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23「決闘前夜」

  「フォグさ~ん。まだやるんですか?」

「かれこれ半日以上は戦い続けています。そろそろ休まないと持ちませんよ?」

「ああ、分かってるんだがな……」


 聖域の森で特訓という名のモンスターとの連戦を繰り返す事半日。確かに疲れは顕著だ。だけど……楽しくてしょうがないんだっ!


「後一回だけ戦ってくるっ!!」

「も~う……新しいスキルを手に入れたらこれなんだからっ!」

「しょうがありませんよ。男の人はこういうものですから……フフッ」


 特訓を始めて一週間が過ぎた今、俺は新しいスキルを手に入れていた。決闘は明日の正午。それまでに、手に入れたスキルを使いこなさなければ。


「キャッチ&スラッシュッ!」

「ギャギィーッッ!」


 ゴブリンの巣に突っ込み縦横無尽に駆け回る。ものの数分で巣のゴブリン達を殲滅する事に成功した。これも新しく手に入れたスキルのお陰だ。


「お疲れ様ですフォグさん!」

「今日は帰りましょう。また、お背中お流し致します」


 血だらけの俺を笑顔で迎えるキョウカとエレナ。この一週間、二人はずっと俺の側に付き添いサポートしてくれていた。


「二人共ありがとう。明日はいよいよ決闘、今日はもう帰って体を休める」

「帰りましょ、フォグさん! ほら、顔に血がついてますよ」

「フォグさんの背中は日に日に逞しくなってますわね。この腕も……」

「あーっ! エレナちゃんおっぱい当ててズルいっ! 私もフォグさんにくっつく!」


 キョウカとエレナに両腕を取られながらも帰路につく。平和な日常がこんなに幸せなのも、二人の天使が舞い降りて来てくれたからだ。



「フォグさん傷だらけ~」

「私が治そうとしても断れてしまうんです……」

「これは男の勲章だ。この傷の分だけ強くなる。まあ、夜の戦闘中に息子の元気がなくなったらエレナの力で回復させてくれ」


「うわ~、フォグさん最低~っ!」

「それは良い案ですね」

「ちょっとエレナちゃん! 調子乗るから!」

「でも、いっぱい愛して頂けますのよ?」

「えっ、あー、うーん……」

「フォグさん。キョウカちゃんはいっぱいして欲しいそうですよ」

「あっ! 騙したなエレナちゃんっ!」


 二人に背中を洗ってもらいながら、冗談を聞いて今日の疲れを癒す。一週間前に風呂場に突入してきてからというもの、二人は毎日この調子で突入してくる。お陰で息子を制御するのに一苦労だ。


「ちょっ、フォグさん! そんな堂々と振り向かないで下さいっっ!!」

「今日もご立派でございます」


 俺は息子を諌めるのを諦めた。美少女二人と風呂に入って治まる筈もなかろう。今では二人の美少女に向かって元気一杯にアピールしている。


「良いから風呂入れ。体冷えるぞー」

「「はーいっ」」


 風呂に浸かりつつ明日の戦闘イメージを固めていく。相手は三人。リーダーの金髪は短刀使いでアタッカー。黒髪ロン毛は盾役で敵を引き付けるタンク。赤髪は火のスキルを持っているからこいつもアタッカーか?


