21「伝説の現れ」
皆さん明けましておめでとうございます!
新年一発目の投稿です!
「逃げるぞお前ら!!」
「無理ですフォグさんっ! 足が、動きません……」
「私も腰が抜けてしまいました……」
Sランクモンスター"フンババ"。
人間の二倍もの体長と筋肉の塊のような体格。背中から頭にかけて獣の毛皮に覆われ、顔つきは猿と犬を足したような顔だ。
そして、圧倒的な殺意は全身の毛が逆立つほど濃厚で冷たい。
こんな奴に勝てる訳がない。
だが、精神を破壊する恐怖でキョウカもエレナも逃げられる力を失ってしまったようだった。
これは……絶対絶命のピンチだ。
「聖域に入った気分はどうだ?」
恐怖に震える俺達に、そんな声が向けられる。
この声は……イケメン三人組のリーダーである金髪の男の声だ。
「お前どこにいる!? 無事なのか!?」
「ハハッ! こんな時に俺達の心配か? お前は本当に間抜けな男だな! いいか、お前らは嵌められたんだよ!!」
まあ、なんとなくわ分かってた。
だけど、万が一本当なら助けたいと思ってここまで来たんだ。
そっか……嵌められたのか俺。
「そうか。なら作戦成功だな……おめでとう」
「ハッ! 負け惜しみか? まあ良い。精々苦しまないように殺して貰うんだな。ああそうだ……女二人だけなら助けても良いぜ」
「本当か!? なら頼む!!」
「助けても良いが……女二人は俺達の奴隷として扱うぜ? 助けて欲しかったら今すぐ女達の手足を切り落とせ。達磨人形として俺達の精を吐き出す奴隷として面倒見てやるよ」
「そんなの絶対イヤッー!!」
「私も、それなら死んだ方がましです」
そりゃそうだ。それにしてもあの金髪……とことん糞野郎だな。
もし生きて帰れたら、絶対許さねえ!!
「さっさと消えろ糞野郎!!」
「そうか。残念だよフォグ。せっかく女達を助けるチャンスをやったのに……だったら、全員仲良く死ね」
その言葉を最後に、金髪の声が聞こえる事はなくなった。
それと同時に、今度はフンババの威嚇する雄叫びが上がる。
「グオォォォォッッ!!」
「フォグさん……私達、死んじゃうんですかね……」
「止めろよキョウカ! 縁起でもねえ……」
「だってっ! あんなのに勝てる訳ないですよ!」
「そんなの分かってる!! 隙を見てお前達を逃がすから、早く立ち上がれ!!」
勝てないにしても気を引く位出来る筈だ。
俺の命を犠牲にしてもキョウカとエレナは逃がす。
ここまで来ちまったのは、間抜けな俺のせいだしな……。
「フォグさん……」
「フォグさん! 私が気配を消してモンスターの気を引きます! だから、その隙にキョウカさんと逃げて下さい!」
恐怖に震えながらも、最後の気力を振り絞って立ち上がったエレナが俺にそう叫ぶ。
「確かに、それが一番安全な策だろう。だがな……プルプル震えたその足で立つのがやっとなお前に、そんな精神力残ってんのか?」
「だ、大丈夫です! 今消えて見せます! ……あ、あれ? な、なんで消えないの……」
消え入りそうな悲しげな声を上げるエレナ。
やっぱり、スキルを発動させる精神力は残ってねえみたいだ。
「悪い事は言わねえ……今すぐキョウカを連れて逃げろ」
「嫌です! フォグさんを置いていけないよ!!」
嫌々時期の子供のように、涙を流しながら首をブンブン振って嫌がるキョウカ。俺だってこんな所で死にたくなんかねえよ……。
「早く行けエレナ!! 奴が痺れを切らす前に!!」
「は、はい……」
「ヤダよエレナちゃん! 離してよ!!」
俺の鬼気迫る声を聞いたエレナは、嫌がるキョウカの腕を掴み無理やり引っ張っていく。それで良い……それで良いんだ。
「いくぞ化け物!! お前の相手は俺だぁぁぁっー!!」
「グオォォォォッッ!!」
俺は覚悟を決めてフンババへ向かって駆けていく。奴も俺の覚悟が分かったのか、雄叫びを上げて俺を待ち構えていた。
「喰らえこらぁぁっー!!」
駆け寄った勢いのまま飛び上がり、奴の頭目掛けて鋼の剣を上段から思い切り振り下ろす。
「グオォォッ!」
「うあぁぁっ!」
俺の渾身の剣撃を事も無げに腕でガードしたフンババ。
俺はそのままガードされた腕で吹っ飛ばされた。
「ぐっっ……やっぱ、半端ねえ強さだ」
「フォグさん! 早く一緒に逃げようよ! 今の内なら大丈夫だよ!!」
倒れて仰け反る俺に、未だに諦めがつかないキョウカが叫んでいた。出来る事なら、俺もこのまま一緒に逃げたい。だが──
「一緒に逃げたらついて来ちまうだろうが!! オラァァァァッ!! もう一発いくぞコラァァァァッー!!」
俺は何とか立ち上がり、自分でも何処から出てるか分からない雄叫びを上げて、フンババへ再度向かっていく。
多分、この一発で最後な気がする。
だから……さっさと逃げてくれよお前ら。
「グオォォォォッッ!!」
俺の雄叫びに呼応するように威嚇の声を上げるフンババ。俺も負けじと声を張り上げ、最後になるであろう剣撃を奴の腹に向けて放った。
「一発位喰らえよこの野郎!!」
力任せに振った俺の剣撃はフンババのどてっ腹に後少しと迫る。これで少しは報えたと思った。少しでもダメージを与える事が出来れば、二人の逃げる時間も稼げるだろ?
