃の狼煙」
黄昏時の空は何故か寂しくなる。
自称“神獣”と名乗る妖艷な女性に助けられた俺達は、聖域の森を脱出させてもらい町に戻って来ていた。彼女は去り際まで口を開く事はなく、
『時が来たら来るが良い』
それだけ語ると、彼女は聖域へと帰って行った。
「大丈夫ですかフォグさん?」
「ああ……」
「それにしても許せませわね! 私達を騙した冒険者の方々を訴えましょう!」
そうだっ!! あの女性の事は気になるが、今は俺達を嵌めたイケメン三人組に反撃してやらねえと気がすまねえっ!!
「とりあえずギルドに報告しよう。ただ、ハッキリとした証拠がないからどうなるか分からんが……」
「「はい……」」
足取り重くギルドへ向かう俺達の雰囲気は決して良くなかった。明るいニュースがあるとするなら、キョウカの腹の虫がいつも通り鳴り響いた事ぐらいか。
「おおっ! お前らどこ行ってたんだよ! 大会が終わっても現れないから心配したんだぜ!」
「心配かけたな。実は……」
俺達を見るや、おっさんが心配そうに声をかけてくれた。先ずはおっさんに事の次第を話す事にした。
「あいつらが……すぐにマスターに話にいこう! そんな卑怯な奴らは冒険者にしておけねえ!」
説明が終わると、おっさんも一緒に怒ってくれた。おっさんは俺達を先導しながら二階に上がると、ギルドマスター室の扉をノックもせずに開け放った。
「マスター! 起きて下さい! フォグ達が戻って来ました!」
「んぅぅ? 私がいつ寝ていたと……こ、これは聖女様っ!! ご心配していたのですよ!」
絶対寝ていたギルドマスターのエマさんは、いつもと変わらなくて少しホッとするわ。俺が今回の事件をおっさんにしたようにエマさんにも説明すると、やっぱりなという結果になった。
「……話は分かった。しかし、物的証拠がなければ処罰するにも出来ん。どうしても奴らを処罰したいなら、聖女様の正体を皆に公表して不敬罪で引っ張るしかない」
マスターの言葉を聞き、俺意外の三人は声を詰まらせた。聖女であるエレナの意見を聞かないと、どうしよもなく、本人が黙ってしまえばそれまでだからだ。だが、俺には別の案があった。
「だろうなとは思いました。だから、別の方法で奴らに復讐しようと思います」
「ほう、どんな方法だ?」
興味津々な様子で俺を伺う一同。
そんなに注目されると、逆に話し難い……。
「いや、まあ、そんな大それた事ではないんですけど……冒険者の決闘で型をつけたいと思ってます」
「冒険者の決闘だと……本気かお前?」
「止めとけフォグ! 負けたら全部失うんだぞっ!」
厳しい表情で問うエマさんと心配そうなおっさん。
二人の気持ちは分かる。
冒険者の決闘はただの決闘ではない。冒険者同士でいさかいが起き、話し合いの余地もなくなった時に行われるのが冒険者の決闘。
ギルドが間に入り場を整える。当日は他の冒険者や決闘を観戦する奴等に囲まれて戦うのだ。戦う冒険者が有名であれば観戦する者は何千にも膨らんでいく。
そんな中で、当事者である冒険者は己のプライドとカードを賭けて戦う。負ければカードは奪われて二度と冒険者としては活動出来なくなる。勝てば相手のカードに入っている実績まで奪う事が出来るという天国と地獄の戦い。
負けたら積み上げてきたものが泡に還るが、それでもやらなくちゃいけないと思った。
「本気です。奴等三人と俺の三対一の決闘をやらせて下さい」
「三人と戦うだとっ!? お前、正気か! 勝ちの薄い戦いをしてどうなる! 全てを失うだけだぞ!!」
エマさんは本気で心配してくれていた。だけど、奴等を見逃し、これから胸を張って冒険者が出来る自信などない。
「必ず勝ちます!! 決闘の申し込みを奴等に伝えて
下さい。俺さえいなくなればキョウカとエレナに近付けると思って乗ってくるはずです! カードは先に預けて置きます」
「くっ……分かった。伝えておこう」
俺の差し出した冒険者カードを受け取り、苦い顔で頷くエマさん。決闘の有無は決まったも同然。後は決闘までの間にどれだけ鍛えられるかだ。
言いたい事はもうなかった俺は、後ろで戸惑うキョウカとエレナを連れてギルドを後にした。今日は疲れたから熱い風呂に入って色々洗い流したい気分だ……。
「ふ~っ」
家に帰った後、すぐに風呂に浸かった。キョウカのスキルで風呂はあっという間だから助かる。こんな事に女神様の使いであるキョウカの力を使うのは、罰当たりかもな……。
「フォグさん……私達も入って良いですか?」
「んぅ? あぁ……」
湯船に浸かりながら天井をボーッと眺めていると、キョウカの声が聞こえてきた。なんでも風呂に入りにきたみたいだ。
「……あ? 私達も入る……だと!?」
「失礼しまーす……」
「私も失礼いたします」
驚いて風呂場の入り口を凝視していると、布を巻いたキョウカとエレナが引き戸を開けて風呂場へ突入してきた。これはこれで嬉しいが、なんで急に……。
「ど、どうしたんだよお前達!?」
「いや、えーっと……」