 俺の知り得た情報はこんなものだ。まだ知らない情報はあるのだろが、今分かっている事でなんとかイメージを固めなければ。


「フォグさんっ! また難しい顔してる……」

「あんまり考え込むのも良くありませんよ?」


 俺がああでもないこうでもないと考え込んでいると、キョウカとエレナの心配そうな顔が目に入ってくる。


「ああ、そうだな。なるようになるか……それより、二人のおっぱいでも眺めて英気を養うかっ!」

「ちょっと! 凝視しないで下さい!」


「てかさ、俺が全部見せてるのに二人だけ隠してるとかズルくない? 期間限定って言っても恋人なんだし、見せてくれてもいいよね」

「そ、それは……」


「お互い包み隠さず見せようぜ!」

「わ、分かりましたっ! 見せれば良いんでしょ!」


 おっ、体に巻いてるタオルを取ろうとしてるな。

 良いぞキョウカ。そのままガバッと取ってしまえっ。


「キョウカちゃんは騙されやすい性格ですわね。本当に最初に出会ったのがフォグさんで良かった」

「えっ! 私騙されてるの!?」


「まあ、騙されたと思って見せて上げれば宜しいのでは?」

「や、やだよそんなのっ!!」

「チッ、もうちょっとだったのに」


「やっぱり騙そうとしてたんですか!? フォグさんの馬鹿ーっっ!!」

「フフッ、キョウカちゃんは素直で可愛いから、からかって遊びたくなるのも分かります」

「だよなー」


「エレナちゃんまで酷いーっ!」


 家はいつも通り和やかだ。というより、二人がいつも通りの空気を作ってくれているような気がする。俺が過度な緊張をしないように気遣ってくれているのだろう。


 風呂から上がっていつも通り夕飯を食い、他愛もない会話を楽しんだ。


 その晩、俺は明日の決闘が頭に過り中々寝付けないでいた。ベッドの上でモゾモゾとしていると、部屋に誰かが入って来る気配を感じる。


「誰だ? キョウカ?」

「ごめんなさい。エレナです……」


 エレナとは珍しいな。最近だと、「フォグさん寝れない~っ」とか言ってキョウカが来る事はあったが、エレナが来るのは初めてだ。


「どうしたエレナ? 夜這いか?」

「のようなものですね」


 冗談のつもりで言ったが、エレナは至極真面目な様子だった。こういう時に童貞は困る。次にどうしていいか全く検討がつかない……。


「ごめんなさい……困りますよね」

「いや、困るというかなんというか……何かあったのか?」


 俺の問いにエレナは表情を曇らせていた。


「聞いて下さいますか? 私が逃げて来た訳を……」

「……ああ」


 俺は返事と同時に毛布から出てベッドの端に座り直した。横をポンポンと叩くと、エレナは頷いてゆっくりと俺の横に腰を下ろした。


「実は私……人間ではないんです……」


 躊躇いながらもエレナから溢れでた言葉の数々に、俺はただ頷いて聞く事しか出来なかった。教国の闇やエレナの葛藤が深くのしかかる中、俺に出来る事は、エレナの気持ちを受け止めて包む事なんだと自然に理解した。


「そうか……俺にはアドバイス出来る脳ミソは詰まってないが、俺は絶対に仲間を見放したりしない。ほれ、今日は横で寝たら良い。あ、安心しろよ? なにもしないと女神に誓う!」

「フフッ、ありがとうございます……フォグさん」


 ベッドに寝そべると、エレナは素直に俺の横に体を沈めた。横向きに俺をジッと見つめるエレナ。なんだか気恥ずかしさを覚えたが、エレナが安心して眠れるならそれ位我慢しよう。


「もっと近くに行っても宜しいでしょうか?」

「あ、あぁ……」


 返事をすると同時にモゾモゾと近付いてくるエレナ。

 しかしな……近すぎやしませんかね?


「エ、エレナ……足を絡めてくっつくのは無しじゃないか? おっぱいが当たってるんですけど」

「だって、この方が落ち着くんですもの。それに、当たってるのではなくて当てているのです」


「なっ!?」

「ウフフっ」


 無邪気に笑うエレナ。

 なんだかこっちまで可笑しくなってくる。


「ちょっとっ!! なにしてるんですか二人して!?」


 エレナとひとしきり笑いあっていると、血相かいたキョウカが突撃してきた。


「いや、別に?」

「少し愛し合っていただけですよ?」

「ど、どういう事っ!? も、もしかして……」


 青白い顔をして俺達を見るキョウカ。その顔がまた可笑しくて、また笑いが込み上げてくる。


「クックックッ。相変わらずだなキョウカは!」

「フフフッ、そうですね。キョウカちゃんは本当に素直ですわ」

「ま、また騙したなーっ!! てか、なんで二人は一緒に寝てるんですか!!」


「ん? ああ、ちょっとエレナの話を聞いててな。心ぼそいだろうか一緒に寝てやろうと思って」

「あ、聞いたんですねあの話……」


 どうやら、キョウカもエレナの過去を聞いていたみたいだ。その証拠に、俺の説明で素直に納得していた。


「キョウカちゃんには昨日お話していたんです」

「そうか……という訳だ。キョウカも気にせず部屋に戻って寝て良いぞ」

「あ、酷いっ! エレナちゃんが一緒に寝るなら私も一緒に寝るーっ!」


 だろうと思った……。キョウカは、ズカズカとベッドまでやってくる来ると、俺の横へと無理やり押し入ってきた。


「ちょ、狭いわっ!」

「じゃあ私もくっつく! これなら狭くないでしょ!」

「キョウカちゃんも負けず嫌いですね……」


 謎理論でしがみついてくるキョウカ。エレナもエレナで、相変わらずおっぱいを押し付けて離れない。


「いや、お前らさ……俺、明日決意なんだよ? この状況で我慢するの大変なの。ムラムラして寝れないんですよ」

「でしたら……明日、決闘に勝ったら私達の事好きにしていいですわよ? キョウカちゃんもそれで良い?」

「う、うん……」


 えっ、まじ? なにそれ……絶対負けらんねえじゃん!


「絶対だぞ! 本当に良いんだな!?」

「うるさいフォグさん! 約束する……だから勝って」

「私も約束します。だから、どうか無事で私達を抱きしめて下さい……」


 二人の絡まる力がギュッと強まる。この10年冒険者をしてきて、今この時、本当に大切な宝物を手に入れたのだと分かった。


「絶対勝つ」


 俺はそれだけ呟くと、二人を抱き寄せまぶたを閉じる。二人は微かに笑った後、俺の頬にキスをした。


 柔らかくて暖かいその感触を噛みしめるように、俺は誓った。明日、必ず天空に剣を掲げてみせると。

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