だが、そんな幻想はすぐに掻き消された……。
「グオォォッ!!」
「があぁぁぁぁっ!!」
当たったと思った剣撃は余裕で避けられ、反撃の拳が俺の腹へとめり込む。腹が裂けるような衝撃。その一発で内臓や骨がぐしゃぐしゃなのが容易に想像出来た。
「イヤァァァッッー!!」
そんなキョウカの絶叫を最後に俺の意識は死の淵へと落ちた。
◆◆
背中を伝う冷たい感触──どこまでも暗い視界。
ここは何処だ? 天国か? ……いや、地獄だな。
こんな暗くて冷たい所が天国な訳ねえ。
キョウカとエレナは助かったかな? それにしても、嫌な思い出作らせちまったな……不甲斐ない男で、ごめんな。
横たわりながらそんな事を考えていた。
死んだと分かれば絶望も糞もねえ。
ただ、審判の時を待つだけだ。
そんな俺に、何か眩しいものが近付いて来るのが、暗い視界でも分かった。その光は徐々に俺に近付き、やがて俺の視界を覆い尽くした。
「眩しい……」
「ようやく目覚めたか……女神の使いを守る者よ」
「起きた!! 起きたよエレナちゃん!! やっと起きたよぉぉぉ~。ううぅぅぅ~」
「良かったですねキョウカちゃん……私も嬉しいです。うぅぅ~」
大人の女性の澄んだ声の後に聞こえるキョウカとエレナの声。
俺は……まだ死んでなかったって事か?
「起きろ……女神の使いを守る者。体は十分に癒えた筈だ」
そうか……これはエレナが治してくれたんだな。
でも、この女性の声は誰の声だ? ギルドの職員か?
その疑問を確かめるため、強張った体をゆっくり起こしてみる。
「んうぅっ……」
硬い所に寝かされていたからなのか、体はギシギシと軋みを上げていたが、そんな些細な事は命が助かったのだから我慢しよう。
ぎこちなく上半身を上げ、不確かな情報を確かなものにするために薄めだった目蓋をめいいっぱい広げて視界を開く。すると、俺の両脇にはキョウカとエレナの泣き腫らした酷い顔が待機していた。
「生きててよがっだぁぁぁぁ~! フォグざ~ん!」
「置いて行こうとしてごめんなざーいぃぃぃ!」
俺の顔を確認した二人が泣きながら抱きついてくる。少々うざったいが、女の抱擁を一身に受け、悪い気はしなかった。
「よしよし……心配かけたな二人とも」
泣いて抱きつく二人の頭を撫でて落ち着かせていると、俺を真っ直ぐ見下ろす視線に気付いた。誰が偉そうに見下ろしてんだ? と、その視線の先を見上げてみる。
その先には……今までに会った事がないような美貌と、ゾクゾクするような艶かしい女性の姿が映り、俺の心を否応なしに鷲掴みにしていた。
「あ、貴女は……誰ですか?」
腰まで伸び、艶々した銀色の髪。頭の上には、獣のような真っ白な耳がちょこんと付いている。切れ長の目、鼻筋は高く綺麗に伸び、唇はプルプルと瑞々しい。
獣のような耳以外はまさに女神というべき美貌。だが、縦に伸びたその赤い瞳だけは、俺達と同じ人間とは思えない瞳をしていた。
「我か? そうだな……我に名前などない。だが敢えて言うなら……"獣神"とでも名乗っておこう」
心を鷲掴みにする美貌を持った神々しい女性は、静かにそう名乗った。最早伝説として語られていた聖域の森を守る"獣神"。
その伝説が、俺の前に現れた瞬間……俺は何故か、運命に導かれていたような気持ちになった。