「キョウカさんがフォグさんの背中を流して上げたいとの事です。私達を守ってくれたお礼も兼ねて。私が来たのは一人では恥ずかしいからとキョウカさんがお願いしてきたのと、私もフォグさんに少しでも恩を返せればと思った次第です」
キョウカが口ごもっている間に全てを説明してくれたエレナ。さすが聖女様なだけあって堂々としたもんだ。
「ああ、そ、そうなんだ……いや、まあ、ありがとう」
断る理由が見つからず、とりあえず礼を言うしかなかった。せっかくなので湯船から上がり、背中を流して貰うため洗い場の風呂椅子へと腰を下ろした。
「フォグさん、ま、前っ!! 」
「あら……ご立派ですわ」
「あ、悪い」
うっかり前を隠すのを忘れてしまった。キョウカは両手で顔を隠しているが、指の隙間からチラチラと視線を感じる。エレナさんは相変わらず堂々としたご様子ですね。
「じゃあ、頼んだ」
頭に乗っけたタオルで息子を隠しつつ、改めて二人にお願いの言葉をかけた。
「あの、フォグさんっ!」
「ん?」
「いつもいつも、守ってくれてありがとうございます」
「私からも御礼申し上げます」
二人は俺の背中を洗いながらお礼の言葉を伝えてきた。お礼を言うのはこっちなのに……。
「ありがとな。キョウカ、エレナ」
「な、なんでフォグさんがお礼言うんですか?!」
「お前達と会わなかったら、俺は今でもFランクの冒険者だっただろう。いや、今頃スラムで物ごいでもしてたかもな。ははっ」
自傷気味に笑う俺の背中に、二人の視線が突き刺さる。それは憐れみなのか慈愛なのかは、前を向いた俺には分からなかった。
「本当にするんですか、決闘……」
「ああ」
「負けたら冒険者として活動出来なくなるのですよね?」
「そうだな。なんだよ……お前達は俺が負けると思ってるのか? ちょっとショックだぞ」
「そんな事思ってないです! ただ、フォグさんが心配なんです……」
「凶悪なモンスターに殺されそうになったばかりなのに、決闘ですもの……私達の心配は重いですか?」
「んな事あるか。お前達がいるからこそ、俺は決闘を決心したんだ。俺は勝つ! そしてお前達を引っ張る男になるんだっ!!」
つい決意表明のような言葉を叫んでしまった。締め切った風呂場では音が良く響き、余計恥ずかしさが込み上げてくる。
「大きな背中……暖かい」
背中に伝わる肌の感触。それはタオル越しではなく生の感触だった。この豊満なボディは、エレナだな。
「ちょっと、エレナちゃん何してるの!?」
「見て分かりませんか? 抱擁ですわ」
「いや、見たら分かるけど……なんでタオルまで取る必要があるのよ!」
「直に感じていたいのです。この素敵な背中を」
「だ、だめーっっ! それは私の背中なのっ!!」
「なぜですか?」
「そ、それは……私とフォグさんは付き合ってるから!」
「ですが、正式なものではありませんよね? でしたら私もキョウカさんと同様の条件でお付き合いさせて頂きます。よろしいですかフォグさん?」
「あ、え、うん……」
「うん、じゃないですよフォグさんっ!! 二股とか絶対許しませんよ!」
「よいではありませんか。この一ヶ月は試用期間とし、期限が来たら改めてどちらと正式にお付き合いなさるか決めていただければ良いのです。それとも、キョウカさんは選ばれる自信がないのですか?」
「ぐぅっ……わ、分かったわよ! エレナちゃんには絶対負けないんだから!」
「あら」
キョウカの魂の叫びと同時に、背中にもう一つの感触が伝わってくる。豊満ではないが華奢で柔らかな感触。これはこれで悪くない。
だが、もう勘弁して欲しい所だ。俺は息子を諌めるのに必死なんだ。ここで肉欲に負けてしまえば、明日から鍛えるとかどうでも良くなってしまう。
負けるな俺っ!! 治まれ我が息子よ!
「ていうか、なんでエレナちゃんまでフォグさんと付き合うのよ! もしかして、好きなの!?」
「それは秘密です。ですが、死の境地に立ちながらも私達を守るべく立ちはだかった背中にクラっとこない女性はいないのでは?」
「そ、そうだけど……ズルいよエレナちゃん! そんなおっぱいだったらフォグさんは絶対エレナちゃんを選ぶよっ!!」
「あんっっ、ちょっと揉まないで下さいキョウカちゃん……」
「ほれほれっ!」
「だ、だめぇっっ……キョウカちゃんのおっぱいだって、収まりが良くて揉み心地抜群ですわよっ」
「んぅっっ、そこ、摘ままないでぇぇぇっっ」
何してんだよコイツら。
今のうちに上がろう……。
「お先でぇーす」
俺の言葉にも反応せずちちくりあう二人。そんな二人をほっといて風呂から上がった俺は、窓から見える満点の星を眺め決意する。
「明日からモンスターを狩って狩って狩りまくるっ!! そして沢山のスキルを身に付け、奴等に勝つ! その暁には……おっぱいを存分に揉みしだくっっ!!」
「うわっ……私達、余計な事しちゃった?」
「みたいですわね。勝って欲しいですが、複雑な気持ちになりました……」
とても後ろを振り向く勇気は出なかった。
上がったなら、言って下さいよ……。




